「新春座談会『女性と農業』 Vol.2 「女性の視点」を生かした商品開発、その効果は?」では、女性の視点を農業経営や商品開発、ブランディングにどう生かしているのか、皆さんの具体的な工夫や取り組みの事例を伺いました。今回は、子育て世代を含む女性の定着率を上げるための取り組みについて。託児所から交換日誌まで、試行錯誤の末にたどり着いたそれぞれのスタイルとは…。
女性の定着率アップに工夫 人手不足感「全くない」
倉石: 圓地さんはいろいろな農家の方を訪問していらっしゃると思うのですが、女性従業員が多い農家さんはどのような工夫をされているのでしょうか?
圓地: 現地では女性の採用の仕方を工夫しているという話をよく聞きました。例えば一般的にどの業種でもそうですが、幼稚園とか小学校とかそういった年齢のお子さんをもつ女性は専業主婦の割合が高くなりますし、子育てなどの理由で定着率が悪くなるという悩みを聞きます。一方、女性の定着率がいい農家というのは、就業時間を午後3時や4時までの子どもの保育園・幼稚園の時間に合わるなど、ある程度柔軟性をもたせた雇用形態にする工夫をしていました。
いま農業界は深刻な人手不足のところも多く、対策について考えることもあります。そんななか、三浦さんの会社のように女性ばかりでやっている農業法人を取材したことがあったのですが、そこは柔軟な雇用形態と就業時間を設けたことで人を雇うことは苦労していないと。人手不足の時代の中でも雇用側の意識と工夫によっては人手不足にはならないのだなと感じています。
倉石: 三浦さん、実際には人が不足しているという実感はありますか?
三浦: 全くないですね。弊社は月3日しか出ない人もいれば、一日3時間しか働かない人もいる。規模に対して約2倍の人数を雇っています。その代わり他の仕事との掛け持ちもOKで、好きに働いていいという、イメージとしては派遣バイト的なイメージですね。マニュアル化がきちんとできていないとまわらないので、そこの整備はしていますが、結局、経営側にとって大事なのは、働くことに対する従業員の価値観をどう大切にしてあげるかだと思っています。
例えば女性の場合出産前と出産後で働くということに対する価値観は全く変わります。私も出産前は「キャリアアップがすべて!」だったのが、出産後には子供の保育園行事で休まなくちゃならなかったりお迎えの時間までに仕事が終えられるかを気にしたり、今までキャリアアップに使っていた時間を家族や子供のために優先して使うようになりました。逆にもっと長く働いて稼ぎたいという人もいるかもしれないし、そういう一人ひとりの働き方に合わせる体制はできていると思います。加えて、それぞれの価値観をどう吸い上げるかというコミュニケーションも工夫しています。
倉石: 定期的に面談やお話をされているのですか?
三浦: 最初の面接の時から家族に同席してもらってみっちりやっています。子供も含めてです。どういう状況なのかを見せてもらうようにしています。あとは、毎日「交換日誌」みたいなのを書いてもらっています。
倉石: 日誌を書いてもらうのは、話を聞くなどの他のコミュニケーションの方法とも違いますか?
三浦: 違いますね。ラインのグループもあるのですが、そのタイムリーさが「リアル過ぎる」ような気がしています。手書きのほうが意外と本心が出るんですよね。ゆっくり考えて自分のペースで書けるからかもしれません。
加工所の隣に託児所を開設
倉石: 確かに。無機質な会議室での面談よりは、自分の空間の方が本音が出やすいのかもしれませんね。澤浦さんは農業法人で初めて事業所内託児所を開設されたわけですが、女性を雇用する上で工夫されていること、苦労されていることはありますか?
澤浦: 託児所を作ってから子育て中の若い女性が10人以上増え、実はうちも人手不足ではなくなってきています。ありがたいことに、今まで手を打ってきたことがあまりにうまくいきすぎて(笑)。ただ、子育て中の女性の採用を始めたときに、男性社員から「子どもが風邪をひいてすぐに休まれたら困る。そんないい加減なことでは職場が回らない」といった意見が幹部会議で出たことがありました。その時には「ふざけるな」とすごく叱りましたよ。「子どもが熱を出したら休んでOK。これは会社の方針だから従え!」と。
しかし一方で、仕事に穴が開いてはいけないので、そこは考えなければならない。自分がその時提案したのは、「1人でひとり分の仕事ではなくて、3人で2人分の仕事をするような工夫をしてほしい」ということ。そうしたら同じ部署のメンバーで1人の子どもが熱を出して休んでも残り2人がちゃんと対応できるように、また、2人休んだとしても1人は必ず対応できるような仕組みを作ってくれた。お客さんから電話が来た時に、誰でも対応できるように。
「まず、柔軟な働き方」が、新たな仕組みをつくる
澤浦: 男性目線だと、「こっからこの時間は絶対職場にいてもらわなくちゃ困る。朝突然の休みは困る」ということになるんだけど、まず様々な柔軟な働き方を認めることで新たな仕組みはおのずと出来てくるのかなと思っています。
一方で、うちの場合重要なのは、重たい物を持つ作業もたくさんあること。そこで活躍しているのが外国人実習生なんです。そういう意味で、うちは託児所を作ったことによって増えた女性たちだけでは回りません。外国人も子育て中の女性も高齢者もそれぞれフォローし合って仕事をやってくれていますね。
倉石: 人と仕事をきちんとマッチさせていらっしゃるのがすごいですね。
澤浦: 実際には、なかなかうまくいかない場合もあるのですが。
倉石: 三浦さんも、急に人が抜けるという場合の対応をされているんですか?
三浦: 基本的に、必要な人数プラス1名に出勤してもらっています。うちはトマトなので、作業を前倒しで進めても損はないので。前倒し、前倒しで進めることで、3人休んでも困らないようにしています。とはいっても、なかなか計画通りにはいきませんが。
大津: 家族経営の立場として一言いいですか?そういった人繰りは、家族経営の場合融通が利きやすい。うちは子どもが4人いて、丈夫なんで風邪はひかないんですがケガが多い(笑)。誰かを雇用して作業を組んでいたら、一人欠けることで全体の作業が予定が狂ってしまうこともあるのかもしれませんが、夫が柔軟というか、家族経営なので子どもが複数いても夫婦どちらかが対応できる。しかもそばにいるので病院にもすぐに連れていける。そこが規模は小さくても家族経営のライフスタイルの良さの一つかなと思っています。
Vol.4は、農業と家族の在り方について。2019年の展望も伺います!
農業を始めたことで家族との関係はどのように変わっていったのか。新規就農者が農業を続けていくための心構えについて、先輩農家ならではのアドバイスも!
【2019新春座談会「女性と農業」】
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