スギと林業
なぜ日本はスギだらけに?
日本の花粉症患者数は非常に多く、テレビの天気予報でも2月から4月ぐらいまでは花粉の飛散予測量が報道されるほどです。この季節はマスクをつけた人で耳鼻科が混み合います。ドラッグストアで花粉症対策の医薬品を購入する人も多いでしょう。
花粉症は1970年ごろから発生しました。第二次世界大戦後の1945年から20年あまりの間にスギが全国各地に植えられ、1970年代からいっせいに花をつけるようになったことが原因です。戦争で荒れ果てた国土に緑をよみがえらせ、また多くの木材を国民に供給するために、加工しやすく幅広い用途に使えるスギが大量に植えられました。
道路がアスファルト舗装されていったことも花粉症の増加に大きく関係しています。山にいるよりも都会にいる方が花粉症がひどくなった経験はありませんか? 地面が土だと花粉は土に落ちて吸着され、再び空中に舞うことはほとんどなく、やがて分解されます。アスファルトの乾いた道路に落ちた花粉は、車の通行や排気ガスなどで舞い上がり、再び空中を漂います。車の多い街は花粉症がひどくなりやすいと感じている方も多いでしょう。
スギ林を伐採できないワケ
外国から安い木材が輸入されるようになり、日本では放置されたスギの人工林が増えています。伐採されないスギは、樹齢が高くなるにつれてより多くの花粉を放出します。
どうせ丸太を売らないなら全部伐採してしまえば?と思う人もいるかもしれません。しかし、大量のスギを一気に伐採することはできません。人工林といっても環境保全の役割を果たしているからです。木には地球温暖化の防止や河川の流量調節などの機能があり、大規模に伐採するのは環境的に負担が大きすぎるのです。
2つのスギ林対策
少花粉・無花粉スギに植え替える
そこで進められているのが、小規模に伐採しながら「少花粉スギ」や「無花粉スギ」の苗を順次植えつけていくことです。国立研究開発法人 森林研究・整備機構は北海道を除く都府県と連携を図りながら、花粉症対策品種の開発に取り組んでいます。2017年度末時点で、少花粉スギ142品種、無花粉スギ4品種を開発したそうです。
「少花粉スギ」は雄花を着けないか、ごくわずかしか着けないスギです。「無花粉スギ」は雄花は着けますが、雄花から花粉を出さないスギです。
成長したスギを切り出して木材に加工し、少花粉・無花粉スギを植え、数十年後に良い木材として高く売れるように手入れをする。この林業のサイクルができれば花粉症患者を減らすことも夢ではありません。
広葉樹を増やす

広葉樹のコナラはドングリの木。花粉はあってもスギほどではありません
少花粉・無花粉スギとともに推奨されているのが、スギの間に広葉樹を植林する取り組みです。針葉樹のスギを間伐してコナラなどの広葉樹を間に植え、段階的に「針葉樹林」を「針広混交林」へ移行する計画です。東京都の多摩地域などが取り組んでいます。
スギ花粉の飛散はいつ減る?
飛散量はしばらく増加の見込み
これらの対策の効果がはっきりわかるまでには、50年ほどの歳月がかかると言われています。残念ながら、当面のあいだスギ花粉の飛散は増加する予測だそうです。花粉症患者にとっては辛い事実ですね。最近では「避粉地」なる言葉まで生まれ、花粉症ピーク時に北海道などスギのない地域へと旅に出る人もいるのだとか。
私たちができるのは、国産のスギ材を買って植林のサイクルを促し、森林への関心を高めることです。スギが悪いのではありません。ひとりひとりの行動が、スギ花粉の減少につながっています。
参考文献:
「知識ゼロからの林業入門」(家の光協会発行)
「花粉症のない未来のために」(佼成出版社発行)
【関連記事はこちら!】
林業って新規参入できるの? 映画「ウッジョブ!」が面白い【林業を知ろう】
ヒップホップから林業へUターンの37歳 “自伐型”で山を守る【林業を知ろう】
国産割り箸は無駄使いではない! 林業ってどんな仕事?【林業を知ろう】