日本の生鮮品流通を支える「コールドチェーン」
コールドチェーンとは、直訳すると「冷たい鎖」という意味で、生産地から流通、消費者まで、分断されない一連の低温の物流網のことを指します。
具体的に日本の野菜の例で説明すると、まず、野菜は収穫後に集出荷場に集められます。そこで等級(品質)や階級(サイズ)の振り分けを行う選果作業や洗浄作業が行われるのですが、その際に鮮度を保つための「予冷」が行われます。野菜は出荷前に「あらかじめ冷やされる」予冷により、初めて低温にされます。ここから、冷蔵トラックに載せられ、時には冷蔵倉庫で保存され、温度管理下にある小売店のショーケースに納められます。消費者はそこから野菜をとってレジを通過してから、家の冷蔵庫にいれて、必要なタイミングで調理をするわけです。
このコールドチェーンが、野菜の代謝を抑えるほか、細菌の増殖も抑制しているので、日本の消費者は鮮度の高い、安全な食を楽しむことができます。
東南アジアでは未発達のコールドチェーン
海外に目を向けると、新興国を中心にコールドチェーンが未整備な国も少なくありません。予冷施設を持っていないところも多く、野菜は収穫後、屋根のついていないトラックに載せられ、炎天下のなか消費地に運ばれています。

著者撮影。タイのレタストラック
この劣悪な物流環境で品質劣化がおこるため、食料廃棄を多く発生させてしまいます。
一方で消費は拡大しており、スーパーやコンビニが増えています。その結果、冷蔵食品の需要は急増しています。日本の近隣である東南アジア地域でも、その傾向は顕著です。
生鮮品以外の値も含まれてしまっていますが、英調査会社ユーロモニターによると、東南アジア主要6カ国(タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナム、マレーシア、シンガポール)での冷蔵・冷凍食品の消費量は2020年に合計で211億ドル(約2兆3000億円)と、10年に比べて2.4倍に増えることが予測されています。
東南アジアでは、冷蔵食品の需要にあわせて、コールドチェーンの整備が求められているわけです。
東南アジアのコールドチェーン整備に動く日本政府と企業
これから東南アジアで急激なコールドチェーン整備が行われるなかで、日本も貢献できることがあるだろうと、政府・企業ともに活動を進めています。
2017年より、日本政府は国土交通省の主導で「日ASEANコールドチェーン物流プロジェクト」を立ち上げ、低温物流インフラの改善支援を行っています。具体的な取り組みとしては、各国の低温物流のガイドラインや国際規格の策定、日系物流企業やメーカーの紹介などがあります。
また、各物流会社の進出も進んでいます。ヤマトホールディングスは2017年にタイの大企業サイアム・セメント・グループと合弁会社を作り、保冷宅配便のサービスを開始しました。また、マレーシアでは、郵船ロジスティクスが現地企業を買収し、低温物流事業を開始しています。ミャンマーでも、双日(そうじつ)が現地の小売・流通分野最大手のシティー・マートと資本業務提携を結び、進出しています。ここでは一部の例しかあげることができませんが、需要の拡大に合わせて、日系物流企業が次々と東南アジアへ進出しています。
生鮮品流通の基盤を支える低温物流「コールドチェーン」。日本では当たり前になったこのインフラは、東南アジアで今、求められています。生産地から消費地まで一気通貫で物流網を構築する必要があるため、ゼロからの構築は容易ではありません。東南アジアのコールドチェーン構築のなかで、日本がどういった役割を担うことになるのか目が離せません。
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