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企業も都市農業に参入できる? 新法によって広がる可能性【進化する都市農業 #6】

連載企画:進化する都市農業

企業も都市農業に参入できる? 新法によって広がる可能性【進化する都市農業 #6】

今年(2019年)2月22日、東京都日野市で一人の女性が新規就農したことが発表されました。このニュースは日経・朝日などの全国紙でも「新法を活用した全国初の都市農地での新規就農」として紹介されました。都市農業への新規参入はそれほどまでにハードルの高いこととされていたのです。しかし、方法によっては個人であろうと企業や団体であろうと今までも都市農業に参入することは可能でした。一体どのような方法があるのでしょうか?

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都市農地で「レストラン」「直売所」を開設できる?

日野市での新規就農について日野市長が記者会見まで開いて大々的に発表した背景には、都市農地(市街化区域農地)の貸し借りが2018年9月の「都市農地の貸借の円滑化法」施行までは非常に難しかったということがあります。
しかし一連の都市農業関連の大幅な規制緩和(詳しくは「進化する都市農業 #2」参照)では、新規就農者だけではなく企業や団体も都市農地を借りることができることとなり、農家レストランや直売所の開設可能性についても期待が集まっています。

進化する都市農業

都市農地の貸借についての勉強会には多くの企業関係者が出席した(東京・赤坂「東京農村」にて)

とはいえ、飲食関連事業者が都市農地を借りてレストランを開設したり、青果流通業者が農地で直売所を開設できるかというと、実現は非常に難しいと思われます。飲食店にしても直売所にしても農家自らが開設しオーナーとして運営するのであればまだしも、営業不振や倒産などによって数年以内の撤退の可能性がある以上、よほどの好条件が整っていなければ企業等による飲食・小売等を前提とした農地貸借許可はまず下りないでしょう。
では、どのような事業であれば可能なのでしょうか?

企業が都市農業に関わる方法

実際に企業が都市農業に参入している例としてはどんなものがあるでしょうか?

1.市民農園・体験農園の運営

「体験農園マイファーム」(株式会社マイファーム運営)や「シェア畑」(株式会社アグリメディア運営)が展開している方法です。農家が開設する農園の運営サポートをするという形をとっているところがほとんどで、企業による都市農地活用の先鞭をつけたと言っていいでしょう。

進化する都市農業

マイファームでは畑へのキッチンカーの出張イベントも開催

2.地場野菜流通

東京・国立市に拠点を置く株式会社エマリコくにたちは、「東京農業活性化ベンチャー」を名乗っていますが農地を運用しているわけではありません。ほぼ毎日、集荷の車を走らせて合計100軒ほどの地場農家を回り、JR中央線沿線の駅近で青果店を3店舗運営するほか、その野菜をメイン食材とすることを売りにした飲食店も3店舗開いています。
流通と飲食なので農業参入とはいえない、という考え方もあるかもしれませんが、地域密着で農家と日々コミュニケーションをとりながら駅近を選んで出店しているという点で「農家の営業販売の代行業」ともいえるでしょう。

進化する都市農業

1日2回、地場農家の農産物を集荷して販売する直売所「のーかる」(東京・立川/運営エマリコくにたち)

都市農地を使って体験を提供するか、もしくは地場野菜流通など生産物で勝負するかの2つの大きな選択肢を紹介しました。
都市農地の貸借ができることになったので、これからは企業が農業生産のために農地を借りて自社ブランドで生鮮品や加工品を販売する、もしくは観光農園を運営するというところも出てくるかもしれません。

農地を借りなくても新規参入はできる

都市農業関連の法律ができたことで、企業をふくめ新規参入しやすくなったのは確かですが、今までも参入できなかったわけではありません。先ほど紹介したマイファームが京都で農園を開設したのは2007年。私が東京国立市で宅地を使って市民農園を開設したのが2010年。2011年にはエマリコくにたちが「くにたち野菜」に特化した八百屋「しゅんかしゅんか」をオープン、2012年にはアグリメディアの「シェア畑」もスタートしています。
ちなみに私自身も現在のNPO法人くにたち農園の会の前身となる団体で市を介して農地を貸借し2013年「くにたち はたけんぼ」を開設。2014年には株式会社農天気を設立して「はたけんぼ」などを拠点に農サービスを提供してきました。
非常にニッチではありましたが志と工夫さえあれば都市農業は完全に閉ざされた世界ではなかったのです。
農地を借りて飲食店や直売所、観光農園を開設するのではなく、宅地に建造物を作り、隣接もしくは近隣の生産者と連携してサービスを提供するという合わせ技をとれば今までもさまざまな事業参入のかたちがあったと思います。また、私がかつて運営していた市民農園は宅地を使っての開設でしたので、都市農地関連の法律に縛られることもありませんでした。必要なのは都市農業の価値をどこに見出して、それを消費者に届くよう魅力的な商品として販売できるかどうか?ということだと思います。
利益を出して持続的な経営につなげるのは容易ではありませんが、それはどんな事業においても同じでしょう。

進化する都市農業

大手食品企業が消費者への広報として開催した農体験プログラム

とはいえ、今まで関わることすらはばかられた生産緑地や納税猶予農地の貸借ができるようになったのは大きな変化です。NPO法人くにたち農園の会でも早速新法にのっとった生産緑地貸借で体験水田を拡大できるよう準備中です。
これからさらに思いもよらぬアイデアで都市農業を盛り上げてくれる事業者が出てくることを期待しています。
次回は私が考える「都市農地の価値を最大化する方法」についてアイデアをいくつか紹介します。

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