日本酒はお米を磨けばいいってもんじゃない? 日本酒界のセオリーへの挑戦!【精米編】
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日本酒はお米を磨けばいいってもんじゃない? 日本酒界のセオリーへの挑戦!【精米編】

連載企画:お米ライターが行く!

日本酒はお米を磨けばいいってもんじゃない? 日本酒界のセオリーへの挑戦!【精米編】
最終更新日:2019年04月09日

「日本酒はお米を磨く(削る)ほど雑味がなくなりすっきりとした味わいになる」と言われています。中には、精米歩合(※1)10%以下、つまり90%以上もお米を磨いた日本酒も存在しますが、果たして本当にお米を磨くほど雑味がなくなるのでしょうか? 精米のプロと酒造のプロがタッグを組んで、“磨かずとも雑味のない酒”造りに挑んでいます。その酒造りを通して雑味の疑問に迫ります。
※1 米の精米の程度を示す比率で、お米を磨いて残った部分の割合を示す。

お米を磨かないとお酒に雑味が出るって本当?

一般的には、お米の中心部には日本酒造りに欠かせない糖分となるデンプン質が多く含まれ、お米の外側(ぬか層)にはうまみだけでなく、雑味のもととなるタンパク質や脂質、遊離アミノ酸(※2)が多く含まれていると言われています。

しかし、これに対して疑問を抱いたという福島県・会津坂下町の酒蔵「曙(あけぼの)酒造合資会社」の代表社員で製造責任者の鈴木孝市(すずき・こういち)さん。「磨いてない酒造りをすることもせずに、最初から『雑味があるから』と教科書通りに磨いてしまうのは、自分で酒造りをしているのではなく、酒の製造技術に造らされている感じがどうしても引っかかりました」

※2 タンパク質を構成しないアミノ酸のことで、水や唾液に溶けて味を感じさせる物質。

お米の精米

曙酒造の鈴木孝市さん

そんなとき、東京・清澄白河の米店「ふなくぼ商店」代表の舩久保正明(ふなくぼ・まさあき)さんに出会いました。舩久保さんは、以前から「お米の外側はごはん(飯米=食用米)では“うまみ層”と言われる一方で、日本酒の場合はなぜ“雑味”とされているのか」と疑問を抱いていました。

お米の精米

ふなくぼ商店の舩久保正明さん

米の外側に含まれる成分について追究していた舩久保さんが、鈴木さんに差し出したのは、お米の外側を磨く精米の工程で出る「ぬか」。米の外側といっても、お米には外側から「果皮(かひ)」、「種皮(しゅひ)」、「糊粉層(こふんそう)」、「亜糊粉層(あこふんそう)」などがあり、精米歩合がわずか数%違っても、磨いた部分に含まれている物質は変化していきます。玄米と精米後の白米を見ても分かるように、精米で出たぬかを見ると、最も外側を磨いたぬかは茶色く、内側に行くに従って、白度(お米の白さの程度)が増していきます。

舩久保さんからこのぬかをなめるように言われた鈴木さん。なめてみると、層ごとにぬかの味が違うことに驚いたと言います。「ぼくはその時点でとても疑問がわきました。なんでこんなに米ぬかの味が違うのか、米の磨き歩合によって酒にどれだけの変化があるのか……」(鈴木さん)

「日本酒はお米の酒」ではありますが、18%近い高いアルコール度数を出した酒を飲みやすくするために加水するだけでなく、日本酒によっては原料米を50%以上磨く場合もあります。「酒造にはお米が大事」とは言われていながらも、現実には磨きに磨かれてしまうお米。鈴木さんはこうした現状に対して「果たして、お米の品種や栽培法に意味はあるのだろうか…」という疑問を抱かずにはいられませんでした。

精米機の掃除もお米の味を左右する!

舩久保さんは、すべてのお米の甘み、うまみ、苦み、渋みの含有量、バランス、分布個所は、栽培や品種により異なると考えています。そして、「雑味が出るか出ないかは精米によって大きく左右される」と考え、雑味を出さない、かつ味のバランスを考えた精米を試行錯誤し続けてきました。

日本酒の原料となるお米は、一般的に大型精米工場などでは「研削式」と呼ばれる精米機を使います。研削式とは、「単純に言うと、丸い砥石が回っているところを米が落ちていく」(舩久保さん)という精米方式。出っ張っている部分から磨かれていくため、お米が丸くなっていきます。

一方で、舩久保さんが使っている精米機は米店で一般的な「摩擦式」。基本的には、お米の粒と粒がこすり合わさって磨かれていくため、私たちが食べている白米と同じように、お米の形状を保っています。

舩久保さんが精米時に気をつけていることは、第一に精米機の掃除。どんなに精米に気をつかっていても、精米機の掃除がおろそかになると微妙な精米はできず、すべては台無しになってしまうのだと言います。

お米の精米

精米するごとにさまざまな道具を使ってぬかを掃除

「ぬかには油分や水分が含まれているので、精米機の中のあらゆる部分にくっつく。精米機の内部の網目にぬかが詰まると、ぬか切れが悪くなってしまう。ぬか切れを良くするために圧力を強めて精米すると、米は熱を持ち水分は失われる。ぬかを吸い込むブロア(送風機)の吸引量を強くすれば、たとえば空気が乾燥した冬場はお米が乾燥しやすく割れやすくなってしまうのです」と舩久保さん。ふなくぼ商店の精米機は精米するごとに一日に何度も掃除するため、簡単に分解できるようにネジ部分などを独自に改造し、精米機もカスタマイズしています。

精米の温度負荷はお米の大敵!

ぬかが詰まって精米の圧力を強めると当然、温度も上がってしまい、お米に負荷がかかってしまいます。しかし、精米時の温度も重要です。高い温度はお米の大敵。保管は一般的には15度以下と言われ、精米は40度以下が望ましいとされています。

しかし、単純に温度が低ければ低いほど良いというわけではありません。

ふなくぼ商店では、外気温が0〜5度など低い冬でも、エアコンを回し続けて13度前後を保っています。「『外のほうが寒いわけだからエアコンを回すのは無駄では』と言われることもあります。たしかに、米の保管だけのことを考えると、その通り。でも、たとえば3度の米を20度の精米所に持ってきたら、温度差が17度もあります。お米がキンキンに冷えた状態で精米したら、機械を動かすことによって発生した熱も相まって、温度差で割れたり劣化したりしてしまいます」と舩久保さんは言います。

お米の精米

精米による穀温の上昇も考慮しながら温度管理

さらに、温度による負荷をいかにかけないかということに加え、数回に分けて段階的に精米する際、お米がある程度熱を持っているうちに次の精米に移ることで、温度差による割れや劣化も防ぎます。一方で、蓄熱の蒸れによる劣化を防ぐためにお米の流れを調整するなど、温度や温度差への配慮を徹底しています。

磨かないと雑味が出る? 磨くから雑味が出ない?

では、雑味を出さないように精米するためには何が必要なのでしょうか。

実際に、曙酒造の日本酒の原料となる2018年産「山田錦」を精米する工程を舩久保さんに見せてもらいました。この山田錦は、舩久保さんが自らも稲の成長の様子を確かめたいということで、曙酒造に近い舩久保さんの契約農家、福島県喜多方市「やまだズ」の山田宗輝(やまだ・むねてる)さんに栽培を依頼したお米です。

舩久保さんによると、胚乳(白米部分)の外側には、「プロラミン」と呼ばれる米の吸水を阻害するタンパク質が多く含まれているというデータは存在していますが、それが米粒の背側なのか腹側なのか、粒全体に均一なのかという確かなデータは見つからないと言います。

お米の精米

山田錦の米ぬか

一方で、お米を食べるときは、ぬか層には「うまみ」が含まれていると言われ、あえて外側のぬかをわずかに残した精米をする米店もあります。舩久保さんは、ぬか層には「雑味」となる成分だけでなく、「うまみ」や「甘さ」も含まれていると考えています。つまり、「磨くから雑味がない」「磨かないから雑味がある」と一概には言えず、ぬか層に含まれている成分が「雑味」として表れるか、「うまみ」として表れるかは、米質と精米次第。「どんなお米でも磨けばいい」「どんなお米でも薄皮一枚残せばいい」というわけではないのです。

お米の精米

お米の見た目だけでなく、生米のままかじって精米状態をチェックする舩久保さん

舩久保さんは精米する前から精米歩合を決めるやり方ではなく、その米質を見ながら、どの程度磨いたら良いかを決めていきます。今回の山田錦は米質を見たうえで、3回に分けて精米。最終的には、精米歩合87%まで磨いて仕上げました。そして、割れたお米のほか、虫食いや菌にやられた「被害粒」などをはじくために、お米をふるいや選別機に計5回かけました。

その理由について、舩久保さんは「雑味の一つは、被害粒が原因である部分が大きい」と言います。

たしかに、選別外のお米だけを炊いて食べてみると、べとっとして、酸っぱいにおいがして、にがくて、えぐみがあります。

鈴木さんは以前、舩久保さんが精米した「瑞穂黄金(みずほこがね)」という飯米と、研削式を使っている大型精米所で精米した同じ「瑞穂黄金」を使って、それぞれ醸造しました。すると、大型精米所で精米したお米で造った日本酒のしぼりかすにだけ、ピンク色のようなものが残っていました。この正体について、舩久保さんは菌だと推測しています。一般的には虫食い(カメムシの被害粒)やシラタ(乳白色の未熟粒)などに照準をあわせて色彩選別機にかける場合が多いため、こうしたピンク色の物質の要因と見られる被害粒は見逃されてしまいがち。だからこそ、舩久保さんはお米を5回もふるいや選別機にかけているのです。

磨いて出たぬかをなめてみると……

「米粒の外側の90%(精米歩合90%のお米の表面)前後の部分には、タンパク質、アミノ酸、脂質などいろいろな成分が存在していますが、そこより内側の部分はほとんどがデンプン。ただ、80%台の部分にはタンパク質が含まれていて、それがうまみや雑味などの味に影響しているのではないかと思っています」と舩久保さん。実際に、1回目に精米して出たぬか、2回目に精米して出たぬか、3回目に精米して出たぬかをなめさせてもらいました。

お米の精米

米ぬかはそれぞれ色も違えば口当たりも違い味わいも違う

1回目、91、92%まで磨いて出たぬかは砂のような色で、香ばしさと甘さの中に若干のえぐみがあります。

2回目、さらに89%まで磨いて出たぬかは、1回目のぬかよりも白くなり、繊維質が少ないぶんねっとりとしていて舌にまとわりつきやすい。ストレートな甘みがあります。

3回目、さらに87%まで磨いて出たぬかは、さらに白くなり、あまり味を感じられません。

「結局、どの層にどういう味が集中しているかは米によって違う。強いか弱いか、深いところまで味が入っているのか、浅いところで終わっているのか、それはすべて栽培に起因しているので、すべてが均一ではありません。飯米では外側のうまみ層を残したほうがいいと言われていますが、どの米も外側を残せばいいわけではない。米質によっては、おいしくない要素を残してしまうことになる」と舩久保さん。山田錦も炊いて食べてみると、生産者によってそれぞれ味が違うと言います。一律に「外側に雑味があるから磨く」とは言えそうもないということが分かってきました。

日本酒はお米を磨けばいいってもんじゃない? 日本酒界のセオリーへの挑戦!【醸造編】」では、舩久保さんに山田錦の精米を依頼した曙酒造の酒造りについて見ていきます。

【関連リンク】

ふなくぼ商店

曙酒造

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