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プロに聞く! 失敗しない種の選び方【脱枯れ専のベランダ畑】

連載企画:脱枯れ専のベランダ畑

プロに聞く! 失敗しない種の選び方【脱枯れ専のベランダ畑】

この春、新しく野菜の栽培を始めてみようと考え、種を購入予定の方もいるでしょう。しかし、園芸店などを訪れると、たくさんの種が販売されていて、どの種を選べばいいか意外と迷うものです。また、情報の読み方が分からなかったり、保管方法に不安を覚えたりする方もいるかもしれません。今回はそんな初心者が抱く疑問や不安を携えて種苗メーカー大手の「株式会社 サカタのタネ」を訪問。種のプロフェッショナルである清水俊英さんと藤田杏奈さんにイチから教わってきました。

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種袋には情報が詰まっている!

初心者が見逃してはいけないポイントとは?

お話を聞いた清水さん(右)と藤田さん(左)

【プロフィール】

◆清水俊秀(しみず・としひで)
1987年岩手大学卒業。同年、株式会社サカタのタネ入社。芝草・緑肥種子の販売に長く携わり、資材統括部長を経て、2009年広報宣伝部長に就任。樹木医、認知症予防専門士。自宅のベランダにて実際に家庭菜園を楽しむ。

◆藤田杏奈(ふじた・あんな)
2016年株式会社サカタのタネ入社、広報宣伝部配属。アパートのベランダにて野菜を育てたり、実際に畑に行ってみたり と、植物勉強中。


 

──ホームセンターや園芸店には様々な種類の種が置かれています。見ているだけで楽しいものですが、たくさんあると初心者としては何を選んだらいいのか迷ってしまうこともあると思います。

清水:そうですね、初心者の方が野菜を種から作るのなら、まずは葉物から挑戦するのがいいと思います。例えば、レタスやコマツナ、秋ならホウレンソウなどもいいですね。葉物は育てる期間が短く済みますし、栽培しやすいものが多いです。だって、葉っぱを育てればもう食べられるわけですから。

一方、根菜は葉っぱを育てた上でしっかりと根っこも育てないと食べられない。さらに実をつける果菜類は、葉っぱを育てて花を咲かせて実を育てるところまで全部のステージをやらないと収穫に至りません。ですから、一番簡単なのは葉菜、次はどちらかというと根菜、一番難しいのは果菜になると思います。もし、初めての方でトマトやナスなどに挑戦したいなら断然、苗の方がいいです。

──なるほど。では葉物を選ぶとして、次はどこに注目するといいでしょうか?種の袋には色々なことが書かれていますが、やはりちゃんと見たほうがいいんでしょうか?

清水:ぜひ見てもらいたいですね。種を販売する人間からすると、種袋の情報は宝です。薄い冊子1冊分くらいの情報を濃縮してピンポイントに必要なことだけを抜き出して書いてあるんです。特に注目して欲しいのは、まく時期ですよね。これを間違えると必ず失敗します。

種袋には様々な情報が書かれている

時期を逃すと種はどうなるか

──まく時期を見ると、例えば4月上旬から6月下旬のように幅がありますよね。この期間中なら最初でも最後でも関係ないんですか? それとも真ん中あたりがいいものなんですか?

清水:期間中ならどこでも大丈夫です。ただ、やはり真ん中あたりが作りやすいと思います。例えば、4月から6月がまき時の場合、4月の頭だと少し寒がってしまったり、逆に6月の終わりだと暑がってしまったりすることはあります。一方、ミズナやコマツナのようにほぼ通年栽培できる葉菜は、春、秋の暑すぎず寒すぎない気候の頃にまくのが良いと思います。

ベビーキャロット(左)ミズナ(右)の栽培時期の目安(点線部分)

──うっかり時期を逃してしまうこともありそうです。そうなると発芽しなかったり、育たなかったりするんですか?

清水:発芽しにくいということはありますよね。温度が低ければ発芽しづらいし、高過ぎても発芽しづらい。発芽後も、例えばビニールで保温するなど工夫次第でうまくできることもありますが、基本的にはあまりお勧めしません。というのは、温度だけでなく日の長さなども影響してきますので。

ですから、そもそも購入するときに、自分が住んでいる地域が当てはまるところ、例えば横浜だと「温暖地」で、いつまける種なのかはよく確認していただきたいですね。

──私も購入した種のまき時期が外れていてまけなかった経験が……。

清水:それはもう、最低限見て欲しいですよね。

期限・量・値段……商品としての種のカラクリ

有効期限=種の寿命ではない!?

──有効期限も大事そうです。この期限はそもそもどうやって決まっているのですか?

清水:これは種苗法の決まりで、発芽試験をした日から一年間を有効期限にしていいということになっているんです。例えば、これなんかは有効期限が2019年10月ですから、2018年の10月以降に検査したということですね。

市販の種には有効期限が書かれている

──えっ、検査の日にちで決まっているんですか? 種の寿命とは関係ないんですか?

清水:基本的には関係ないです。法律で定められた商品として流通させていい期間ですね。もちろん、法律とは別に比較的長く生きる種もあれば、短い間に発芽率が落ちていくものもあって、例えばトマトやブロッコリーなどは比較的長命だけど、ニンジンなどは短命だと言われています。

──ということは、発芽率が書かれていますが、有効期限が近づくほど落ちていくということですか?

清水:厳密にいうとそうですね。発芽率は検査の時点でこれ以上出ますよっていう数字なので。ただ、普通にまく分には全然問題ありませんよ。

牛乳などもそうですよね。製造後1週間が賞味期限になっているとして、厳密にいうと日毎に鮮度は落ちている。でも、飲んで影響があるかっていうとないですよね。それと同じで、種も一年間は実用に供するのに十分ですよってことですね。ただし、これは未開封の場合なので、開けたら早めにまいた方がいいです。

消毒・コーティングは何のため?

コーティングを施したニンジンの「ペレット種子」

──他には、消毒の有無が書かれていたり、「ペレット種子」とか「プライマックス種子」などと記載されていたりすることがあります。

清水:消毒については、しなくても育てやすい種もありますが、例えば初期の立ち枯れ病などが出やすい野菜には予防目的で使っているものもあります。

藤田:ペレットシードは形がいびつだったり、とても微細だったりする種にコーティングを施し整形してまきやすくしたものです。プライマックス種子は主にホウレンソウなどですが、種の大きさを均一にして特殊処理したもので、芽出しの必要がないんですよ。あとは、クリーンシードといって発芽抑制物質を含む毛などを取り除いたものもあります。

粒で数えるのか、ミリリットルで測るのか

──内容量のところをよく見ると、「粒」で記載しているものと「ミリリットル」のものがありますね。

清水:まき方の違いですね。例えば果菜類は基本的に苗を作りますよね。例えばこのナスの場合、苗40本と書かれています。実際には40粒より多く入っているんですが、苗が40本育つという意味ですね。一方ベビーリーフなんかはたくさんバラまきするので、あまり本数で勘定しない。それで何ミリリットルという書き方になっているんです。

内容量の記載方法には違いがある

──「ベビーサラダミックス」なんて2100本育つと書いてあるんですよ! 毎日食べても追いつかなそう。2100本もどうしたらいいのか……。

清水:そういう初心者の方向けに、分包になっていて切り離して使えるタイプもあります。育てたい量に合わせて使えますよ。

切り離して使えるようにシーリングしてある「スピーディベジタブルシリーズ」の袋

藤田:レタスのほか、ラディッシュ、コマツナ、バジルなど20〜50日くらいで育つものがいろいろあります。同じシリーズに水で膨らむ土と袋状の栽培容器のセット「袋で育てるはじめてセット」もあるので、こうした小さなもので手軽に始めていただくのもいいかもしれません。

10センチ四方程度の袋がついた土のセット

ぬるま湯を入れて10分程度で土ができる

──値段の話が出ましたが、そもそも種の値段はどうやって決まるのでしょう? 100円ショップでは2袋で100円のものがあったりして、何でこんなに安いのかと驚きます。

清水:他社さんのことは分かりません(笑)。ただ、理由の一つには入っている量が違うということはあると思います。あとはパッケージの材質も違いますよね。弊社では袋が多重構造になっているシリーズもあって、内側を見るとわかるんですが、アルミが入っていたりする。ガスや湿度の透過率をチェックして発芽率が落ちない工夫がしてあるんですね。

──袋にもこだわりがあるんですね! ……でもちょっと待ってください、サカタさんの種の中でも、例えばこの「オレンジアイコ」は一袋13粒、対して「ベビーサラダミックス」は少なくとも2100粒以上入っていてアイコより種袋の価格は安いんですよ。なんでこんなに違うんですか?

藤田:トマトのような果菜は種をとるのに手間がかかり、取れる量も少ないです。それに比べると葉物野菜は一般的に種を取りやすく、取れる量も多い。それに、葉物は育てた株がそのまま収穫物になるので種をたくさん使いますが、果菜は一つの種から株を大きく育て、そこからたくさん収穫するのでたくさんの種を必要としませんよね。

──なるほどー! 種一粒の見方が変わりそうです!

 

◆サカタさんの話、もう少し続きます。次回は余った種の保管方法やオススメの野菜、栽培のコツについても伺いました。

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