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お米に目覚めた編集長が創刊!「あづまっぺ。お米を食べる通信」

柏木 智帆

ライター:

連載企画:お米ライターが行く!

お米に目覚めた編集長が創刊!「あづまっぺ。お米を食べる通信」

「1年間、お米を買わなかったことがある」という女性が編集長を務める、お米をテーマにした「あづまっぺ。お米を食べる通信」が6月に創刊します。「食べる通信」とは、食べ物を作る人を特集した読み物と、その人たちが作った食べ物をセットにした定期刊行の“食べ物付き情報誌”。この編集長がお米とお米を作る人たちの物語を届けていこうと思ったきっかけとは?(写真提供:佐藤博子)

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お米を買わなかった1年間で学んだこと

「食べる通信」は、東日本大震災後に立ち上がった「東北食べる通信」を皮切りに全国各地へ広がり、現在は国内37誌、台湾4誌の計41誌が刊行されています。新たに創刊する「あづまっぺ。お米を食べる通信」は、福島県と山形県にそびえる吾妻山をぐるりと囲む地域のお米(2〜3合)と、お米に合う食材(野菜、肉、加工品など)、その食材を特集した情報誌を年4回にわたって届けていきます。

「あづまっぺ。お米を食べる通信」を立ち上げ、編集長を務める佐藤博子(さとう・ひろこ)さんは、福島第一原発事故が発生した2011年の秋から1年間、お米を購入しませんでした。それまでは福島県・中通り地域で義父母が栽培したお米をもらっていましたが、当時幼かった佐藤さんの長女への影響を心配した義父母がお米を渡すのを遠慮したそうです。

「娘は保育園などでお米を食べる機会があるので、私たち夫婦はパスタやパンでいいかな」。そう感じた佐藤さんは、その年はお米を買わないことにしました。ところが、お米を食べない生活に変えたところ、当時の仕事のストレスも相まって、体重が30キロ増加。頻繁に熱が出たり風邪をひいたりと体調を崩しがちになってしまいました。翌年になって再び義父母からお米をもらうようになり、なるべく自炊をするようにしたところ、「体重もゆるやかに減り始めて、高すぎた血圧も落ち着いてきた。何よりも家族みんなが風邪をひかなくなった」(佐藤さん)と言います。

お米の精米

2011年は佐藤さんにとってお米の大切さを実感する年となった。ちなみに、「あづまっぺ」は「集まろう」を意味する福島県・山形県の方言

お米を中心とした食生活の大切さを実感した経験も、のちの「あづまっぺ。お米を食べる通信」の実現を後押しする要因となったと佐藤さんは言います。

子どもと一緒に大人も学んだ

その後の佐藤さんは、震災・原発事故後に避難した親たちの交流の場を作る活動を行ってきた「NPO法人アイカラー福島」に2017年から参画。福島の子どもたちが地元の食材の魅力を学んで発信していくプロジェクト「あがらっしゃい!ふくしまのおいしい発信」を企画・運営しました。

「当時、スーパーに行っても福島県産を買っていいのかどうか分かりませんでした。県知事やTOKIOはテレビCMやニュースで安全だって言っているし、安全なのかもしれない。でも、子どもたちはそんなふうに迷っている親の姿を見て育って、大人になったときに『福島の食べものは安全です』と周りの人に言えるのかなあと思ったのです」(佐藤さん)

そこで、「あがらっしゃい!ふくしまのおいしい発信」の第1期の最初の回では、福島県の放射能の現状や食と農の安全対策に詳しい福島大学農学群食農学類(当時は経済経営学類)の小山良太教授に依頼して、福島県の農産物の現状などについて子どもたちに分かりやすく説明してもらいました。その後も、子どもたちが地元の農園を見学したり、地元食材を使って子どもたちが考えたオリジナル料理を実際に子どもたち自身の手で作って販売したりとさまざまな活動を行ってきました。

お米の精米

「あがらっしゃい! ふくしまのおいしい発信」第2期で子どもたちは田植えや稲刈りも体験。ちなみに、「あがらっしゃい」は「お召し上がりください」を意味する福島県・山形県の方言(写真提供:佐藤博子)

プロジェクトを通して、子どもたちと一緒に自身も地元の食と農について学んでいったという佐藤さん。そして、このプロジェクトの縁で参加した、福島市と川俣町のお米を食べ比べて金賞を取るお米を当てる「ふくしま・かわまた米コンテスト」で、10種類のお米を食べ比べたことも転機となりました。「普段は1つの炊飯器で1種類のお米しか炊かないので、お米の食べ比べは初めてでしたが、同じ銘柄でも生産者によってこんなにも味が違うことに驚きました」と佐藤さん。「いろいろなことを体験しながら、少しずつ『あづまっぺ。お米を食べる通信』につながっていった」と振り返ります。

「お米はむずかしい」への挑戦

2018年冬、佐藤さんは知り合った農家から「食べる通信」の存在を教えてもらいました。佐藤さんの本業は印刷業。すぐに「これだ」とピンときたと言います。「印刷業でメディアを作ってきた経験を食につなげて、いろいろな人に届けていきたい」(佐藤さん)

それから創刊が決まるまでの動きはスピーディーでした。約8カ月後の2018年12月、全国の「食べる通信」編集部による連盟組織「日本食べる通信リーグ」の定例会議に出席。「あづまっぺ。お米を食べる通信」の企画をプレゼンテーションして見事に創刊が決まりました。

お米の精米

各食べる通信の編集長が集まる定例会議でプレゼンテーション(写真提供:佐藤博子)

目標発行部数は300部。現在は、クラウドファンディングも使って購読者を募集しています。初回は、山形県産のお米「つや姫」と山菜「うこぎ」、その生産者を特集した情報誌を届けます。

うこぎ

創刊号では山形県産「つや姫」と共に山形県産「うこぎ」が届けられる。葉はごはんに混ぜて「うこぎめし」に、茎は湯がいてお浸しなどで楽しめるという(写真提供:佐藤博子)

実は、「食べる通信」には、かつてお米をテーマにしたものがありましたが、休刊になっています。自宅で炊飯する人の減少や、あって当たり前の日常食で嗜好(しこう)品ではないことから、お米の販売には米屋も直販農家も苦労している昨今。プレゼンテーション後、佐藤さんも事務局から「お米はむずかしいですよ」と言われたそうです。

うこぎ

子どもと共に佐藤さん自身もさまざまな学びを得た「あがらっしゃい!ふくしまのおいしい発信」の稲刈り(写真提供:佐藤博子)

それでも、これまで子どもたちと一緒に地元のお米への思いを育んできた佐藤さんはぶれません。

良質なお米として多くが家庭向けだった福島県のお米は、8年前の原発事故後は風評被害の影響もあり、多くは“良質で安価なお米”として中食や外食で使う業務用米に使われるようになっています。佐藤さんには「おいしいお米として個人の消費につながっていた震災以前のように戻っていく後押しになれば」という思いがあります。

そして、佐藤さんにとって子どもたちと一緒に学んできたさまざまな体験も大きな財産となっています。「『稲2株で茶碗1杯分のごはん』と知ったとき、稲やごはんに対する子どもたちの向き合い方が変わったように見えました。スーパーで簡単に買えない食材と、その食材の“育ての親”である生産者の思いや実情を『食べる通信』を通して伝えていきたい。そして、食材と情報を届けることで、お米をおいしく食べる機会をもっともっと増やしていきたいと思っています」

佐藤さんは、創刊前からすでに福島県産のお米を使ったカレーライス作り教室や、福島県産のお米を使ったおむすびの販売など、お米にまつわるイベントを展開。こうした現場でも「あづまっぺ。お米を食べる通信」の賛同者を募るなど、「お米はむずかしい」の逆風を乗り越えるべく奔走しています。

「あづまっぺ。お米を食べる通信」ホームページ

「あづまっぺ。お米を食べる通信」クラウドファンディング

「あづまっぺ。お米を食べる通信」Facebookページ

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