土作り期(1月~5月中旬)
【1月上旬】土作り ~「土作り」ではなく「土地作り」
田んぼには肥料を入れませんが、育苗培土に入れるためのボカシを作ります。昨年収穫した「亀の尾」の一部は、酒蔵にて日本酒の原料米になりました。その醸造工程で出た酒粕と、「亀の尾」のもみ殻、夫が所属する「つちや農園」で栽培した複数品種の米ぬかを水と一緒に混ぜて、随時切り返します。
ボカシは温度が50度以上になったら切り返し、温度が下がりすぎても切り返します。できたボカシは、無肥料の購入培土と混ぜて育苗培土にします。
田んぼは「土作り」というよりも、「土地作り」。たとえば、ガス(硫化水素)がわきやすい粘土質の田んぼの場合は、透排水性を良くするために深くサブソイラ(※1)をかけたりするなど、水や空気の流れがよくなるように試行錯誤しています。
※1 土中の硬い層を刃で破砕し、透排水性を改善する機械。トラクターに装着して牽引する。
【11月中旬~下旬・3月下旬~5月中旬】耕運 ~ガスわきの時期を想定しながら
3月中旬ごろに田んぼの雪が解け始めるため、田んぼが乾きさえすれば耕運を始めます。春に3回は耕します。
湛水(たんすい)前に乾燥させることで、栽培期間中に土壌から供給される窒素量が増加します。これを「乾土効果」といいます。何度も田起こしすると、さらに効果的です。
耕す時期についてはまだ実験中ですが、収穫後、わらを燃やしてから前年の秋に耕したほうが腐熟度(分解度)は良さそうです。炭は微生物のすみかになるほか、わらの分解に必要な窒素の節約になります。しかし、土壌微生物の状態によっては、還元環境(酸素がない環境)でわらが分解されるとガス(硫化水素)が出てしまうため、秋に耕すことで翌年の夏に異常発酵してガスがわき、稲の成長に悪さをしてしまう可能性もあります。耕す時期によって、ガスわきの時期も変わります。ガスわきの時期が中干しの時期に重なるとベストなのですが……。
播種(はしゅ)期(3月下旬~4月下旬)
【3月下旬~4月初旬】消毒 ~温泉で種もみを消毒
一般的には種もみを農薬で消毒したり、農薬を使わない場合は57度の湯に15分ほど種もみを浸ける「温湯消毒」をしたりしますが、夫の場合は「温泉消毒」。近くの温泉の60度の源泉に種もみを10分ほど浸けて消毒します。
毎年源泉の温度が違うため、その年の気温や水温に合わせて湯に浸ける時間を調整します。消毒後は冷水へ。泉質も生育に良い影響を与えているようです。
【4月初旬~中旬】浸種 ~酸素の供給が大事
種まきの2、3日前に終了するように逆算して、10日~2週間ほど種もみを水に浸けます。種もみが呼吸しやすい環境作りが大切。積算温度が60度を超えたら、種もみが乾かないように注意しながら、種もみを呼吸させるために干します。
ただ水に浸けておけばいいわけでなく、酸素の供給が大事。曝気ポンプで酸素を送り続けます。2、3日経ったら毎日水を変えることで、発芽抑制物質を流す他、新しい酸素を入れます。種もみを袋に詰めすぎず、種もみ袋をタンクに詰めすぎず、種もみ同士の間に隙間(すきま)を作ることも必要。夜温が10度を切らない地域や気候ならば夜干し。つちや農園は夜温が低い地域のため様子を見ながら昼干し。病原菌を発生させないためにも乾燥に注意します。
【4月中旬】催芽 ~いかに良い芽を出すか
干した種もみを、酸素がなくならないように短時間で一気に催芽させます。酸素や浸種時間の調整がうまくいけば、芽と根が同時に吹き出すような理想の催芽が実現できます。催芽の後は、冷水に浸けて芽の成長を止めた後に脱水します。
浸種から催芽に移るタイミングは、積算温度が110度を超えること。しかし、これは目安に過ぎず、ちょこんと芽が出る「走り芽」が合図。催芽機の場合は横着して水から徐々に温度を上げてしまいがちですが、最初から30度の湯を張ったタンクに種もみを入れます。あらかじめ別の容器で30度の湯に浸けてからタンクに移すと、タンクの湯温が下がりません。最後に洗濯機で脱水。芽の出揃い方は生育の揃いにも影響するため、いかに良い芽を出すことができるかが勝負。
【4月下旬】播種 ~コブシが咲いたら始めよう
播種機で苗箱に種もみをまきます。播種後の苗箱は育苗用ビニールハウスの中に並べます。
コブシが咲いたら種まきが始められる合図。播種は機械作業に過ぎず、苗の出来は催芽の良し悪しでほぼ決まっています。ササシグレは1箱60グラムの薄まきにして成苗に。亀の尾は100グラムまき。今年は、播種機で散水する水に消毒に使った温泉を混ぜたり、田んぼの泥を混ぜたりしてみました。田植えと登熟期と収穫期を同時期にするため、晩生品種(ササシグレ)よりも早生品種(亀の尾)は1週間遅く播種します。
育苗期(4月下旬~6月初旬)
【4月下旬~6月初旬】育苗 ~苗を踏み鍛える
品種ごとにそれぞれ30~40日間。最初は苗箱にシートをかぶせ、芽が出て緑化してきたらシートをはがします。1葉出てきたら3日に1回のペースで大きなローラーで苗を踏み鍛えます。
一般的に、苗の状態でその後の生育や収量の半分が決まるという意味で「苗半作」と言われますが、東北や北海道では「苗七作」と言う人もいるほど育苗はとても重要。晴れて暖かいときは保温効果のあるシルバーシートだけをかぶせます。気温が10度を下回る場合は、保温効果のある不織布のラブシート(ユニチカ)の上にシルバーシートをかぶせたり、低発泡ポリエチレンのミラシート(JSP)だけをかぶせたりと調整。暑さで苗を焼いてしまうと芽も根も出ず死んでしまいます。1日に、2、3回はシートをばさばさと動かしてシートの中に酸素を送ることで芽揃いを良くします。徒長したら丈をちょん切って対応。
【5月初旬~5月中旬・随時・8月下旬・10月初旬~10月中旬】あぜの草刈り ~刈ったら必ず燃やす
あぜ草は、田んぼに水が入る前・田植え後は随時・出穂の1週間前まで・稲刈り前、のタイミングでそれぞれ刈ります。
昔は刈った草を集めて家畜の餌にしていたそうです。今は使い道がないからといってあぜに放置しておくと、稲に虫がついてしまいます。刈った草は集めて燃やすことで、ゾウムシ対策になります。
田植え期(5月下旬~7月初旬)
【5月中旬~5月下旬】代かき ~代かきは二段階で
「荒代かき」と「植え代かき」を行います。荒代かきは田植えの1週間~10日ほど前に。植え代かきは草対策として田植えの前日に。荒代かき後、雑草種子が芽を出してくるところを植え代かきでたたくことによって、最初に発芽するような元気な草をつぶします。
荒代かきで土を壊しすぎると、植え代かきのときに排水性の悪い土地になってしまいます。ただ、現状のやり方ではコナギなどの雑草種子には効果はあっても、ホタルイなどの球根や根から出る草は生えてきてしまっているように感じ始め、代かき方法を検討中。桜の枝を田んぼにさして、お神酒をまいてから代かきを始めます。
【5月下旬~6月上旬】田植え ~密植植えの深水管理
品種や栽培方法からして「疎植」では単位面積当たりの穂数を確保できないため、北海道と同じやり方の「密植」にします。今年は水口から水路を作って掛け流しの深水管理にします。
桜が咲いたら田植えができる合図ですが、田んぼに水が入るのが5月15日ごろなので、田植えのころにはすでに葉桜。亀の尾は3葉程度で植え、ササシグレは5.5葉の成苗植え。草を抑える目的で、深水管理にするため、浅植えにします。水は常に流れていることが理想です。
【6月中旬~7月中旬】田んぼの除草 ~目的に合わせて深水と浅水で
田植えの1週間~10日後を目安に始めます。田んぼに草の芽が見えたら開始。田んぼを歩いて根を切らないように、稲の根が横に張ってくる前に除草を終わらせます。
最初の4回は深水、最後の1回は浅水の計5回、エンジン付きの中耕除草機で行います。深水では種を浮かせ、浅水では生えた草を埋めていきます。稲に酸素を供給するのは浅水だとみて、深水が良いかどうかは研究中。小さな田んぼ1枚は私が「中野式除草機」で2回除草。
中干し期(7月初旬~中旬)
【7月初旬】中干し ~トンボが羽化したら水を抜く
田んぼの水を抜きます。ほとんどの田んぼは地下排水がなく、土質が沼地なので、中干ししたら稲刈りまで水を入れません。2018年度のように渇水の場合は多少灌水(かんすい)することも。
目安はトンボの羽化。トンボが飛び始めたら水を抜きます。水を抜くことで土中に酸素を供給して根を強くしたり、ガス(硫化水素)を抜いたりするなどの効果があります。
【7月初旬~中旬】溝切り ~田んぼの“溝切りライダー”
中干しの2、3日後、土が一定程度乾いたら乗用の溝切り機で15条に1本を目安に田んぼの土に溝を切ります。
水が抜けにくい田んぼは溝を多めに、水が抜けすぎる田んぼは溝を少なめに切ります。
稲刈り期(10月中旬)
【10月中旬】稲刈り ~田んぼにたたずむ“農民藝術”
登熟のポイントを見極めてコンバインで稲刈り。もみが濡れると機械が目詰まりしてもみを捨てることになってしまうほか、濡れたもみを乾燥させるのは非常に困難で米の品質劣化を招くため、雨天の際は刈り取りを行いません。
二次枝粳(しこう)(※2)まで黄化したかどうかなどを見ますが、まだ勉強中。水分値は、おおむね25%が稲刈りの目安。天日干しのササシグレだけはバインダー(穀物を刈り取り束ねる機械)で刈り、パイプを幾何学立体に組んだ干し場を作り、そこに稲を掛けて「農民藝術」を製作しています。
※2 稲穂が穂軸から枝分かれする際の、最初の枝分かれを一時枝粳、次の枝分かれを二次枝粳という。
【10月中旬】乾燥・もみすり
コンバインで刈ったもみを機械で乾燥させ、水分値を15%ほどまで下げます。その後、機械でもみ殻を外す「もみすり」をします。
乾燥時は温度を上げすぎないことが大事。機械の設定を信用せず、設定は自分で行います。亀の尾は、遠赤外線の乾燥機を使って30度以下で24時間かけて乾燥。ササシグレは、天日干し。
もみすりは肌ズレが起きないように、もみを流す量を少なめに調整するほか、ロールの強さ、揺動板の角度、吐き出し量などを調整。もみを外した玄米の大きさを選別するグレーダーや色彩選別機にかけますが、色彩選別機にかけるときは、米の質を見て、流量のほか、ヤケ、青、カメムシなどどの被害粒をどれだけ抜くかを見極めて設定します。