機械化とスマート農業
酪農家をとりまく環境の変化
酪農業界では、毎年、約1000戸の農家が廃業していく厳しい現状があります。
その一方、乳用牛の1戸当たり飼養頭数は、1993年の40.6頭から2018年には84.6頭と、増加傾向にあります(農林水産省、平成29年牛乳乳製品統計)。
頭数を増やせるようになった理由の一つには、酪農の技術が上がったことが挙げられます。
酪農家の働き方改革を支援
「搾乳ロボットを取り入れる酪農家なども増え、現場の負担は減った」と話すのは、全酪連の総務部組織対策課の課長、吉村薫(よしむら・かおる)さん。
「自動的に多くの牛の搾乳をしてくれる、ロータリーパーラーという円形の大型機械を導入して、システマチックに作業をしているところもあります」
こうした大型機械の導入の補助事業には現在、酪農経営体生産性向上緊急対策事業(通称:楽酪事業)、酪農労働省力化推進施設等緊急整備対策事業(通称:楽酪GO事業)などがあります。これらは農林水産省による、酪農家の「働き方改革」を推進するもの。
「簡単に説明すると、労働軽減できるような機械に対して補助金を出しています。これにより搾乳ロボットなどの普及も進んでいますね」
こうした機械化によって、従来からの“酪農は朝が早い”というイメージとは異なる、朝に余裕がある酪農家も出てきているようです。
スマート農業とSNS活用
「スマート農業も、どんどん進んでいます」と吉村さんは続けます。
「例えば、牛にセンサーをつけて発情や分娩(ぶんべん)の兆候をスマートフォンで知るようにしたり、牛舎にカメラをつけてモニターしたりする酪農家さんも。そこまで普及しているわけではないですが、大きな酪農家さんには取り入れている方が多い。細かな気配りが必要な仕事ですし、皆さん、牛舎に足を運んで自分の目で牛を見ていますが、目視では分からない点のアラート機能として活用できます」
また、SNSの利用も目立つとも。
「最近では、酪農家さん同士のネットワークがすごい。LINEやFacebookなどのSNSを活用して、それぞれの地域の情勢や飼養管理技術のことなどを情報交換しています」
SNSを通じた消費者との直接のやりとりなども広がっています。こうした、コミュニケーションを高める各種ツールが、現代の酪農経営を支えています。
ブランディングと6次産業化
品種で個性を出す酪農家も
酪農の変化は、生産技術だけではありません。
「今日は、ただ出荷するだけでなく、生産のこだわりを伝えていくことも大事。例えば、日本で飼養されている乳牛は約99%がホルスタイン種ですが、中には、乳量は少なくても乳脂肪率が高いジャージー種を飼ってブランディングする方もいます。また、ジャージー種は肉としてはあまり出回りませんが、食べると意外とおいしいので、そういった売り方をする場合も。さらに、最近ではブラウンスイス種を飼う方も増えています。たんぱく含有量が高く乳製品向きと言う方もいますね」
増えるチーズ工房
6次産業化して、乳製品を販売したいという酪農家も増えているようです。
「やはり、自分で作ったものを皆に食べてもらいたいという願望を皆さんお持ちです。そこで、ソフトクリームや、ジェラートを作る方も多い。これらの製品は生乳と相性が良く、また、地域の特産品と組み合わせてアレンジすることもでき、多種多様な製品が製造、販売されています」
そんな中で、作りたいと言う人が多いと吉村さんが感じる製品がチーズだそう。2006年には106カ所だったチーズ工房は、2017年には306カ所と、3倍に増えています(農林水産省調べ。大手乳業者を除く)。
しかし今後、海外から安いチーズが輸入されることも考えられ、安易に競合相手が少ないと考えるのは禁物でしょう。
酪農の今後を見据えて
さまざまな工夫を重ねている今日の酪農ですが、先述のように、酪農家は減り続けているという現状があります。
吉村さんは話します。
「酪農には、牛の飼育や経営など、酪農特有のハイレベルな技術が求められます。それゆえに、面白みや、やりがいもあり、手間暇かければ、その分だけ返ってくる仕事。酪農家は、獣害や人手不足などの深刻な課題にも直面しています。全酪連としても、それらの課題を解決し、新規就農や事業承継を後押ししたい。そのために、酪農特有のハイレベルな技術を伝えるサポートをはじめとする活動などを、今後も行っていきます」
変化し続ける環境は、今後も酪農を新しいかたちへと変えていくでしょう。しかし、対応していく難しさの一方で、酪農ならではの面白みや、やりがいは過去も未来も変わらないものなのかもしれません。