柏市近辺の農家と台風による被災農家・農作物の現状
今も大きな爪痕を残す、台風15号。農林水産業の被害額は、ビニールハウスや畜舎などの農業施設等で約90億4600万円。収穫時期を迎えていた水稲・葉物、ハウス栽培のトマトや定植を終えたばかりのカブなど、農作物被害で約32億円。これらを含む総被害額は約126億7400万円にも上ります。(2019年9月10日午後1時時点、千葉県調べ)
ライフラインが比較的安定していた千葉県北西部でも「最盛期を迎えていた梨やブドウの果実が大量に落ちて被害は大きく、露地もの野菜も深刻な状況です。壊れたビニールハウスやシャッターを直したくても資材が足りず、修繕のめどが立っていない所も多いです」(森脇さん)
さらに10月に上陸した台風19号では、柏市内でも停電が発生。「柏や我孫子の農家が多く作付けしている利根川沿いの田中調整池に放水が行われたことで広大な田畑が水没し、その被害は甚大です」と、森脇さんは話します。
地元野菜と人が出会う“路地裏”の魔法
そんななか休まず催されていたのが、JR常磐線柏駅に近い“路地裏”で毎週水曜に地元野菜を直売している「路地裏マルシェ」。森脇さんが立ち上げから携わり2016年1月から続けていて、千葉県が推進する「地産地消(千産千消)」の代名詞のようなマーケットです。

農家さんが運転するライトバンが到着したら、販売スタート形
取材したのは、台風15号襲来から2週間後の9月下旬。メディアにも取り上げられ注目の珍品・トロナス(白ナス)や千葉県らしい生落花生・オオマサリなど、被害を免れた野菜が並びました。

とろけるような食感のトロナス、食べ応えのある大粒の生落花生・オオマサリ
屋外ながら雨天決行なのは、ここが今では近隣の飲食店に欠かせない地元の食材を買い付ける場所になっているから。開始時刻が午後2時30分なのも、ランチタイムを終えた休憩時間に合わせたんだそう。
路地裏マルシェの実店舗 被災農家の農産物も買える「ろじまる」
安定的に地元野菜を取り引きできる場所を作りたいという思いから始めたのが、柏駅から近くて便利な「ろじまる」です。生産者が納品に来るので、運が良ければ作り手から直接買えるチャンスがあるのも魅力です。

柏駅東口にある「ろじまる」
路地裏マルシェが対面販売なら、こちらは地元農産物の小売&情報発信基地。スーパーマーケットのインショップ(産直コーナーなど)や直売所と違うのは、ろじまるが全ての商品を農家に注文し、買い取って販売すること。生産者は納品後に、売れ残りを引き取る必要はありません。

店内には産直の農作物がずらり
店内には旬を迎えたナスやバターナッツ、栗やサツマイモなど新鮮な柏野菜が並んでいます。ろじまるで、柏近郊では栽培する人が少ないイチジクの商品を見つけました。商品情報を見ると、製造元は台風被害を受けた千葉県香取市にあるイチジク農園です。森脇さんが現地に赴いて、自信を持って扱えると判断して買い付けてきたものです。
被災地支援は、ジャムやハムなどの加工品の販売代行だけでなく、自身が講師を務めるセミナーで被災地の様子を紹介するなど多岐にわたります。
11月3日(日)には、柏の葉カンファレンスセンターで開催される「かしわウイスキー&カクテルフェスティバル2019」にろじまるブースを出店。
県内生産者の加工品などを中心に柏と千葉県の農業をPR、柏の野菜を使ったカクテルコンペの審査員を務めます。
柏の魅力を伝えるフードコミュニケーターになったきっかけ
「たまたま柏に遊びに来た時に、手賀沼の美しさや田んぼが広がる風景に感動しました」とうれしそうに話す森脇さん。以前は都内に住み、フードコーディネーターとして働いていました。柏が気に入って移住した理由は、東京から好アクセスなのに豊かな自然と多彩な農産物が魅力的だったこと。地元の農家と知り合い、畑に遊びにいくうちに農業への興味を深めていきました。そして、“食を通じて柏の魅力を伝える”フードコミュニケーターとして、農家と飲食店を連携させて柏の食材を使った商品開発や食育セミナーにも取り組んでいます。
そんな経緯もあり、よみうりカルチャー柏で「レストラン探訪~旬の『柏やさい』を食べ歩く」を開講することとなりました。台風15号の後に開かれたセミナーでは“被災地支援”をテーマとし、消費者の代表でもある受講生に被害の現状を知ってもらう啓蒙活動を実施することに。
ろじまるの旬野菜を使ったスープカレーを提供する「スープカレーの店 ブライアン」で、柏×被災地の農産物をコラボさせたスペシャルコース料理を用意してもらい、全員で味わいます。

被災した香取市で生産されたポークハムを使ったテリーヌ

色鮮やかな野菜が楽しめるスープカレー

被災した香取市の農園のイチジクを使ったデザート

店内でのセミナーの様子
11種類の柏野菜と新米で作ったスープカレーを食べながら、柏野菜の特徴とおいしさについて説明していきます。さらに、被災農家や農作物の現状をスライドで解説していきます。その中で、流通経路が無くなり困っていた加工品のハムやイチジクジャムを引き取って飲食店に協力してもらった経緯を知りました。受講者のみなさんと一緒に、普段なにげなく食べている野菜について考える貴重な機会となりました。大切なのは被災農家について理解しながら、食材を購入し消費すること。そして私たちが「生活の中でできる支援」について考えていきたいと感じました。
今回の台風15号で被害を受けたカブや葉物は、種をまき直して約3カ月後の年末12月ごろには再び収穫を迎えます。ただ、木が折れてしまった果樹園や停電で飼育が滞ってしまった畜産農家、ハウスの破損や倒壊などは、年単位での長期的な支援が必要とされています。
「私たち消費者は、当たり前のように食材を購入できる環境にいます。でもそれは多くの人の苦労や努力があってできていることなのです。被災地支援と言っても個人ができることは限られますが、“被災された方に気持ちを寄せて”日常の中でできる支援を続けて行きたい」(森脇さん)
柏や千葉県内の農作物への影響は長引くと思われますが、農業の未来のために――フードコーディネーター・森脇さんの挑戦は続きます。柏市内での農産物のPR活動以外に、「千葉県の中小企業支援を行う『公益財団法人 千葉県産業振興センター』」の中で千葉県での農業に関わる活動やコーディネーターも務めています。農業や農作物でお困りの方は「千葉県よろず支援拠点」にて無料相談を行っていますので、ぜひ利用を検討してみてください。