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直売所経営において実は重要!? 利益商材開発のススメ【直売所プロフェッショナル#11】

直売所経営において実は重要!? 利益商材開発のススメ【直売所プロフェッショナル#11】

直売所を複数展開する民間ベンチャーの創業者たちが、直売所運営のイロハについて事例をまじえて紹介していく連載。第11回は、経営を考えるという点で実は重要な野菜販売以外での稼ぎについて。

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直売所の利益率は低い

率直に言って、直売所の利益率はとても低いことが多いです。そもそも利益率が低いことが多い業態である小売業で、その中でも利益率が低いとされる青果に特化しているビジネスであるため、仕方ないとも言えます。しかも、直売所の成り立ちを考えてみると、農家が集まって自主的に始めたものや、各地のJAが組合員の野菜を販売するために作ったものが多く、そういった場合は目的が事業利益でなく出荷者の利益になるため、直売所は委託販売でマージンは15~20%というのが一般的になります。出荷者にとって有利なことはすごく良いことなのですが、直売所の持続可能な経営という点では、この粗利率の低さは最大の課題とも言えます。

裏を返せば、消費者にとってはお買い得な価格で販売されていることが多いとも言えます。だからこそ、多くの来客のある直売所もたくさん存在します。つまり、野菜に商品力があり、集客力はあるものの利益率が低いというのが直売所の基本的な構造となります。

集客力を生かし、野菜以外の商品・サービスを提供する

利益率は低いもののその分お買い得な野菜を販売できており、集客力があるとすると、来店したお客様が購入したくなるような利益率の高い商品やサービスを用意できれば、直売所の経営を安定化させることができます。
例えば、食品スーパーでは、青果と一般食品や日配品は利益率が低く、総菜は利益率が高くなっていることが一般的です。また、最近ではドラッグストアが青果販売を積極的に展開しており、こちらは利益率の高い薬品があるからこそできる戦略だとも言われます。
それでは、直売所で検討できる野菜販売以外のビジネスとは、どのようなものがあるでしょうか。代表的なものとしては、以下の3つがあげられます。

・直売所が自分達で加工・販売する商品の販売
・飲食サービスの提供
・農家や畑とのつながりを生かしたサービスの提供

それぞれについて、説明していきます。

直売所が自ら製造(OEM含む)した商品の販売

野菜以外を販売するとなると最初に思いつくのが、総菜や弁当などの製造・販売ではないでしょうか。実際、中食市場は伸びており、強化しているスーパーや百貨店も多いと言われます。
また、焼き芋やフレッシュジュース、スムージーといったレジ横で比較的簡単に提供できる商品も検討できると思います。これらは、野菜との親和性も高く、既に持っているノウハウを生かしやすいというメリットもあります。

さらに、取引農家さんの野菜や果物を使った加工品も考えられます。ジャムやドレッシング、ピクルス、ジュースなど。どうしても出てきてしまう、繁忙期の余剰野菜の活用という点でも魅力的な商品です。

一般的には、これらは粗利益率が高くなるので、人気商品を開発できれば、直売所の経営に大きく貢献します。

飲食サービスの提供

買い物に来ているお客様に滞在していただき、飲食を楽しむ機会を提供するというのも考えられます。特に、スペースに余裕のある直売所にとっては、遊休資産の活用という点でも良いかもしれません。直売所は、地元の野菜についての理解が深いので、魅力的なメニューを開発できる可能性もあります。飲食サービスは、小売と比べると利益率が高いのも魅力的です。

農家や畑とのつながりを生かしたサービスの提供

商品ではなくサービスの提供になりますが、野菜自体でなく、農家との関係性を活用して、収穫体験などのサービスによって店舗販売以外の売り上げを作っていくというのも面白いと思います。特に、都市部に近い直売所であれば、野菜を収穫する体験の価値を感じるお客様は多いと思います。

利益率が高いビジネスは簡単じゃない! 当社の事例

ここまでいろいろな可能性を書きましたが、実は簡単なものはほとんどありません。どれも、うまくいけば野菜販売と別の売り上げ(厳密には利益)の柱となりますが、安易に取り組んでできるものでもありません。
例えば、ジャムやピクルスの加工は、すでに各地域で山ほど取り組まれており、成功と呼べるものはかなり少ないのが現状です。飲食サービスの提供は、食事まで提供しようと思うと、それなりのノウハウや設備投資も必要です。また、利益率が高いビジネスは直売所と比して人件費がかかるものが多く、その点も直売所の経営とは違うところです。つまり、それぞれの業界の専門家や企業と競合するという覚悟を持ち、それらのサービスと伍していく覚悟がなければ、うまくいく可能性はかなり低いと思います。

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とはいえ、チャレンジをしないと始まらないということで、最後に私たちの運営店舗での事例を紹介します。私たちもまだまだ試行錯誤をしているところなのですが、だからこそ参考になることもあるかもしれません。

焼き芋の販売

まずは、定番ですでに実施している直売所も多いかと思うのですが、焼き芋の販売です。当社では運営委託店舗を含めると3つの店舗で焼き芋を販売しています。よく売れる店舗では、1日に100本以上売れることも珍しくありません。利益率が高いこともあり、とても重要な商材となっています。それぞれ、店舗の規模感や立地、客数が違うこともあり、設備や販売方法は違いますが、こだわったのは「きちんとおいしい焼き芋を提供すること」です。

現在、ほとんどのスーパーで焼き芋が販売されており、おいしいものもたくさん出回っています。ですので、きちんとおいしいものを適正価格で販売することは当たり前ですが重要です。そして、そのためには、芋の選定・調達、機械の選定、機械の使い方などをきちんと研究することがとても大事です。

レジ横の焼き芋は直売所には欠かせない

私たちの場合、信頼できるサツマイモ問屋さんとお取引ができ、時期によって品種を変えたり、機械の設定を調節したりすることで、品質の高い焼き芋が提供できていると自負しています。おかげさまで、お客様からも支持をいただき、秋冬の人気者です。また、粗利益率は40%程度になっており、安定経営に資する商材でもあります。

なお、直売所なのに地元のサツマイモを使っていないのか、という声がありそうですが、焼き芋については割り切って他地域から仕入れています。焼き芋に適切なサツマイモが地元では安定的に揃わないためです。苦渋の選択ではありますが、安定的にお客様に高品質の焼き芋を提供するために、そのような判断をしています。

一番人気はネットリ甘い「ベニハルカ」

オリジナル商品「くにたちはちみつ飴」の企画・販売

もう1つが、当社オリジナル商品である「くにたちはちみつ飴」です。こちらは、東京都国立市とその周辺でとれる蜂蜜を使って製造している「はちみつ飴」です。当社直売所で販売しているのはもちろん、最近は近隣の小売店やスーパーマーケットにも卸させていただいています。

この商品は、飴メーカーさんに製造委託をしているのですが、製造方法や蜂蜜の分量、原材料などを研究し、サンプル製造を重ねて、商品化したものです。地元の蜂蜜の生産量に限界もあり、大量に販売しているわけではありませんが、安定して売れる人気商品に育ちました。

企画・開発に取り組んでわかったことなのですが、「飴」は意外と差別化できるポイントが多く、小さいので物流コストもそれほどかからない、賞味期限が長いなど、リスクが低く、アイデアで勝負できる要素が多い商材です。工夫によっては、利益率も比較的高く設定することが可能です。

「飴」は一例ですが、オリジナル商品の開発には、どの領域であれば、量産品や他地域の手作り商品と差別化できるかを見極めることが重要そうです。
また、加工食品は卸の展開も考えられ、店舗外の販売も見込めるのは魅力的です。直売所という物理的なスペースの制約がなくなるわけですから。

パッケージデザインは地元のデザイナーに依頼

最後に、現在当社で新しいサービスとして準備を進めているのが、収穫体験事業です。東京にある直売所という特殊事情もあり、子どもを畑に連れて行きたい、収穫体験をしてみたいという声がとても多いのです。私たちの場合、この事業は利益のためというよりは、農に接する機会を持ってもらうことで野菜や農業に興味を持つ子どもを増やすために行うので、低価格の参加費にする予定です。しかしサービス設計によっては利益が出るくらいの価格設定も可能ではないかと思います。例えば、当社と同じ東京都国立市にあるNPO法人くにたち農園の会が実施する「親子田んぼ体験」は、募集組数100組で年会費が大人1万円、子ども8000円です。農家と直接つながっている直売所であれば、このようなサービスの検討も可能かもしれません。

東京では畑で野菜を収穫することが特別な体験

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