疫病の症状とは?
疫病は梅雨時期などの雨の多い時期に起こりやすい病気で、主にトマト、ジャガイモ、ピーマンなどのナス科野菜やキュウリ、カボチャなどのウリ科野菜、ネギやタマネギなどのネギ属、イチゴなどに発生する病気です。疫病にかかった野菜はまず、茎や葉、果実などに水が染みたような病斑ができます。根や芋の部分が感染した場合は、暗褐色の病斑ができます。そして被害が進行するとこの病斑が広がり、白いカビのようなものが生じることもあり、最終的にはそのまま枯れたり腐ったりしてしまいます。
19世紀のアイルランドで起こったジャガイモ飢饉(ききん)の原因も、この疫病だったと言われています。当時はこの病気の原因が分からず、短期間で広い国土に広がったため、なすすべなく餓死者や移民が続出することになったようです。今となっては考えられないようなことですが、疫病の恐ろしさが分かる象徴的な出来事だと思います。
疫病の病原体は何?
疫病の病原体はフィトフトラというカビの仲間です。土壌中にいるため、雨の時やかん水時に泥はねして土が茎や葉に付着すると、そこから感染することがあります。また土壌水分が多いと、病原菌が泳いで拡大していくため、一気に被害が広がることがあります。特に15〜20度ほどの比較的低い温度で発生しやすく、春や秋の雨の多い時期や、梅雨の温度が低い時期は特に注意が必要になります。また土壌伝染をするため連作すると被害が大きくなります。
病気は3つの要素が重なった時に発症する
疫病に限らず、野菜の病気は3つの要素が重なった時に発症します。それは①抵抗性、②病原体、③環境の3つです。野菜がその病気に対する抵抗性を持っておらず、病原体に感染し、病原体が増えやすい環境に野菜があるという3つの要素が揃うと、病気が発症します。そのためこの3つの要素に対して総合的に予防・対策を行うことが、野菜の病気対策を考える上で重要になってきます。
疫病の予防と対策
疫病の予防・対策としての方法を①抵抗性、②病原体、③環境という3つのアプローチから考えると以下の3つが出てきます。
①疫病に抵抗性を持った品種や接ぎ木苗を利用する
②疫病の病原体を持ち込まない・広げない
③病原体が増えない環境を作る
これらを詳しく解説していきます。
①疫病に抵抗性を持った品種や接ぎ木苗を利用する
どの野菜にもあるわけではありませんが、疫病に抵抗性を持った品種や接ぎ木苗などが開発されています。疫病は土壌伝染するため、疫病の被害が大きい畑では、抵抗性品種の導入を検討してみましょう。
②疫病の病原体を持ち込まない・広げない
疫病の病原体への対策としては、まず病原体を畑に入れないように注意します。土壌伝染するので、他の畑の土を持ち込んだりする場合は、十分に注意します。またジャガイモなどが疫病にかかっていた場合などは、それを種芋として利用すると、そこからも種子伝染する場合があります。
もし疫病が発生してしまった株があり、症状の進行が止まらなそうな場合は、すぐに根から引き抜き処分します。また、発症した株の汁が他の株に付着しないように注意しましょう。
また続けて何年も疫病の発生が多い場合は、土壌にいる病原菌への対策として、土壌消毒という方法があります。家庭菜園で消毒を行う場合は、薬剤による消毒ではなく太陽熱消毒がオススメです。基本的には夏の気温が高く、晴天が続きそうな時期に行います。太陽熱消毒を行いたい場所であらかじめ土作りと畝立てを行ったあと、たっぷりと土全体に水をかけます。そのあと透明なビニールをその上にかけて、風などで飛ばないように鉄パイプやコンクリートブロックなど重しを乗せて固定し、2〜3週間待ちます。ビニールを除去したら2~4日乾かし、あとは深く耕さないようにしながら、種まきや苗の植え付けを行います。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
③病原体が増えない環境を作る
疫病菌は特に土壌の水分が多いと、感染が拡大していきます。水はけの悪い畑では、周囲に溝を掘ったり、畝を高くしたりして水はけを良くしましょう。また同時に畝の表面にビニールや枯れ草(イネ科植物)などでマルチングを行うことで、泥はねを防ぎ感染を減らすことができます。また特に湿気に弱いトマトはビニールなどで雨よけをすると良いでしょう。
また連作によっても病原菌は増えていきます。特に連作障害の出やすいナス科やウリ科の野菜は3〜4年は作付け間隔をあけ、間にマメ科やイネ科の作物を挟むと良いでしょう。窒素肥料のやりすぎによっても疫病は発症しやすくなるため注意します。
病気対策においても基本の土づくりは大切
疫病に限りませんが、有機的な土づくりが進んだ畑では、自然と病気の発生・拡大が減る傾向にあります。これは土の中の微生物には病原体を食べる、もしくは減らすような拮抗(きっこう)菌が存在しているため、その働きによるものではないかと考えています。もちろん病原体がいないに越したことはありませんが、それよりも大切なのは土の中で豊かな微生物生態系が築かれていることです。複雑な生態系が築かれていれば、特定の病原体だけが増えるというリスクが減っていきます。植物や家畜ふんなどの有機物を原料とした、きちんと発酵した堆肥(たいひ)を用いて、微生物が増えやすい土づくりを基本とした上で、今回ご紹介したような各種対策をしていくことをオススメしています。