国産サカキを商機に。売り手優位のビジネス手法とは

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国産サカキを商機に。売り手優位のビジネス手法とは

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国産サカキを商機に。売り手優位のビジネス手法とは
最終更新日:2020年02月17日

日本の神事にとって欠かせない植物であるサカキのほとんどは、じつは中国産だ。彩の榊(さいのさかき、東京都青梅市)を運営する佐藤幸次(さとう・こうじ)さんはそこにビジネスチャンスがあるとにらみ、約10年前に国産サカキの供給に乗り出した。だが経営を成長軌道に乗せるまでには、大きな試練が待ち受けていた。

日本で売られるサカキのほとんどは中国産

サカキは、緑の葉が茂った枝を束ねて神棚に供えたり、神社で参拝者が神前にささげる玉串(たまぐし)に使われたりする植物。名前の由来には、神と人間の境界にある境木(さかき)を語源とする説がある。
一般に「サカキ」と呼ばれているものには、「ホンサカキ」と葉っぱがやや小さい「ヒサカキ」の2種類がある。いずれもツバキ科の常緑広葉樹で、国内に広く自生している。ここでは両者を区別せず、サカキと表記する。

ホンサカキ(左)とヒサカキ

なぜ日本の神事に使うサカキが中国産なのか。背景の一つが林業の衰退だ。国産の杉やヒノキが売れていたときは、森林の手入れの一環として下に自生しているサカキを切り出し、販売していた。
だが輸入木材に押されて林業の収益性が下がり、森林を手入れする機会が減るのに伴い、サカキの供給も細っていった。林業に携わる人が高齢化し、作業をする人が減ったことがこうした流れに拍車をかけた。
そこに登場したのが中国産だ。今から30年ほど前に日本の業者が中国でサカキの栽培や加工の仕方を教え、日本向けに輸出し始めた。今や日本で流通しているサカキの8割以上は中国産と言われている。
そこに商機を見いだしたのが、当時20代後半の佐藤さんだった。

サカキの切り出しは山の中で行う(東京都青梅市)

山の中で見つけた大量のサカキ

佐藤さんは17歳で高校を中退し、埼玉県飯能市にある実家の花屋で働き始めた。高校を辞めたのはミュージシャンになりたかったからだ。音楽会社にデモテープを送ったりしてみたが、実力不足を感じ、家業を手伝うことにした。
サカキに注目した理由はいくつかある。家の仕事を手伝うかたわら、修行のために大手の花屋で働いてみた。そこで中国産のサカキが1カ月に2000束も売れていることを知った。実家の50倍以上。佐藤さんは「サカキってこんなに売れるんだ」と驚いた。
実家で売っていたサカキも中国産だった。段ボール箱に入ったサカキを市場から仕入れると、神棚などに供えるサカキの束を指す「造り榊(さかき)」が「シクリサカキ」と誤記されていたりした。
もちろんその箱は店には置かないようにしていた。だがあるとき、客の一人から「おまえが売っているのはニセモノだ」と言われ、「これは日本のか」と厳しく問いつめられた。
佐藤さんは「今なら違いがはっきりわかります」と話す。中国産は輸送効率を高めるために箱にぎゅうぎゅう詰めにすることが多く、葉っぱが蒸れて弱ってしまうことがあるからだ。その客は違いを一目で見抜くほど目が肥えていたのだった。
この一件を通して、佐藤さんは国産のサカキに需要があることを知った。

中国モノは「シクリサカキ」と誤記されていた

転機は29歳のときに訪れた。佐藤さんは折に触れ、祖母の眠る霊園に行く習慣があった。その日も墓前で手を合わせると、霊園に隣接する山に足を踏み入れた。佐藤さんにとって墓参後の散歩コースだった。
ふと見ると、目の前にサカキの木があった。横を見ると、そこにもサカキの木。周囲を見回すと、霧が晴れて風景の輪郭がはっきりするように、大量のサカキが目に飛び込んできた。心の中で「うわーっ」と叫んだ。
どれも葉っぱが大きくてツヤがあり、濃い緑色をしていた。自分が店で扱っているサカキとは別物だった。「これだけあれば商売ができる」。佐藤さんはその日のうちに、「花屋を辞める」と両親に告げた。

山の中に自生しているサカキ

山の持ち主を調べたところ、ある鉄道会社が所有していることがわかった。十数回電話してようやくアポイントメントを取り、担当者に会いに行くと「サカキを切っていいよ」と快諾してくれた。販売用に植えたものではなく、他のサカキと同様、自生したものだったからだ。
ちょうどそのころ、鉄道会社は山の中に20キロもの長さの遊歩道を造ることを計画していた。もともとある山道の両側10メートルを整備し、幅20メートルほどの遊歩道を造るという構想だった。
担当者と話し合った結果、地面から60センチの高さで切ったサカキの株を遊歩道に残すことが決まった。切った上の部分は佐藤さんが販売用に使う。株から枝が伸びてくれば、それも切って商品にすることができる。
山道の両側に生えた雑草や雑木を刈る作業を請け負うことで、佐藤さんは販売用のサカキを無償で確保することができるようになった。一人でビジネスを立ち上げることを決め、実家を出て市内のアパートに移り住んだ。
順調なスタートのはずだった。だがすぐに大きな壁に直面した。せっかく手に入れたサカキが思うように売れなかったのだ。

売り手優位のビジネスを確立

これまで花やサカキを仕入れていた近くの市場が、最初の販売の場になった。当時はセリにかけると5キロで2500円、花屋から事前に指名で注文が入っていると3500円が相場だった。
初の出荷は50キロ。注文は取っていなかったので、「セリで2万5000円くらいで売れればいいな」と思って出した。ところがフタを開けてみると、合計で2500円。期待したほどセリで買い手がつかなかったのだ。
「ショックでした」。佐藤さんはそのときのことをこうふり返る。昼はアルバイトでビルや住宅を解体する仕事をし、夜にサカキを切り出しに行く生活が始まった。サカキの販売ではとても生計が成り立たないからだ。

サカキを束ねる作業。熟練が必要

そんな生活を始めて1年半ほどたったときのことだ。解体のバイトを終えてアパートに帰ると、路上に大量の荷物が積んであった。「邪魔だなあ」と思いながら近づいてみて驚いた。「うわっ、これ自分のだ」。丁寧に積まれた布団の上にサカキの枝が置いてあった。家財道具一式が自室から外に運び出されていたのだ。
生活は困窮を極めていた。アパートに住んでほどなくしてまず携帯代を払えなくなり、1年たったころにはガスも電気も止まり、家賃も払えなくなっていた。そしてついにアパートを追い出され、車の中で寝泊まりするようになった。
それから約1カ月。バイト先の解体業者のもとを、兄が訪れた。「おまえ何やってるんだ。やっと見つけたぞ。電話ぐらいつながるようにしとけ」。そう言って携帯代を貸してくれた。
「一つ報告がある」。兄がバイト先を訪れたのは、携帯代を貸すことが本当の目的ではなかった。「花屋からおまえあてにサカキの注文が入ってるぞ」。これが佐藤さんにとって初の注文となった。
注文は月に2回で、それぞれ50キロずつ。その後もずっと続く定期注文だった。値段は5キロで3500円で、1カ月で7万円の収入だ。市場に熱心に売り込みに来る佐藤さんの姿を見た花屋が、注文を出してくれたのだ。「うれしかった」。そうふり返るのも当然だろう。

さらなる飛躍へ準備を進める佐藤幸次さん

この注文からほどなくして、佐藤さんは東京都青梅市で事務所を借り、株式会社「彩の榊」を立ち上げた。飯能市を離れたのは、友人たちとの付き合いを断ち、サカキの仕事に本格的に集中するためだった。
佐藤さんはその後、受注を徐々に増やしていった。それを可能にしたのが営業努力。市場を通した販売では限界があると考え、花屋を直接回るようにしたのだ。「注文につながるのは100軒に3軒くらい」(佐藤さん)しかなかったが、珍しい国産サカキを評価してくれる花屋が少しずつ増えていった。
品質の高さも追い風になった。中国産のサカキが切り出してから日本の花屋に届くまで約40日かかるのに対し、彩の榊は3日。どちらのサカキが生き生きとしているかは言うまでもない。さらに中国産と品質面で差を出すため、効率優先で輸送時にサカキの束を箱にぎっしり詰めたりしなかった。
彩の榊には現在、1カ月に20万束の注文が入る。収量に限りがあるため、そのうち対応できているのは1万5000束で、値段は5キロで5000円。圧倒的な売り手優位のビジネスだ。そのほか玉串用などの「1本モノ」も月に約5000本販売している。
快進撃はこれにとどまらない。彩の榊は既存のサカキの商売の枠を超える新たなビジネスの手法を取り入れ、飛躍のときを迎えようとしている。

◆次回(2月3日掲載)は、彩の榊の新ビジネスの内容をお伝えします。

 

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