1年で売上倍増! サカキの特徴を生かした魔法のビジネスモデルとは

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1年で売上倍増! サカキの特徴を生かした魔法のビジネスモデルとは

連載企画:農業経営のヒント

1年で売上倍増! サカキの特徴を生かした魔法のビジネスモデルとは
最終更新日:2020年02月17日

神事に使われるサカキを取り扱うため、佐藤幸次(さとう・こうじ)さんは10年近く前に彩の榊(さいのさかき、東京都青梅市)を立ち上げた。だがやってみてわかったのは、山林から切り出したサカキの枝を販売して経営を安定させることの難しさだ。佐藤さんは今、その難題を突破するための答えをついに見つけ、経営のさらなる飛躍を視野に入れている。

需要あり・ライバル不在でも経営が厳しいワケ

佐藤さんはもともと実家の花屋で働いていた。その仕事を通して、国内で売られているサカキのほとんどが中国産であるということと、国産のサカキに潜在的な需要があることを知り、独立して彩の榊を設立した。

販売用のサカキは当初、近くの山に自生しているものを切り出して調達した。箱にぎゅうぎゅう詰めにして中国から輸入されてくるサカキと比べ、国産は葉っぱの緑が濃く、生き生きとしていた。しかも中国で切り出してから約40日かけて運んでくるのと違い、数日で届けることが可能。サカキを扱う花屋や神社などから品質の高さが評価され、売り先がどんどん増えていった。

山から切り出してきたサカキの枝

サカキは山の中にたくさん生えているし、需要も十分にあった。自生しているサカキを伐採して販売している法人はそれほど多くなく、本格的なライバルは見当たらない。それでも佐藤さんによると、「経営的に楽なことは一つもない。ずっといつつぶれてもおかしくない状態でした」という。

原因はコストの高さだ。山の中に生えているサカキを切り出し、背負って運び出してくるのはかなり大変な作業。一方で、国内で流通している中国産は値段が安く、いくら国産の品質が高くても値段を上げるには限度がある。その結果、売値が原価とあまり変わらないという収益性の低さに悩まされてきた。
かつて日本のサカキの伐採業は、杉やヒノキの森林の整備の一環として成り立っていた。だが林業の衰退に伴い、サカキの伐採も姿を消していった。それだけで利益を出すのが難しいからだ。佐藤さんもこの難題に直面した。

現在、神棚などに供えるサカキの注文は1カ月に20万束に達している。これに対し、実際に応えることができているのは1万5000束。いくら販売を増やしても、利益の確保には結びつきにくかった。
ところがこの収益構造を打破し、事業を拡大する手がかりを佐藤さんはついにつかんだ。2019年5月期の売り上げは約6000万円だったのに対し、2020年5月期は1億2000万円と倍増する見通し。利益をきちんと出しながら、事業を大きくできるビジネスモデルが見つかったからだ。

サカキの枝を切り出すのは大変な作業

太陽光パネル事業で見つけた活路

どうやって売り上げを一気に増やすことができたのか。答えは農地の上に太陽光パネルを立て、その下で農作物を育てる「営農型発電」の活用。農地の収益性を高めるため、国が後押ししている事業だ。
営農型発電は太陽光パネルで発生した電力を売って利益を上げるだけではなく、パネルの下でしっかり作物をつくることが条件になる。そこでネックになるのが、陽光を遮られることだ。その点、サカキは森林で杉やヒノキの下で成長する樹木。ほかの作物と違い、日照量がある程度少なくても生育の妨げにならない。これが、営農型売電事業を始めるうえで大きな強みになった。

ここで「サカキは林業ではないのか」と思う人がいるかもしれない。実際その通りで、サカキはキノコや山菜などと同様に特用林産物に分類される。だがその一方、サカキの栽培は花などの観賞用植物と同じで、農業としても認められている。だから営農型発電の対象になる。

太陽光パネルの下でサカキの植え付けの準備が進む(徳島県三好市、写真提供:彩の榊)

この制度を利用し、佐藤さんは苗を販売し、サカキを植えた農地の雑草を刈ることで管理費を受け取り、育ったサカキの枝を無償で引き取るというビジネスモデルを確立した。この魔法のような仕組みが成立するのは、サカキを栽培できる農業法人を必要としている二つの事業者がいるからだ。

一つは農地を誰かに借りてほしい地主。もう一つは農地の上で売電事業を手がけたい企業。そこで彩の榊がこの企業と組み、地主から農地を借りる。地代も苗代も管理費も負担するのは企業。それでもたっぷりおつりが出るくらい、売電事業はもうかる。地主が受け取る地代も、十分に満足できる水準。5年ほどかけて育ったサカキは、彩の榊が販売用に収穫する。
このモデルでは、売電事業をやりたい企業にとって彩の榊は不可欠な存在のため、太陽光パネルの設置の仕方は佐藤さんの希望通りになる。その結果、山の中と同じような遮光率にすることができる。しかも山の中と違い、肥料をまいて育てるため、生育速度が速く、しかもサカキの質が高い。

佐藤さんはこの構想を7年ほど前からあたため始め、時間をかけてモデルを確立した。現在、全国の20カ所以上で事業が始まっており、すべて稼働すればサカキの本数は30万本以上になる。この分野では例のない事業規模だ。

サカキの苗を下に植えた太陽光パネル(写真提供:彩の榊)

好きなことを仕事にして成功した好事例

佐藤さんは資金繰りの悪化による経営危機に幾度も直面しながら、事業を軌道に乗せる方法を懸命に模索してきた。では大きなビジネスチャンスをつかんだ今、これまでの歩みをどうふり返るのだろうか。そのことを聞くと、佐藤さんは「基本的に好きなことをやってきました」と答えた。
事業を大きくするうえで最初の弾みになったのが、花屋への営業回りだ。それまでは市場に出荷することがほとんどだったが、収益性を高めるには直接売ることが不可欠と考え、何回も断られながら店に足を運んだ。
このとき重要になったのが、ものおじせずに店に飛び込む覚悟だ。農家の中には栽培は好きでやっているが、売り込むのは苦手と思っている人が少なくない。
では佐藤さんはどうだったのか。答えは「はじめて会う人にものを売るときの緊張感が好きなんです」。経営がかかっているから、営業の場面では「はらはらする」。それを活力に変え、業績を伸ばしてきたのだ。

事業を支える従業員たち。左が佐藤さん

だが佐藤さんが「好きなこと」として一番に挙げたのは、山にサカキの切り出しに行くことだ。もともと山歩きが好きなことが、近隣の山に大量のサカキが自生していることを偶然知るきっかけになった。
とくに事業が大きくなり始める前は、昼間はアルバイトをし、日が暮れてから一人で山に入った。さすがに「最初は怖かった」という。

佐藤さんによると、時間帯によって動物の鳴き声が変わる。日中は鳥のさえずりが中心で、次第にタヌキの「ブワー」という声や、鹿の「エーン」という声に変わる。怖いのは真夜中で、女の子のような高い声で「ヤーッ」と響く。ムササビだ。ただ何度も山に入るうち、それも気にならなくなってきたという。
今はサカキを採集する作業は基本的に従業員に任せているが、ときどき佐藤さんも一緒に山に入る。そんな場面について語りながら「好きなものに囲まれて仕事をしている。点数をつければ90点。幸せです」と話す。
さまざまな苦労を経て、大きな商機をつかんだ佐藤さん。その仕事に喜びを見いだしていることが、事業を進める原動力になっている。

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