メガファーム、拡大する現場を支える社長の「相棒」

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メガファーム、拡大する現場を支える社長の「相棒」

連載企画:農業経営のヒント

メガファーム、拡大する現場を支える社長の「相棒」
最終更新日:2020年02月17日

横田修一(よこた・しゅういち)さんが運営する横田農場(茨城県龍ケ崎市)は、異例のペースで規模拡大が続いている。作物はコメ。メガファームと呼ぶべき大きさになった農場が直面するのは、他が経験したことのないような課題ばかり。そんな横田農場には、難局を乗り切るために横田さんを支える「相棒」がいる。大学時代からの友人、平田雅敏(ひらた・まさとし)さんだ。

国内屈指のメガファーム「横田農場」

横田農場は2019年の作付面積が150ヘクタール。すでに国内でも有数の大型農場になっているが、拡大のペースはなお衰えない。高齢農家の引退が進む中、農地の受け皿として地域の期待を一身に背負っているからだ。
2020年も集約が進み、160ヘクタール弱になる見通し。平均的な稲作経営の数戸分に当たる規模拡大だ。いずれ数百ヘクタールが視野に入る。
平田さんはいま43歳。今から15年前に横田農場の社員になった。別の仕事をしていた平田さんに横田さんが「うちに来てくれよ」と電話したとき、平田さんは「やっと誘ってくれたか」と答えたという。

現場で横田農場を支える平田雅敏さん

2人は茨城大学で、学年が同じ。ともに熱気球サークルに属し、将来を語り合う仲だった。とくに横田農場が稲刈りの時期になると、平田さんは横田さんの家に1カ月以上住み込み、アルバイトとして作業を手伝った。
大学を卒業すると、2人はいったん別々の道を歩み始めた。横田さんは予定通り実家で就農した。一方、平田さんはマンションなどの建物の電気系統の配置などを設計し、施工を監督する会社で働き始めた。

地域の期待を背負う横田修一さん

ここから先は、平田さんの歩みを中心に話を進めよう。会社勤めをしていたとき、現場で実際に工事に当たるのは、下請け会社の職人たちだった。入社したばかりにもかかわらず、平田さんは彼らに指示を出すのが仕事。「多いときは100人ぐらいの職人さんが相手。マネジメントが本当に大変だった」
残業は当たり前だった。職人たちが17~18時に仕事を切り上げた後、平田さんは夜中まで自分でもできる仕事を続けた。配電設備などを設置する場所を、床や壁にマジックで書き込む作業だ。始発で帰宅し、シャワーを浴びてすぐ出勤するのは当たり前。現場で1週間ほど泊まり込むこともあった。
横田さんから電話が入ったのは、そんな生活を5年ほど続けた後のことだ。「うちに来ないか」。そう誘われたとき、平田さんの頭に大学時代に一緒に農作業をした光景がよみがえった。「いいよ」。迷わずそう答えた。

2人の考えが一致した理想的な農場運営

そのころ、横田農場では急激な規模拡大が始まろうとしていた。平田さんを社員に招いたのもそのためで、平田さんが入社した年に作付面積が20ヘクタールから30ヘクタールに拡大した。周辺で高齢農家の引退が始まっていたのだ。
当時は横田さんの父親が社長。平田さんは横田さんと一緒に田んぼに入り、田植えや草刈り、稲刈りなど現場の仕事を覚えていった。決して楽な仕事ではない。だが人間関係が難しかった以前の仕事と違い、「農業はやったことがそのまま結果に反映される」(平田さん)という明快さがあった。今日にいたるまで、再び仕事を変えようと思ったことはなかったという。

規模拡大が続く横田農場

転機は、約10年前に横田さんが社長になったころに訪れた。横田さんが各地の稲作経営者の集まりに出席したり、研究機関や農水省を訪ねたりすることが増えたのだ。横田さんが田んぼにいる時間が減るのに伴い、平田さんが自分で判断し、現場を切り盛りすることが多くなった。

農場は年々大きくなっており、肥料や農薬の調達や機械のメンテナンスなど、細かい課題が次々に発生する。それを一つ一つ横田さんに相談し、指示を仰いでいては機動的に対応できなかった。
このとき平田さんが選んだ仕事のやり方が、現在の横田農場の仕組みの原型になった。朝礼を開かないのはその典型。農場のスタッフは現在、平田さんを含めて4人いる。水の管理や除草などそのときどきで各自が受け持つ仕事は決まっており、あとは自分で段取りを考えてその日の仕事に取りかかる。

米袋のロゴマークには田んぼの生き物たちが

こういう仕事のやり方に関連し、平田さんが横田さんについて感心するのは、若いスタッフがやることに決してダメ出しをしない点だ。たとえ危なっかしく見えても、最後までじっと見守る。当然、失敗することもある。だが失敗よりも懸念しているのは、自分で考えず、指示を待つような行動パターンを身につけてしまうことだ。この思いは、2人に共通している。

一方、横田さんは高齢農家へのヒアリングを通し、今の横田農場のやり方が理想という確信を深めていった。かつて農作業の多くは、集落の共同作業だった。そこには明確な指揮命令系統はなく、その都度集まった顔ぶれを見てそれぞれ自分が何が得意かを判断し、必要な作業にとりかかったという。
横田農場は現在、かつての集落のようなスケールに拡大しようとしている。室内環境を制御できる栽培ハウスと違い、田んぼは予想外の環境変化が度々起きる。必要になるのは、実際に田んぼで起きていることに即応できる柔軟性。横田さんと平田さんが追求しているのはそういう農場運営だ。

稲作も熱気球のチームも同じ

ここで社長である横田さんの役割に触れておこう。横田農場は一貫して規模拡大のプロセスの中にある。大規模化は生産の効率化につながると思われがちだが、ときに逆のことが起きる。
例えば、横田農場は複数のコメの品種を取り入れて、田植えや稲刈りの期間を延ばしてきた。作期が集中するのを防ぐことで、少ない機械で作業をこなせるようにするためだ。だがその過程で、一部の品種の生育がうまくいかず、収量が極端に落ちるといったことが起きる。
こうした根本的な問題に、現場だけで解決策を見つけるのは難しい。そこで横田さんが研究機関や農水省などで栽培技術に関する情報などを集め、壁を突破するためのヒントを探す。自ら研究に参加することもある。
それを農場に持ち帰り、平田さんを含めスタッフと話し合い、どんな手を打つかを決める。ここで重要なのは、他の農場をお手本にするのではなく、最新の技術を真っ先に農場に取り入れることだ。

研究者と共同開発した自動給水機について説明する横田さん

今回は横田さんと平田さんに別々にインタビューしたが、2人とも取材の最後のほうにふと思い出したように、学生時代にサークルで楽しんだ熱気球のことを話し始めた。気球は高度を上下させることはできるが、飛行機のように自らの力で前に進むことはできない。そこで目的地の方角に向かって空気が流れている高さを見つけ出し、風の力を借りて前に進んでいく。
気球に乗って空を飛ぶのは横田さん。平田さんは地上から無線を使って横田さんに連絡し、気球が目的地に着くよう誘導する。難しいのは風向きを含めて状況が刻々と変わる点。お互い短いやりとりを通して自分がどう動くべきかを判断した。それが熱気球の醍醐味でもある。

2人とも懐かしそうにサークル活動のことを語った後、まったく同じ言葉でしめくくった。「当時も今もやってることは変わりません」
日本の農業は高齢農家の大量リタイアに伴い、急激な構造変化のただ中にある。横田農場はそうした風を一身に受け、地域一帯が自社農場になるという誰も見たことがないような景色の中を進んでいく。その先にどんな世界が待っているのか。2人のいっそうの活躍に期待したい。

ずっと相棒の横田さん(右)と平田さん

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「食と農」の現場を日々取材する記者が、田畑、流通、スマート農業、人気レストランなどからこれからの農業経営のヒントを探ります。

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