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「極小のニンジン」が生む農業の新しい価値

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

「極小のニンジン」が生む農業の新しい価値

どんな仕事でも漫然と続けていると、ルーティンに陥り、型にはまったやり方の繰り返しになりがちだ。だが常識の壁を取り払うと、まったく新しいビジネスの可能性が開けることがある。それを農業の世界で実践し、農業の地位を高めようと挑んでいる人がいる。タケイファーム(千葉県松戸市)を運営する武井敏信(たけい・としのぶ)さんだ。

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ピンクのブロッコリーを探してみる

武井さんの畑は、千葉県柏市の2カ所にある。面積は合わせて1.8ヘクタール。カラフルなイタリア野菜などを含め、100種類以上の品種を栽培している。
特徴的な野菜の一つが、日本では珍しいが欧米ではポピュラーなアーティチョークだ。地中海が原産の植物で、つぼみの部分を食べることができる。武井さんは毎年5月にアーティチョークの畑に消費者を集め、収穫を楽しんだり、近くの公民館で料理の仕方を学んだりするイベントを開いている。
都市近郊の小規模経営農家で、いろんな特徴的な野菜を作っている――。ふつうならそう説明しそうなところだが、そんな類型的な表現では武井さんの営農の形を理解できない。ここで取材中に武井さんが投げかけた問いを紹介しよう。
「ブロッコリーって何色ですか」。そう聞かれ、筆者が「緑色ですよね」と答えると、武井さんは次のように続けた。
「そう、緑色。でもブロッコリーとピンクの2つのキーワードで検索してみると、ヒットすることがある。そうしたら、調べてタネを入手するんです」

農業の常識にとらわれない発想を大切にする武井敏信さん

「ネットで調べると、世界にはいろんな野菜があることに気づく。野菜への興味が深まりました」。武井さんはそう話すが、重要なのは単に好奇心を満足させるだけではなく、それが営農の戦略に直結している点だ。
もしふつうのコマツナをふつうの時期にふつうの大きさに育てて出荷したとして、他の生産者のコマツナと差別化できるだろうか。もちろん、売り方で差を出すという方法もあるが、武井さんはもっと明快な方法を選んだ。
キーワードの一つとして武井さんが強調するのが、「サイズ感」。目的は野菜の新しい価値を提示することであり、そのことによって変わるのが野菜の値段だ。それを説明する前に、武井さんの歩みに簡単に触れておこう。

イタリアのトスカーナ地方が原産と言われるキャベツのカーボロネロ

武井さんは実家が農家。だが、最初は自分の仕事として農業を選ばず、自動車の販売店で11年間働いた。営業成績は悪くなく、店長まで任された。だがそのことが、やがて転職を考えるきっかけになった。
店長になって知ったのは、管理職の仕事の難しさだ。部下のミスに対するクレームにも、最後は自分が対応せざるをえない。営業に回せる時間が減り、給料も目減りした。そんな日々に、いつしか疲れを感じるようになっていた。
自動車販売の仕事をやめた後、10カ月ほどは次の仕事を求めて職業安定所に通ったりした。だが、思うようにやりたいことが見つからず、33歳のときに実家で就農した。今から20年ほど前のことだ。

タケイファームの“ちょっとふつうじゃない”魅力

必ずしも前向きな気分で農業の世界に入ったわけではない。それでも武井さんは就農に際し、2つのことを目標に掲げた。野菜を高く売ることと、農業の世界でメジャーになることだった。
まずオークションサイトを使い、野菜セットの販売を始めてみた。栽培方法はほとんど自己流で、いろんな種類をつくってみては、箱に詰めて販売した。ふつうは「新鮮野菜のとれたてセット」などと名前をつけるが、「本物の野菜を食べてみませんか?」という「挑戦的なタイトル」(武井さん)で売り出した。

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