達人に聞いた農業バイトの魅力
長野の高原レタスの苗植えと収穫、茨城のレンコンや北海道・十勝の長芋の収穫、静岡のミカンの収穫と出荷……。山崎さんが大学時代に農業バイトや研修で訪問した農家や農業法人は北海道から沖縄まで約30カ所に上ります。1日だけから数日という契約が多く、リピーターとして何度も通ったところもあるそうです。
「印象に残っているのは長芋の収穫。機械で深い穴を掘ってその中に入り、地中に伸びた長芋を掘り出していったんです。面白かったですよ。レンコンの収穫も忘れられません。11月の寒い季節でしたが、ウエットスーツを着て水田に入り、大きなホースでレンコンを吸い取りました。終わったあとは冷たいプールに入ったあとのように冷えましたが、楽しい経験でした」
と、当時の思い出を話してくれました。
農業バイトの一つ一つで得たものが、今の山崎さんの考え方や行動の礎となっているそうです。その一方で初めて経験する仕事も多く、小さな失敗も……。そこで今回はあえて、自身やほかの農業バイトさんがしてしまった失敗を教えてもらい、これから農業バイトを始める人が失敗しないための7つのポイントとしてまとめました。

茨城のレンコン畑の作業は大変だったけれど、楽しい思い出とのこと
失敗しないための7つのポイント
ポイント1. 最寄り駅からバスがなくて大慌て。交通手段の確認はマスト!
事前に必ず確認しておきたいのが、就業先の農家までの交通手段です。最寄り駅や空港まではもちろん、そこからの交通手段も確認しておくことがマスト。これを怠ると「駅に着いたものの、歩ける距離ではなかったので、どうやって行ったらいいのか途方にくれてしまった」といった失敗も……。送迎をお願いできるか。ない場合はバスがあるのか、それともレンタカーやタクシーの利用になるのか、その手配や費用も含めて調べておくようにしましょう。
ポイント2. 寮は食事付きと思い込み、初日はコンビニ弁当に。宿泊の条件はしっかり確認
宿泊先は寮や農家の一室などを用意されていることが大半です。事前に確認しておきたいのが宿泊はどこになるのかと、食事の有無。寮と聞くと賄い付きと思ってしまうかもしれませんが、自炊も少なくありません。それを確認しておかないと、材料を買うのが間に合わず「とりあえず初日の夕飯はコンビニで間に合わせた」なんてことにもなりかねません。また、自炊の場合、周囲にスーパーなど食材を調達できる店があるかや、車が必要なときに借りることができるかなども併せて確認しておくと安心です。
ポイント3. 力任せに体を動かしてへとへとに。作業のコツは事前にチェック
農業バイトが担当する作業は、苗植えや収穫、出荷など手作業が基本。ずっと座りながらの作業や重たい野菜の収穫は、慣れないと必要以上に時間がかかり、余分な力を使いがちです。でもそれぞれの作業には、体力を消耗しすぎずにできるコツがあります。すぐには習得できなくても、効率よく作業を行うにはどうしたらいいかのコツを確認しながら、体への負担がかかりすぎないように取り組みましょう。
ポイント4. 畑にトイレがなかったため、作業を中断。作業前にはトイレへGO!
農作業での意外な盲点がトイレ。ほ場の周囲にはトイレがないことが多いので、事前にすませておくことがおすすめです。もちろん作業中に行きたくなったら、遠慮なく申し出ることに問題ありません。ただほ場が農家や法人の事務所から離れた場所にあることも多く、中断する時間が長くなってしまうと、予定していた作業が滞ることになりかねません。あらかじめトイレに行っておくのも準備の1つと心得ましょう。
ポイント5. 厚手の手袋が繊細な作業に合わず四苦八苦。道具の用意は作業に合わせて
農作業のマストアイテムの1つが手袋。種類が多くて迷いますが、作業によって材質や厚さの選び方が異なります。ビニールやゴムの薄手の手袋は、種まきや定植などの細かい作業向き。通気性があるタイプなら夏場の作業もしやすくなります。厚手のゴム手袋や軍手は収穫作業など物を持ったり、運んだりする作業に適しています。雨の日や寒い日の作業には、防水性や防寒性のある手袋を用意しておくといいでしょう。仕事内容を確認して、事前に準備しておくと作業がスムーズに進みます。
ポイント6. ポケットからスマホが落ちて泥まみれ。作業着選びはポケットも大切
農作業中の作業着は動きやすいものを選びましょう。汗をかくので、脱ぎ着しやすい服装がおすすめです。気を付けたいのがスマホの収納。作業着のポケットに入れておくのが一般的ですが、ポケットの大きさが小さめだと作業中に落ちてしまう心配もあります。スマホがすっぽり入るようにポケットが大きめの服か、チャック付きの服がおすすめです。
ポイント7. 曇り空で油断したら真っ黒に日焼けしてしまった! UV対策は念入りに
野外での作業で忘れてはならないのが、日焼け対策。日差しの強い日はもちろんですが、曇り空の日でも意外に日焼けするものです。油断していたら真っ黒に日焼けしてしまった!なんてことにならないように、日焼け対策は念入りに行いましょう。汗をかくので、水に強いタイプの日焼け止めを選ぶとより安心です。
農業バイトで見えた日本の農業
山崎さんが農業バイトや研修先を選ぶときの基準にしていたのが「単一品目に絞って栽培している農家や農業法人」でした。1つの作物をどう効率よく栽培し、どのように売っているかに興味があったといいます。もちろん数日のバイトで販売戦略まではわかりませんが、作業を通してそれまで思っていた日本の農業と違う姿が見えたといいます。
たとえば高原レタスの収穫。深夜2~3時頃から収穫を始めるのが一般的ななか、山崎さんのバイト先は朝5時から開始していたそうです。その時間でも効率よく収穫すれば問題ないという経営者の考え方からきたものでした。こういった既存の考え方を疑いながら、自分たちのやり方に変えていく農業経営者の姿はほかの農家でも見ることができ、会社員としての仕事でも役に立っているそうです。
「農家が高齢化しているとよくいわれますが、僕が出会ったのは若くて元気な方ばかり。かっこいい農業経営者がこんなにいるんだと知りました。農業バイトは短い期間ですが、こういった元気な日本の農業の姿に触れることができ、忘れがたい体験になると思いますよ」
と、山崎さんはそう話してくれました。
今、農業の現場は、新型コロナウイルスの影響で人手不足が深刻化し、人材を求めています。この機会に農作業を手伝い、農家の皆さんと一緒に「日本の食」を支える仕事をしてみませんか。