育てる品種は毎年変わっていい 武井流「品種の取捨選択法」

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育てる品種は毎年変わっていい 武井流「品種の取捨選択法」

連載企画:営業しない農家の売上アップ術

育てる品種は毎年変わっていい 武井流「品種の取捨選択法」
最終更新日:2020年08月04日

農業を始めて一度の営業もせずに、現在は栽培した野菜の95%をレストランへ直接販売しているタケイファーム代表、武井敏信(たけい・としのぶ)です。このシリーズでは売り上げを伸ばすためのちょっとした工夫をお伝えします。

どの品種を選ぶかは農家次第、でも、その選び方のベンチマーク(基準)をしっかり持っておくことは必要。はやっているから、人気が高そうだから、という理由だけでなく、戦略的に品種を選んで売り上げアップにつなげる方法を伝授します。

品種選定は売り上げに直結する

栽培する野菜の種を選んでいる時は楽しい時間です。皆さんはどのような考えで選んでいますか。この連載の「売上アップの近道! 品種選びで他の農家に圧倒的な差をつけるには」にも書きましたが、この時間はとても重要で今後の売り上げに関係します。

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どの作物(品目)を育てると利益率が高いか、ということに着目する人は多いと思います。就農時はそれでも良いですが、就農してしばらくすると「品種」にこだわることで売り上げが変わることに気づき、毎年品種を変える人も多いのでは。新しい品種が毎年出る中、自分にとってベストなものを選ぶことが必要で、販売するステージによっても重要視するものは変わります。
私がマルシェで野菜を販売していた頃のお客さんは一般消費者でした。実はこう見えて人見知りですので自分から積極的に話すことは苦手です。まずは興味をもってもらうことでお客さんと話すきっかけを作らなければなりません。そのため、当時の品種選びで重要視していたのは「変わった野菜」でした。日本ではまだ珍しい西洋野菜やカラフルな色物野菜、見たこともない形の野菜など。これには興味をもってもらうことの他にも単価を高くすることができるというメリットもありました。忘れてはならないことは、これらの「変わった野菜」を目立たせるためにも、一般に流通している、いわゆる普通の野菜もバリエーションとして陳列する必要があるということです。

黒い野菜をテーマにした時栽培した黒ニンジン

現在の私のお客さんはシェフです。販売するステージが飲食店となり、品種選びで一番に重要視するのは「味」。そして、彼らがフランスやイタリアなどで修業時代に普通に使っていた西洋野菜は欠かせません。最近では、西洋野菜を作る農家も増えてきていますので、西洋野菜の中でも希少価値がある品種を栽培することで他の農家との差別化につながります。

牡蠣(かき)の味がする不思議なオイスターリーフ

武井流「品種の試し方」

私の畑にはハウスがありません。露地栽培で年間約140品種を栽培して飲食店に出荷しています。ナスやキュウリなどは、基本、年に1度しか栽培することができません。その1度のチャンスに興味のある品種、数種類の種をまいてみるのです。1種類を数本でもかまいません、畑のスペースと労働力に見合った、できる限り多くの品種を試してみるのです。毎年1種類の品種を試していたら5年で5品種。毎年10種類の品種を試せば5年で50品種。この差は非常に大きなもので、知識にもつながり、他の農家は持っていない強力な武器となります。実際、これほど試さずとも、あなたの農園で販売する力強い定番となる品種が見えてくるはずです。

現在、タケイファームのレギュラーとして毎年栽培している定番品種がありますが、ここにたどり着くまでにはいろいろな品種を試してきました。その中で、
・味
・販売価格
・お客さん(シェフ)の感想
・栽培が合っているか
という、タケイファームのガイドラインをクリアすることでレギュラーと呼べる品種となります。最後の「栽培が合っているか」というのは、畑に合っているか、クオリティーが高いものが作れるか、労力に見合っているか、自分に合っているか、ということです。
私のお客さんはプロですので味が良くなければなりません。品種によってはベストな調理法がありますのでその調理法を伝えることも大切です。ベストな調理法によって引き出された品種のポテンシャルを知ったシェフは、その野菜を使ってみたくなり、どうしても使ってみたいと思えば私自身が納得した価格設定ができます。そしてこれも大切なことですが、シェフに感想を聞きます。どのように調理したか、何と合わせたか、欠点があればそれも教えてもらいます。さらに他にも合いそうな調理法を教えてもらえば私の知識が増えますので次につながります。

タケイファームのナスは「フィレンツェ一択」

「フィレンツェ」という品種のナスを例に説明します。最近では、作っている人も増えてきましたが、私がフィレンツェに出会ったのは2011年2月。とても興味をそそるナスだったのです。そして、この年の7月、初めてブログにアップしました。知り合いの農家さんからは「フィレンツェをはやらせたのは武井さんですよね」と言われることもあります。

たどり着いたナス「フィレンツェ」

それまでにたくさんのナスの品種を栽培してきました。普通のナス、水ナスや賀茂ナスなどのブランドナス、ヨーロッパやアジアなど海外のナス、長いもの、丸いものなど形の変わったナス、白、緑、ゼブラ模様などの色が変わったナス――。
しかし、現在栽培しているナスは「フィレンツェ」というイタリアの品種のみです。なぜならば、私の中でフィレンツェを超えるおいしいナスがないから。似たような形で同じ色のイタリアのナスも試しましたが、フィレンツェの味は超えられませんでした。ただし、このナスは加熱することによってポテンシャルが引き出されますので、漬物など生で食べる料理には向いていません。シンプルでおいしい食べ方は、厚めに切って、フライパンでオリーブオイルをひいて両面を焼いて塩で味付けすること。切る際、横にスライスするとそれぞれの大きさが変わりますので、縦にくし形に切った方が形はそろいます。このフィレンツェの魅力は加熱することによってトロけてしまう果肉。このようなナスは他にもあるのですが、最大の特徴は皮の柔らかさ、力を入れずにナイフで切れてしまいます。
ナスはほとんどの人が食べたことがある野菜だと思います。知っている野菜については比較することが可能です。よって、果肉のおいしさや皮の柔らかさはシェフにとっても魅力的で、その料理を食べたお客さんの反応も上がるのです。この結果、タケイファームで栽培した他の品種は人気がなくなり、フィレンツェだけを栽培することになったのです。

武井流「新品種の売り出し方」

野菜のポテンシャルを引き出すために

フィレンツェのポテンシャルを知ってもらうためには、収穫したフィレンツェをシェフに食べてもらわなければなりません。私の野菜は、基本、金額を決めてお任せで発送しています。毎週送る野菜の中にフィレンツェを入れるわけですが、普通のナスのように扱われてしまってはポテンシャルが発揮されません。いつものあいさつ状、納品書に加えて、簡単なおすすめの調理法を書いた説明書も同梱します。

レストランのメイン料理、牛肉に合わせたフィレンツェ

忘れてはならないSNSでの発信

私は、営業はしませんが情報は発信します。フィレンツェのようにタケイファームの定番としてプッシュできる野菜はFacebookやInstagramで紹介します。特徴、おすすめの調理法、そして魅力的な画像。これによって、シェフは野菜が届く前にメニューを考えることもできます。時には新しい取引先につながるケースもあります。

イベントの開催

「タケイファームのフィレンツェ」としてさらにたくさんの人に知ってもらうためにイベントを開催します。畑での収穫体験やシェフとコラボしての料理教室。イベントを開催することによって、参加したお客さんはSNSでその様子をアップしますので、参加していない人の目にも触れることになります。

料理教室でシェフとコラボ

いつでも品種を乗り換えるための準備

毎年のように種苗メーカーから新しい品種が出てきます。現時点では一番と思っている品種よりもさらにおいしい品種が出てくるかもしれません。私は現在の品種の他にいつも新しい品種を試します。出荷用としてではないので数は多くありません、あくまでもお試しです。これによって、新しい品種がタケイファームのレギュラーとなる可能性も十分にあるのです。シェフと話をしたり、食べ歩いて勉強したり、常にアンテナを張ってニーズをくみ取ることが新しい品種を選ぶ基準にもなります。

おまけの虎の巻

客からお願いされた品種は作るべきか?

取引先のシェフから「これ作ってくれませんか」と言われることがよくあります。お客さんから信用されているからこその依頼となりますので、正直素直にうれしいです。この場合、育てるべきか? 結論から言うと断ります。過去に「ねずみ大根」という辛みの強い品種を頼まれて栽培したことがあります。シェフは「全部買い取るから」と言ってくれました。面倒でしたが、時期をずらして2回にわけて種まきをして50本ほど栽培しました。虫食いなどのロスを計算して50本にしましたが、個人店でそんなに多くの大根は必要としません。結果、私が自ら選んだ品種ではないものを他に販売しなければならないエネルギーを使うことになったのです。1本250円で50本販売したとしても売り上げは12500円。今思うと、この時は売り上げのことよりもシェフからお願いされたうれしさを重視していたのです。シェフとの関係の作り方は、別の方法でも十分できます。

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