パッケージに舞妓の写真、売り上げに弾みをつけた戦略にせまる

マイナビ農業TOP > 農業経営 > パッケージに舞妓の写真、売り上げに弾みをつけた戦略にせまる

パッケージに舞妓の写真、売り上げに弾みをつけた戦略にせまる

連載企画:農業経営のヒント

パッケージに舞妓の写真、売り上げに弾みをつけた戦略にせまる
最終更新日:2020年09月04日

農業を取材していると、斬新なアイデアで大きな可能性を感じさせてくれる人に出会うことが度々ある。九条ネギやトウモロコシを生産しているロックファーム京都(京都市)の社長、村田翔一(むらた・しょういち)さんもその一人だ。若いチームの力で限界を突破しようとする村田さんにその戦略を聞いた。

取り扱い店舗が少ない九条ネギ、販路開拓に成功

村田さんは現在、34歳。実家は兼業農家で、村田さんはもともと消防士の仕事をしていた。だがアルバイトの形で農作業を手伝ううち、気持ちは次第に農業へと傾いていった。「本当にやりたいのは、農業ではないのか。一回きりの人生、勝負をかけてみたい」。仕事を農業一本に絞るために2018年に消防士を辞め、2019年1月にロックファーム京都を立ち上げた。
満を持しての設立だった。アルバイトの形ではあったが、作付計画を自分で立て、他のバイトに作業を指示するなど、消防士を辞める前から実質的には経営を担うようになっていた。そうした中で、農業について抱くようになった疑問があった。「なぜもっとお互いに協力し合おうとしないのだろう」
販売は以前から農協に頼っておらず、消防士を辞めた後は販路の拡大に一段と力を入れようと思っていた。その際に課題になると考えたのが、出荷の安定だ。京都産の九条ネギはブランドイメージが高いにもかかわらず、なぜ関東など他の地域であまり売られていないのか。スーパーなどにヒアリングすると、こんな答えが返ってきた。「出荷が不安定なので取り扱いたくない」

ロックファーム京都を立ち上げた村田翔一さん

ロックファーム京都は栽培面積が10ヘクタールある。ネギ農家としては大規模の部類に入るうえ、さらなる規模拡大も見込んでいた。だが、それを待っていたのでは販路を一気に増やすのは難しいと考えた。「自分だけでは限界がある。チームを作ろう」。そう決めた村田さんは、生産者が共同で農産物を販売するための法人、京葱SAMURAI(京都市)を2019年7月に発足させた。
設立には、九条ネギを生産している2つの農業法人が参加した。森上翔太(もりがみ・しょうた)さんが社長を務めるあぐり翔之屋(京都府木津川市)と、山本将人(やまもと・まさと)さんが経営するとらこ(京都府八幡市)だ。2人とも村田さんと同世代。若手農家の交流会で知り合い、これからの農業の可能性について語り合って意気投合していた。2018年には農産物の商談会に共同で出品するなど、京葱SAMURAIの設立に向けて準備を進めてきた。
設立から1年余り。新型コロナウイルスによる混乱の影響を多少は受けたが、品質の高さと安定供給が評価され、スーパーや生協などを中心に売り先は約20社にまで増えた。販路の開拓を担当しているのは、代表の村田さんだ。

京葱SAMURAIブランドの九条ネギ

積極的な営業で他の農家と差別化

村田さんが販路の開拓を担当しているのは、発起人であるという事情に加え、「営業は得意」と自認していることもある。例えば、スーパーや外食チェーンのバイヤーが集まる農産物の展示・商談会に積極的に出品する。
ほとんどの農家はそうした機会を利用しないため、それだけでも差がつくが、バイヤーの目をひくためにもう一工夫する。「京都」や「侍」のイメージを強調するため、はかま姿で参加するのだ。村田さんは「他の農家はあまりそういうことをしない。だから農業には勝算があると思った」と話す。
そうした工夫は、取引先を迎える事務所にも施した。ロックファーム京都と京葱SAMURAIの2社の本社を兼ねたオフィスは、内装を白で統一して清潔感を前面に出したのだ。「相手に『ここは信用して商売ができる』という印象を持ってもらうには絶対に必要。一番こだわった部分です」という。

白で統一した事務所の内装

九条ネギと並び、ロックファーム京都の主力作物であるトウモロコシのことにも触れておこう。商品名は「京都舞コーン」。産地が京都であることをアピールするとともに、「舞妓(まいこ)」を連想してもらうことを狙って考えた名前だ。それだけでなく、パッケージには舞妓の写真を印刷した。名前もデザインも将来、海外に輸出することも視野に入れて考案した。
ここまでで十分にインパクトがあるが、商品の知名度を高めるためにさらに一手を打った。京都の祇園の茶屋で働いている本物の舞妓さんに畑に来てもらい、販売促進のイベントを2020年6月に開いたのだ。この話題をメディアが放っておくはずはなく、地元紙が写真付きで紹介した。もともとスーパーに出せばすぐ完売する人気商品だったが、これで販売に一気に弾みがついた。
そこまでやる必要があるのか、と思う人もいるかもしれない。だが、とことんやるからこそ、差別化ができると村田さんは考える。そして当然、背景には品質への強い自信がある。では自らは営業に飛び回る中で、どうやって栽培のレベルを維持し、高めているのか。次にその点を説明しよう。

畑に招いた舞妓さんと一緒に。左が山本将人さん、右が森上翔太さん(写真提供:村田翔一)

5年先には10億円の見込み

ロックファーム京都を立ち上げる際、村田さんは現場を支えてくれるスタッフを募集した。応募があったのは約30人。農業分野の求人でありがちな話だが、面接をしてみると「他の仕事がうまくいかなかったので」「何となく自然の中で働いてみたい」という人が少なからずいた。
そうした中で、村田さんが驚いた人材が3人いた。年齢は20~30代。農業に強い情熱を持って応募してきてくれたのだ。医療機器メーカーや運送会社に勤めていて、ロックファーム京都に転職すれば、収入は減る。「本当にうちに来たいの?」。そうたずねる村田さんに、3人はうなずいてみせた。
「何かやりたいという気持ちにさせるものが、ここにはあるって言ってくれたんです」。村田さんはそうふり返る。この3人に農作業や集出荷作業を任せたところ、期待を大きく上回るレベルで仕事をこなしてくれた。もちろん、トラブルが起きないよう村田さんからさまざまにアドバイスをしている。だがそれ以上に効果を発揮したのは、3人の熱意と努力だった。経営や営業で忙しい村田さんが、現場を離れることができたのはこのためだ。
京葱SAMURAIに集う3社の売り上げは合計で約3億円。生産と販売が軌道に乗ったことで、5年先には10億円に増やすことができると見込んでいる。「『無理だ』という言葉を使うのがすごく嫌い。ぼくらにはできることが無限大にある」。村田さんはそう話す。若い力を結集した挑戦の行方に注目したい。

栽培や集出荷を担当している社員たちと(写真提供:村田翔一)

関連記事
農業経営のヒント
農業経営のヒント
「食と農」の現場を日々取材する記者が、田畑、流通、スマート農業、人気レストランなどからこれからの農業経営のヒントを探ります。

関連記事

タイアップ企画

カテゴリー一覧