コロナで見えてきた中国産に競り勝つ戦略

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コロナで見えてきた中国産に競り勝つ戦略

連載企画:農業経営のヒント

コロナで見えてきた中国産に競り勝つ戦略
最終更新日:2020年08月25日

新型コロナウイルスの感染拡大による混乱で思わぬ特需が発生した品目がある。神事に使ったり、神棚に飾ったりするサカキだ。サカキを栽培する東京都青梅市の農業法人、彩の榊(さいのさかき)はこのチャンスにどう対応しようとしているのか。社長の佐藤幸次(さとう・こうじ)さんに取材した。

一時は5割減、コロナのもとで需要がV字回復

佐藤さんは実家が花屋。家の仕事を手伝うかたわら、大手の花屋で修業のために働いてみて、サカキに安定した需要があることを知った。さらに近くの山に大量のサカキが自生していることにも気づき、独立してサカキの伐採と販売を手がけ始めた。約10年前のことだ。
伐採するサカキは、山の所有者である鉄道会社にかけあって確保した。鉄道会社は当時、山の中に遊歩道を造ることを計画していた。佐藤さんは遊歩道の造成を手伝う代わりに、サカキを切っていいという約束を取りつけた。
苦労したのは販売だ。市場に持って行っても期待したような値段で売れず、アパートに家賃を払えずに車で寝泊まりしていた時期もある。だが佐藤さんの熱意を知った花屋から指名で市場に注文が入るようになり、販売は徐々に軌道に乗っていった。市場を通さず、花屋などに直接売るルートも開拓した。
拡大する需要に応えるため、栽培も始めた。天然のサカキは山の斜面に生えていることが多く、伐採は危険を伴うため、量を増やすには限界があった。そこで太陽光パネルの下で作物を育てる「営農型発電」という制度を活用。売電事業を手がける企業と組んで農地を借り、サカキを栽培し始めた。日があまり差さない場所でも育つサカキの特性が強みになった。

天然のサカキの多くは山の斜面に生えている

コロナの影響に話題を移そう。サカキの枝を数本、ひもで結んで束ねる「造り榊(さかき)」の販売数をみると、4月は前年同月と比べて約5割減った。まずホームセンター向けから減り始め、スーパーや花屋にも影響が広がっていった。緊急事態宣言で外出を控える人が増えたためだ。飲食店向けに食材を販売している農家と同じようにダメージを受けた。
ところがその後、販売はみるみるうちに回復していった。5月は前年同月と比べて3割減で、6月は2割減。7月に早くも前年並みまで戻すと、お盆で需要が集中する8月には一気に6割増まで販売が急伸した。
原因は市場の約8割を中国産が占めるというサカキの特殊事情にある。中国からサカキを輸入するルートは航空便と船便があるが、そのうち航空機で運んでくる量が大幅に減ったのだ。コロナの影響で運航が減ったためだ。その結果、国産サカキの需要がにわかに高まった。
そこで佐藤さんは、これまで構想をあたためてきた新たな販売方法を実行に移すことにした。目標は、安値で日本のサカキ市場を席巻してきた中国産に取って代わること。「新鮮で品質の高い国産のサカキをもっと家庭に広めたい」。早ければ9月中に彩の榊の新しい商品が店頭に並ぶことになる。

国産のサカキの普及を目指す

中国産に競り勝つための戦略とは

どうすれば日本で圧倒的なシェアを占める中国産に競り勝つことができるのか。佐藤さんが見つけ出した答えは、束ねる枝の本数を減らすこと。現在、スーパーなどで販売されている造り榊は9~12本を束ねてある。値段は中国産が130円程度なのに対し、国産は約300円。そこで佐藤さんは1束を2本に減らすことで、値段を大幅に下げることを考えた。想定価格は約100円だ。
いくら値段が安くても、本数が2本では中国産に勝てないのではないか。そうたずねると、佐藤さんは逆に筆者にこんな質問を返した。「消費者がサカキを買うとき、品質とボリューム、価格のどれを重視していると思いますか」
答えは1番が価格で次が品質、最後がボリュームだった。佐藤さんはリサーチ会社に依頼して2000人を対象に調査してもらい、この結論を得た。本数を思い切って減らしても大丈夫だと考えたのはこのためだ。
品質面ではもともと国産に優位性があった。中国産は輸送効率を優先して箱にぎっしり詰めて運んでくるため、葉っぱが蒸れて、店頭に並ぶころには一部が傷んでしまっていることが少なくない。佐藤さんは「飾るとき葉っぱがパラパラ落ちてしまうと嫌じゃないですか」と話す。
これに対し、国産は伐採してから時間がたっておらず、しかも余裕を持たせて梱包するために葉っぱの傷みが少ない。束ねるのを2本に減らすと、品質はさらに安定する。そこで「2本で100円」の商品を企画した。

これまで彩の榊の主力だった9本の束の商品(左)と、近く販売を始める2本の束の商品

束を2本に減らすことを決めた理由はほかにもある。以前と比べ、神棚が小ぶりになってきているのだ。最近、ホームセンターなどで販売されているものは、横幅が以前の3分の1以下で、シンプルな造りのものが主流だ。
部屋に飾るときは、小さな台座を壁にかけてその上に置く。その両脇にサカキを飾ろうとすると、9本の束では大きすぎて見た目のバランスがあまりよくない。しかも小さな台座に置こうとすると、かなり窮屈な感じになる。
では本数を2本に減らしても儀礼上、問題ないのだろうか。そのことを確かめるため、佐藤さんが神棚の販売店に聞くと、返ってきた答えは「サカキが新鮮で、飾る人の心がこもっていればそれで十分」。この言葉で勇気づけられた。
ここまでくれば、あとは販売テストだ。いきなり2本に減らすのは避け、あるスーパーに相談して4本の束を販売してみた。値段は約200円。すると、9本で約300円の商品より売れることがわかった。ただそれでも130円の中国産ほどは売れない。こうした結果を踏まえ、早ければ9月に2本の束を売り出すことにした。

最近多いシンプルな神棚にマッチする

営農型発電で事業が急拡大、どのように人手不足を解消したのか

彩の榊が運営しているサカキの農場は現在、5カ所にあり、面積は合計で5ヘクタールある。そのうち3カ所に太陽光パネルが設置してある。ただこれは同社の今後の発展にとっては、ほんのスタート台にすぎない。
すでに20カ所で新たな営農型発電の計画が決まっており、面積は合計で70ヘクタールに増える。そこまで実現するのが2年以内。さらに数百カ所から案件の提案を受けており、計画の中身を慎重に見定めながら、立地を選定している最中だ。成長の可能性は大きく広がっている。
ここでも「2本の束」が大きな意味を持つ。安い中国産との価格競争と並び、サカキのビジネスを拡大するうえで難点になっていたのが、枝を束ねるスタッフの確保だった。日本の産業界を広く人手不足問題が覆う中、加工スタッフが足りなくて事業を大きくできない恐れが高まっていたのだ。
そこで佐藤さんが相談したのが、障害者の自立を支援する社会福祉法人の栗の実福祉会(埼玉県日高市)だ。これまでも袋にシールを貼る作業などを委託してきたが、新たにサカキの枝を束ねる作業を頼んでみた。その結果、4本の束は難しいが、2本の束なら作業を委託できることがわかった。
ビジネスを飛躍させるには、マーケットの変化をいち早く察知し、それに見合った商品やサービスを企画し、提供できる体制を整える必要がある。佐藤さんは今、それを実現することができると確信している。
「コロナの前は構想を実現するのはまだ先のことだと考えていた。でも中国産が入って来なくて大勢の人が困っていると聞いて、今こそうちの出番だと思った」。佐藤さんは攻勢に出たわけをこう説明する。日本の神事に使うサカキの市場を国産で奪回する。その挑戦が始まろうとしている。

たくさんの枝を束ねるには熟練が要る

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「食と農」の現場を日々取材する記者が、田畑、流通、スマート農業、人気レストランなどからこれからの農業経営のヒントを探ります。

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