ハーブで売り上げ6億円、ニッチ市場で成長した原動力とは

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ハーブで売り上げ6億円、ニッチ市場で成長した原動力とは

連載企画:農業経営のヒント

ハーブで売り上げ6億円、ニッチ市場で成長した原動力とは
最終更新日:2020年09月04日

農業を始める際、どんな作物を選ぶかはその後の展開にとって大きな意味を持つ。プロのカメラマンだった吉岡清彦(よしおか・きよひこ)さんが選んだのはハーブ。30年余り前にまず仕入れ販売から手がけ始め、その後、栽培へと進んでホームセンターからスーパーなどに販路を広げていった。その魅力にほれ込んだ作物で、事業を大きくできたハッピーな例を紹介したい。

ハーブ業界をけん引するビジネスは小さな農場からスタート

吉岡さんが社長を務め、ハーブの栽培を手がけている会社はポタジェガーデン(埼玉県久喜市)。設立は1987年。埼玉県久喜市と羽生市、長野県小諸市、千葉県南房総市で合計で20ヘクタール強の自社農場を運営しているほか、契約農家からもハーブを仕入れている。バジルやミント、ローズマリーなど100種類以上のハーブを扱い、売上高は年間で6億円に達している。
ハーブには、カメラマンの仕事を通して出会った。料理の撮影をしたことをきっかけに、食材の野菜も撮影し始め、海外の食品などを扱う高級スーパーに行って西洋野菜やハーブに注目。千葉県の農場に撮影に行き、栽培中のハーブに接したことで、その魅力のとりこになっていった。
「はじめは農業をやる気はまったくなく、ハーブの魅力をどうやって人々に伝えるかを考えていた」。ポタジェガーデンを立ち上げた経緯について、こう振り返る。吉岡さんにとって、ハーブは欧州文化の象徴。その販売に携わることで、ハーブを暮らしに取り入れることを提案したいと考えた。

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ポタジェガーデンが提案するハーブを使った料理。ローズマリーと野菜の炒めもの(左)とディルとサーモンのマリネ

最初に手がけたのは「ハーブに関わるすべてのものの卸販売」(吉岡さん)。扱った商品は、イタリアンパセリやルッコラなど食用のハーブのほか、ハーブティー、ハーブで作ったオイル、乾燥ハーブの香辛料、ハーブを原料にした染め物など多種多様。「生活の場を豊かにする緑の有用植物」というコンセプトで、まだ日本ではなじみの薄かったハーブの普及に努めた。
栽培に進出したのは、苗を扱ったことがきっかけだ。当初は農家に栽培を委託して販売していた。だが、量や質が安定しなかったため、売り先のホームセンターの期待に応えることができなかった。ホームセンターから「自分で作ってほしい」と頼まれたことをきっかけに、苗を栽培することを考え始めた。
最初に農場を構えたのは、埼玉県加須市。たまたま事務所に来たオフィス機器の販売会社の担当者に事情を話したところ、「うちの実家の栽培ハウスがもうすぐ空くから、使っていいよ」と誘ってくれた。面積は0.3ヘクタール弱。1990年代半ばのことだ。この小さな農場から、いまやハーブ業界の一角を占めるにいたったビジネスはスタートした。

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ハーブの栽培の様子。作業をしているのは農場長の平田智康(ひらた・ともやす)さん(写真提供:ポタジェガーデン)

王道の営業方法と楽しみ方を見せる工夫

年間で6億円という売上高はハーブだけではなく、野菜全体を見渡しても有数の事業規模だ。サラリーマンの家庭で育ち、カメラマンから農業に転じた吉岡さんは、どうやってビジネスをここまで発展させることができたのか。
「売り先があるという状態での幸運なスタートだった」。吉岡さんはそう語る。ホームセンターに頼まれる形で栽培を始めたからだ。だがそこに販売できる量には限りがあり、他のホームセンターが同じようにハーブを売りたいと思っていたわけでもなかった。
そこで本格的に始めたのが営業だ。首都圏の有力なホームセンターのバイヤーに商談を申し込み、ハーブの苗を置いてくれるよう説得した。だが取引を始めるにあたり、今では想像しにくい難題があった。ハーブは当時、「いい香りはするが、花が咲かない草」(吉岡さん)という位置づけだったのだ。
吉岡さんはこのとき、営業の王道と言うべき手法を実践した。ハーブがいかに暮らしを豊かにするかを説き、ホームセンターの担当者と一緒になって売り場作りを考えたのだ。需要を創造する提案型の営業だ。

苗の数々new

さまざまなハーブの苗(写真提供:ポタジェガーデン)

課題は、ハーブを育てたことがない人にどうやってハーブを買ってもらうかにあった。そこで、まずハーブの種類や楽しみ方を書いた札を作り、苗のポットにつけた。それだけでは不十分と思い、A4からA3サイズのポップを作って売り場に置いてもらった。このとき使ったのが、長年撮りためたハーブの写真だった。カメラマンとしてのキャリアが役に立った。
今から20年ほど前には栽培用ではなく、食用のハーブの販売をスーパー向けに始めた。ここで新たなテーマとして浮上したのが、通年での安定供給だ。苗の需要は、家庭で園芸が盛んになる春と秋に集中する。これに対し、食用のハーブは一年中切らさずに供給することを求められた。
そこで必要になったのが、栽培地域の分散だ。それまでは最初に農場を開いた加須市に続き、隣接する久喜市で農場を広げ、栽培を拡大していた。だが埼玉県では夏と冬にうまく栽培できない品種があった。そこで夏に涼しい長野県小諸市と、冬に暖かい千葉県南房総市にも農場を開いた。
栽培を軌道に乗せる過程で、売り先のスーパーも多様化していった。最初はレストランのシェフが買いに来る高級スーパーが中心で、次第に普通の消費者が買い物に来る一般のスーパーにも広がっていった。これに伴い、100~200円の小分けのパックなど、家庭で扱いやすい商品を開発していった。

調理方法の説明

調理方法をきめ細かく説明する(写真提供:ポタジェガーデン)

試練を乗り越えて実現した、日本人がハーブを楽しむ生活空間

ポタジェガーデンの成長の歴史は、理詰めできめ細かい戦略の成果にみえるかもしれない。打ってきた手のそれぞれに説得力があるからだ。だが、その大きな原動力となったのは、日本にハーブを広めたいという情熱だ。
商品を説明するための札やポップを作ったのも、単に売り上げを増やすためというよりも、ハーブのことをもっと知ってほしいという思いが背景にあったと理解すべきだろう。吉岡さんが売り上げと一緒に増やしてきたのは、食用として、あるいは観賞用に日本人がハーブを楽しむ生活空間なのだ。
筆者が「ハッピーな例」と感じたのはそのためだ。ここで強調しておきたいのは、吉岡さんの挑戦が30年余り前、ハーブの市場が今よりずっと小さかったときに始まったという点だ。需要が急拡大している分野のように、ある程度の成功を見込めるようなチャレンジではなかったのだ。
シナリオ通りに成長してきたように見える事業でも、その過程には必ずいくつかの試練があり、乗り越えるためのさまざまな努力がある。それを支えるのが情熱だ。吉岡さんは「何も知らなかったからよかった」と強調する。約束されていない未来にこそチャンスは広がっている。

切りハーブ

最近力を入れている「切りハーブ」。部屋に飾った後、料理に使ったり風呂に入れたりする(写真提供:ポタジェガーデン)

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