数々の受賞歴を持つ深作農園が語る、「農業が目指すべきものは何か」

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数々の受賞歴を持つ深作農園が語る、「農業が目指すべきものは何か」

連載企画:農業経営のヒント

数々の受賞歴を持つ深作農園が語る、「農業が目指すべきものは何か」
最終更新日:2020年09月11日

従業員に甘い顔をする経営者の中には、往々にして自分に自信のない人がいる。もし揺るぎない信念があれば、その実現のためにスタッフにも高いレベルの仕事を求めるだろう。では農業が目指すべきものとは何か。茨城県鉾田市でメロンやイチゴを栽培する深作勝己(ふかさく・かつみ)さんに取材した。

土が支える代々続く農業、励みは「最高においしい」の声

深作さんが経営する深作農園は栽培面積が約20ヘクタール。メロンとイチゴを中心に、サツマイモやトマト、ニンジン、コメなどさまざまな作物を育てている。鉾田市は2018年の野菜の生産額が全国一と農業が盛んな地域だが、その中でも有数の農場だ。
6次産業化にも積極的で、農園で栽培したメロンやイチゴなどを原料にケーキやパン、バウムクーヘンを製造。直営の洋菓子店やカフェは大勢の客でにぎわい、テレビ番組などで盛んに紹介されている。
深作農園の実力を示すのが、数々の受賞歴だ。国内最大の菓子の祭典「全国菓子大博覧会」で完熟メロンのピューレを使った菓子が2017年に最高賞の名誉総裁賞に輝き、農産物に含まれる栄養を評価する「野菜栄養価コンテスト」でサツマイモが2018年に最優秀賞を受賞。2020年2月には全国の農家が応募した「日本さつまいもサミット」の「べにはるか部門」で最高の評価を得た。
「賞を取りたくてやっているわけではありません。自分がどのレベルかを確認するために応募しています」。深作さんはそう話す。賞への挑戦は技術を高めるためのプロセスであって、それ自体が目標ではない。だからコンテストで高い評価を受けても「まだ全然満足していません」と語る。

バームクーヘンが人気の洋菓子店

バウムクーヘンが人気の直営の洋菓子店

もちろん、品質への評価は栽培や商品開発の励みになる。深作さんにとって、その一番の活力の元は、商品を買ってくれた人の反応だ。深作農園には毎月、数十枚の感謝状がファクスで届く。「今まで食べたことのないメロンの甘みに驚きました」「しっとりふっくらしたバウムクーヘンでとてもおいしかったです」。書き込まれているのは、品質への驚きの言葉の数々だ。
こういう内容を目にしたとき、深作さんは「自分のやっていることは間違いない」と実感するという。農園の事務所には郵送で届いたものも含め、感謝の言葉をつづった紙が約20個の段ボール箱に保管してある。深作さんはその一部を見せてくれながら、「私の宝物です」としみじみ語った。
ではどのような栽培方法で、高品質の作物を栽培しているのか。育てている作物が多岐にわたるので、今回は個々の栽培方法には立ち入らない。ここでは「農業が目指すべきものは何か」というテーマに関連し、深作さんが取材でくり返し強調したことに触れておきたい。土作りの大切さだ。
化学肥料の使用を極力抑え、自家製の堆肥(たいひ)を中心にじっくりと肥沃(ひよく)な土壌を作る。その結果、土の中に多様な微生物が住むようになり、作物の生育を助けるとともに、連作障害が起きるのを防ぐ。そして重要なのはその土が、祖父から父、父から自分へと受け継がれてきたものだという点だ。
「一代で終わってもいいと思うような営農は、自己満足でしかない。代々続くものを目指すべきだと思います」。深作さんはこう力説する。目標に掲げるのは、世代を超えたバトンの受け渡しであり、それを支えるのが土だ。こうした考え方は、農園にどんな人材を求めるかに深く関わっている。

顧客からの感謝状が励み

顧客からの感謝状が励み

「農園で働きたい動機が不純」、苦言の背景とは

深作農園は現在、社員を中心にアルバイトも含めて50人弱が働いている。農園の評判を聞きつけて、新卒から社会人まで求人に応募してくる人もたくさんいる。深作さんはこれまで、いずれ独立して自ら農場を開くことを目指している人を含め、農園で働きたいという人と数多く接してきた。
彼らのことを、深作さんはどう思っているのか。そうたずねると、かなりパンチの効いた答えが返ってきた。「動機が不純ではないでしょうか。農業のことを甘く考えている人が少なくないと感じています」
あらかじめ触れておくと、深作さんが「不純だ」と言っているのは、いま農園や店舗で働いているスタッフのことではない。動機について疑問を感じているのは、採用にいたらなかったその他大勢の人たちのことだ。
「この人は現実逃避したいだけなのではないだろうか」。彼らと接して、深作さんがまず感じるのはこうした点だ。「花や緑が好きです」。求人に応募した理由としてこんな言葉を聞くと「否定はしないが」と思いつつ、ついこんな疑問が浮かぶ。「本当に一生の仕事にしたいと思っているのだろうか」

メロン畑の様子

メロン畑の様子(写真提供:深作農園)

驚くのは、「勉強させてください」と言って訪ねてくる人がいることだ。そんな人に会うと、「勉強したいなら、専門学校に行けばいい」と言いたくなる。かといって、大学の農学部の学生なら大丈夫というわけでもない。痛感するのは「栽培に生かせる教育をほとんど受けていない」という点だ。
一方、採用してみると、予想していた以上に伸びる人もいる。具体例として挙げてくれたのが、高校卒業後に自動車メーカーで数年間働き、2020年はじめに農場に入ったスタッフだ。「工場の仕事は、いずれすべて機械に奪われてしまうと思いました」。これが自動車メーカーを辞めて来た理由だった。
仕事を始めてすぐアクシデントが起きた。彼の運転する軽トラックのタイヤが滑り、畑に突っ込んでしまったのだ。このとき深作さんは「辞めてしまうのでは」と心配したという。だがいい意味で予想に反し、その後も日々仕事にまい進。採用から半年であるにもかかわらず、いまや現場のリーダーの一人に成長した。
「見かけだけでは、あんなにガッツのあるヤツだとわかりませんでした」。深作さんは採用時のことをふり返ってそう話す。では彼と、現実逃避のように見える人はどう違うのか。「大切なのは、世の中の現実が見えているかどうか。彼は工場で働いてみて、このままではダメだと気づいたから強いんです」
農業が好きであるに越したことはない。だが、好きだからという理由だけで続けられるほど、農業は甘くはない。大切なのはとことんやり抜こうという気持ちだ。深作さんが最も重視しているのは、そうした覚悟だ。

主力作物の一つのイチゴ

主力作物の一つのイチゴ(写真提供:深作農園)

深作さんの考える農業の面白さ

深作さんは「不純な動機」について語る合間に、「農業のことを重く考えてほしいわけではない」「ハードルを上げようとは思っていない」といった言葉を幾度となく口にした。取材が終盤にさしかかったころには、「話した内容が厳しすぎたかもしれません」とつけ加えた。
それでも決して甘い言い方をしなかったのは、農業がいかに難しいかを自分自身、日々感じ続けているからだ。「知れば知るほど農業は難しい。勉強すればするほど何も知らなかったことに気づく。だからこそ面白いんです」
この「面白さ」は、栽培にとどまらない広がりがある。「作物はまず体を大きくし、十分に育つと花を咲かせ、実を実らせる。子孫を残し、やがて枯れていく。生きるとはどういうことなのか。哲学を感じるんです」。農業に正面から向き合わなければ、こうした実感は得られないだろう。
「どんな最新の設備もいずれ古くなり、劣化する。これに対し、人間と土は育つはずなんです。手をかければかけるほど、よくなっていくんです」。農業は一生をかけるに値する仕事であり、人間と土は世代を超えて並走し、より豊かな実りを未来に実現する。そう考えるからこそ、その場しのぎの曖昧な気持ちではなく、やり抜く思いで農業に挑んでほしいと考える。

世代を超える営農を追求している

世代を超える営農を追求している

ここまで深作さんの思いを中心に紹介してきたので、最後にその実力について改めて触れておこう。深作さんが参加したある農産物のコンテストの関係者によると、「審査員全員が一致し、断トツの評価だった」という。加工品を販売している洋菓子店やカフェを見て筆者も驚いたが、商品の魅力を含め、これほど洗練された店舗はあまり見たことがない。6次産業化の難しさが指摘されることが少なくないが、多くの事例がいかに中途半端かがよくわかった。
どんな仕事も人それぞれやり方があるように、営農のあり方も人によって違っていていい。だが、農業を大切な仕事と思い定め、真剣に取り組むことでしか見えてこない世界もある。そんな境地にいたってみたいと思うのなら、深作農園の門をたたいてみるのもいいのではないだろうか。

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「食と農」の現場を日々取材する記者が、田畑、流通、スマート農業、人気レストランなどからこれからの農業経営のヒントを探ります。

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