地場野菜以外の売り上げの重要性
直売所の構造的な課題
これまでもこの連載で何度も触れていますが、地場野菜の直売所においては、スーパーなどにない構造的な課題があります。特定地域の農家が栽培する野菜が商品の主力になるため、
・端境期の野菜不足が深刻になりがち
・野菜の粗利率が低い
・野菜相場の影響を受けやすい
という課題です。
同じ地域でとれる野菜を販売するということは、ハウス活用など栽培上の工夫をするとしても、時期ごとのとれる野菜はある程度限られてしまいます。また、地域ごとにどうしても野菜がとれない時期というのも存在します。縦に長い日本列島を生かした産地リレーの恩恵を受けられ、一年中豊富なラインアップを維持できるスーパーと比較すると、野菜が不足する「端境期」が発生してしまうのです。もちろん、直売所によっては市場から地元で取れない野菜を仕入れるということもあると思いますが、その比率が高すぎると地場野菜の直売所としての説得力がなくなるというジレンマがあります。
また、直売所においては委託販売の場合がほとんどで、手数料も10~20%に抑えられていることが多く、主力である野菜の利益率が低いことが多いです。これは、店舗運営においてはとても大きな課題です。
ただし、こちらはスーパーなどでも同じような状況かもしれません。青果部門の粗利率は一般的に20%程度と言われています。それでもスーパーの経営が成り立つのは、青果を客引きのキャッチ商品と位置づけ、合わせて別の商品の購入を促すことで売り上げや粗利益を確保しているためです。総菜や食料品といった、粗利率が高いものや単価が高いものなども合わせて購入してもらえれば、お客様を呼び込むために青果部門は粗利率が低くても良いのです。
さらに、野菜の販売には相場の影響が付きまといます。理想論で言うと、その直売所の野菜自体が支持され、相場(つまり他店での販売価格)とは関係なく売れることがベストであり、それを目指して日々経営はしますが、現実的には影響を受けざるを得ません。農家が値段をつける直売所の場合、相場が低迷している時期には相対的に販売価格が高くなり、客数が少なくなることが多いと思います。逆に、相場が高騰すると農家のつける価格が相対的に安くなり、客数が伸びることが多いです。相場の影響をなるべく受けない努力はできても、相場自体はコントロールできる要因ではありませんので、野菜販売には常に不確定要素があるのです。
安定的な売り上げを得るために加工品を揃える
このような課題を少しでも解消できるように、私たちの直売所では地場野菜以外のラインアップを創業以来強化してきました。現在では、売り上げの半分くらいは野菜以外の商品が占めています。前回の連載でも触れたたまごやハチミツはほぼ周年で安定入荷するため、経営への貢献度は高いですし、それ以外にもさまざまな食品を取り揃えています(以下、これらの商品のことを総称して「加工品」とします)。
これは直売所の方針次第なので、絶対に加工品を充実させないといけないというわけではありません。とにかくたくさんの野菜を売る!という経営方針もあり得ます。ただ、そのような経営ができる直売所は多くないかと思いますので、ここでは直売所経営を安定させるために加工品を販売することについて、詳しく考えます。
店に何を並べるか、がその店の色になる
加工品を販売するという場合に何を売るか。その基本的な考え方については、以前こちらの連載でも触れました。
ここではもう少し具体的に考えてみます。私たちの直売所では、加工品を揃える・販売する場合に、主に3つの観点から考えます。
・市場規模、お客様の食費構成から考える
・競合との比較から考える
・とにかくオススメしたいものを売る
まず、市場規模や食費構成から考えるのが基本です。例えば、お菓子の市場規模がどのくらいあるかご存じでしょうか? 2019年の国内菓子業界市場規模は3兆4298億円あります(小売金額。全日本菓子協会調べ)。これは、なんと野菜の市場規模2兆3212億円(2018年産出額。農林水産省調べ)よりも大きいのです。確かに、よく考えるとスーパーのお菓子コーナーはかなりしっかりスペースをとっていることがわかります。当然、多くの人が日々お菓子を購入するということであり、直売所においても重要商材になり得ることがわかります。
また、近隣スーパーなど競合と考える店舗やサービスとの比較も重要です。独自の仕入れルートがあり安売り勝負ができるなら、同じ商品をどこよりも安く販売するなども方法としてはあり得ます(家電量販店やディスカウントストアなどでよくあるやり方です)。しかし実際は、普通の直売所ではそのような仕入れはできないと思いますので、競合にはない魅力的な商品を並べることを考えるのが良いと思います。例えば、私たちの直売所では個人でシェアキッチンなどを活用して焼き菓子を作っている人の商品を多く販売しています。これは、まさに他では手に入らないものであり、競合には販売できない商品です。農家さんお手製の総菜なども、どんどん作ってもらうのが良いでしょう。
このように、マーケットや競合からのアプローチも大事ですが、私たちの直売所で一番売れるのは、「店員がオススメしたい、自分で販売したいと思った商品」です。これは、上記2つの観点からも合理的な場合もありますが、そうでないこともあります。例えば、東京都国分寺市でご夫婦が手作りしている「ピーナッツバター」。これは、試食して本当においしかったため導入を決めましたが、市場規模やお客様の動向、競合店の調査などからは絶対に出てこなかったと思います。直売所は、地元の農家さんが丹精込めて作った野菜を、スタッフが熱を持って販売する場所。そのような場所と最も親和性が高いのが、スタッフが愛し、オススメしたい商品であるというのはある意味当たり前なのかもしれません。
そして、このように考えながら商品を選定し並べていくと、自然とお店の色もハッキリしてきます。スーパーチェーンなどと比べると規模が小さい直売所では、全国的に知られて流通しているような一般的な商品の価格競争は得策ではありません。その直売所が想定する客層やありたいお店をイメージしながら、一つ一つの商品について意図を持って選んでいくことが重要です。
加工品を販売することで食の社会情勢に意識的になれる
加工品は常に手入れが必要です。導入しても、当然売れるものもあれば売れないものもあります。売れないものは、試食提供やPOP作成、説明トークなどお客様にまず食べてもらうための工夫をします。他店にはないオリジナリティーの高い商品を売る場合、気に入ってもらうための時間が必要になることもありますので、ある程度の我慢が必要になります。一方で、売れないと判断したものは売り場から撤退させる必要があります。売り場は限られますし、ずっと滞留している商品があるのは印象も良くありません。そして、撤退させる場合には次の商品が必要です。つまり、加工品は常に入れ替えが必要で、新しい商品を探し続けることが重要です。
私は、これは直売所経営にとって良いことではないかと考えています。なぜなら、野菜と比較すると加工品のはやり廃りは早いので、常に社会情勢やニーズの変化について意識的になりやすくなるためです。普段から「食」についてのアンテナを常に張っていると、「こういう商品をお客様が求めているのではないか」と自然と販売したい新商品も出てくるでしょう。そして同時に社会情勢やニーズの把握こそ、農家にとって直売所が存在する価値の一つだとも考えます。つまり、「今こういう野菜が必要とされている」といったことを把握し農家に提案できるようになれば、それは直売所自体の価値を高めることにつながるのです。野菜にも、ニーズの変化はゆっくりですが確実に起こります。そこに自覚的でいるためにも、常に食についての社会情勢を意識するのは重要であり、加工品の販売はその一助になるのです。