熱狂的に支持される野菜
グラニースミスが売れる店でありたい
私たちの運営する直売所では地元野菜をメインに販売していますが、端境期や地元でとれないものについては、信頼する農家さんからも直接仕入れています。おかげで、ジャガイモやタマネギが周年で販売できますし、東京では栽培している人が少ないリンゴやミカンもきちんと揃っており、楽しみにしていてくれるお客様も多くなっています。
リンゴについては、長野県安曇野市のナカムラフルーツ農園さんからの入荷が8月中下旬から始まり、品種が豊富なうちは常に店頭に3〜4種類は並びます。なかなかスーパーなどでは並ばない品種も多く、中でも熱狂的な人気を誇っているのが「グラニースミス」というクッキングアップルです。ビートルズのアップル・レコードのシンボルマークとして採用されたことで有名なこのリンゴ、ヨーロッパではかなりメジャーなものだそうですが、国内ではあまり流通していません。生食だと甘みが少なく酸味が強いのですが、加熱すると糖度が高くなり煮崩れもしにくいので、アップルパイに最適とされています。
なかなか手に入らないということで、一部のお客様から熱狂的に支持され、口コミでその輪が広がっているという実感があります。そして、出回る時期が短いにもかかわらず、何度もリピートする人も少なくありません。定番の「ふじ」のように多くのお客様が購入するものではありませんが、狭い範囲のお客様に深く届くのが「グラニースミス」です。
狭く、深く届く野菜
そして、私たちの直売所を見渡すと、このように「狭く深く」お客様に届く野菜が少なくないことに気づきます。例えば、秋の短いシーズンに出てくる「生落花生」。塩ゆですると、それだけでごちそうです。市場ではそれほど流通しませんが、直売所では出回り時期には圧倒的人気を誇ります。大げさでなく、毎日のように入荷確認の電話があるほどです。また、「菊芋」もこれに当てはまりそうです。近年、健康野菜としても注目され、調理もしやすいので一部のお客様にはとても人気ですが、どこにでも並んでいるわけではありません。クセがなく調理もしやすい「オータムポエム(アスパラ菜)」もこちらに当てはまるかもしれません。
濃淡はありますが、これらの共通点を考えてみると、量販店に常時出回っているものでなく、独自の特徴があるものということです。つまり、他店では手に入りにくい、でも一部のお客様には支持される特徴を持つ「熱狂野菜」が直売所には多く存在するのです。そしてこの存在は、鮮度と並んで直売所の競争力の源泉になりうるのではないか、実際になっているのではないかと思うのです。
直売所は少しの工夫で「熱狂野菜」をそろえやすいビジネスモデルであると考えます。どのような工夫があるかについて、考えていきます。
ベーシック野菜…キャベツ、長ネギ、ブロッコリー、ナス、小松菜など
スター野菜…トマト類、トウモロコシ、枝豆、果物など
にぎやかし野菜…カラフル大根、カラフルミニトマトなど
熱狂野菜…生落花生、オータムポエム、グラニースミス、菊芋、ヤーコンなど
熱狂野菜を見出すために
直売所は実験場
直売所は基本的に自由競争。各出荷者が自分で価格を設定し、好きな数量を持ち込むことができます。その結果、価格競争に陥りやすいのが課題であり、これまでも触れてきました。
一方で、自由に出荷できるからこそ各出荷者が工夫をして、さまざまな野菜が並びます。大きめの直売所に行くと、カラフルな大根やニンジンなどスーパーではなかなか見られない野菜が並んでいることも少なくありません。出荷者が好きなものを好きなだけ出せる直売所ならではだと思います。一般的な小売店では発注ロットの問題もあり、一定以上売れる見込みがない野菜は入荷しない傾向にあるためです。数人のバイヤーではなく、数十〜数百人の農家がそれぞれ工夫して出荷するということは、大量の実験がなされているということ。日々、いろいろな野菜が実験的に販売されているというのが直売所の特徴なのです。
実験を生かすための工夫が必要
新しい野菜を新規事業と考えてみると、直売所は大量の新規事業が起こる場であり、その中で有望な事業を見極め、育てることが大事ということになります。すでに出荷者が大量の新規事業を起こしてくれているので、直売所の仕事は主に2つです。
・有望な野菜を見極める
・その野菜を育てる
では、有望な野菜の見極めをどのように行えばよいでしょうか。ここは私たちもまだまだ試行錯誤ですが、経験的には2つ挙げられます。
・一部のお客様が熱狂的に気に入っている
・わかりやすい特徴を有する(栄養価、食味、調理が簡単など)
新しい野菜を購入するお客様には積極的に声をかけ、なぜ買うのかを聞いてみるのがよいと思います。その答えの熱量でどの程度気に入って購入しているかがなんとなくわかるものです。そして、異常な熱量を持っているお客様が数人いる野菜があれば、それは有望かもしれません。
次に、有望と考える野菜を育てるには主に2つの方策が必要です。
・お客様にその野菜について知ってもらう
・売れるまで我慢して置き続ける
まずは知ってもらう必要があります。目立つ場所に置く、POPを設置する、紙媒体を配る、試食を出す。できることは全部やってみましょう。その上で、しばらくは売れなくても売り場に置き続ける事が重要です。あったりなかったりする、ではなかなか認知度は上がりません。この野菜は有望となれば、とにかく売り続ける事が大事です。そして、これが委託販売である直売所にとって一番難しいことかもしれません。出荷者に頼みこむか、特別にこういう野菜だけは買い取るかなどの工夫が必要です。
個人的には、毎年予算枠を設けて、育てる野菜については買い取って直売所が販売する、くらいのことをするとよいのではないかと思います。中長期の競争力の源泉になる可能性がある熱狂野菜を育てることは、そのくらい重要な経営課題だと思います。
農家が新しい野菜のタネをまき、有望なものについては直売所が協力して育てていく。そのサイクルがうまくまわり、売り場に「熱狂野菜」が増えていけば、自然と競争力が高くなると同時に、多くのお客様の豊かな食生活に貢献できるはず。これは、スーパーではなかなかできない、直売所ならではの有意義な仕事だと思います。