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「トヨタに負けない収入を目指せ」 育苗の効率化と設備投資、そして地域への思いから達成した2億円

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

「トヨタに負けない収入を目指せ」 育苗の効率化と設備投資、そして地域への思いから達成した2億円

野菜の苗の生産や稲作から出発し、トマトの栽培を始め、さらに飲食店の運営まで――。表面的に見ただけでは、脈絡なく事業を増やしているように映るかもしれない。大橋園芸(愛知県豊田市)の大橋鋭誌(おおはし・えつし)さんのことだ。だが多角化のわけを聞くと、ある深い思いが浮かび上がってきた。

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育苗の抜本的な効率化で拡大に弾み

大橋さんは現在、45歳。事業の柱は苗の生産で、野菜や花など約200種類を栽培している。コメや麦、大豆の栽培面積は合計で35ヘクタール。ハウスでトマトを栽培しているほか、地元のショッピングセンターで丼屋を運営している。年間の売上高は、全事業の合計で2億円にのぼる。
高校を卒業後、専門学校で野菜の栽培方法などを学び、21歳のときに実家で就農した。当時の売り上げは2000万円。27歳のとき、事業が成長軌道に乗り始めた。育苗を抜本的に効率化したことがきっかけだ。
苗の育て方は、昔も今も二つの苗を接ぎ木する手法が一般的。例えば病気に強い品種などを「台木」にし、その上に育てたい品種を「穂木」としてつなぐ。昔が今と違うのは、個人の技術に依存していた点だ。
「昔のやり方は原始的だった」。大橋さんは当時をそうふり返る。少し太めに育てた台木をカットし、その断面に小さな穴を開け、穂木を挿す。やり方を間違えるとつながらないため、初心者には難しい作業だ。大橋さんと父親、ベテランのスタッフの3人で黙々と作業をこなしていた。

収益の柱の野菜や苗の栽培

収益の柱である野菜や苗の栽培

ところが就農して数年たったころ、新しい接ぎ木の方法が登場した。短くて小さい透明のチューブの両側から台木と穂木を差し込み、中で断面を合わせるだけ。それまでのやり方と違い、熟練の技は要らなかった。
この手法を導入したことで、作業の効率が格段に高まった。パートに作業を任せることができるようになったからだ。その結果、苗の生産量はそれまでの5倍に高まった。自分が現場の作業に割く時間を減らせたことで、より経営戦略を練ることに注力できるという効果も生まれた。
就農当時、苗作りをしている農家はたくさんいた。だが、多くは接ぎ木の方法を変えるのをためらい、生産量を増やせずに撤退していった。
長年磨いてきた技術にこだわったことが、理由の一つ。設備投資に二の足を踏んだことも影響した。新しい方法は、二つの苗がくっつくまで入れておく暗室が必要になるからだ。大橋さんはこの暗室を1000万円で購入した。
効率性で他と差をつけた大橋園芸の苗事業は、豊田市で最大の規模に成長した。そしてこの経験を通し、大橋さんはリスクをとって挑戦すれば、活路が開けるという確信を得た。こうして事業の多角化が始まった。

接ぎ木に使うチューブ

接ぎ木に使うチューブ

当初の見積もりの半額以下でハウスを建設

トマトの栽培は2016年に始めた。愛知県は夏の気温が高く、トマトを夏に露地で育てるのは難しい。そこで夏にも栽培できるようにするため、陽光が差し込む量をコントロールし、環境を制御できるハウスを建てることにした。
投資額は7000万円。メーカーがはじめに提示した金額は1億5000万円だった。

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