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コロナも悪天候も怖くない、売り上げ1億円を視野に入れた有機農家の戦略

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

コロナも悪天候も怖くない、売り上げ1億円を視野に入れた有機農家の戦略

多くの農家はいま二つのリスクに直面している。新型コロナウイルスの影響で販路を失うリスクと、天候不順で栽培に失敗するリスクだ。そうした中、茨城県つくば市で有機農法で野菜を育てる伏田直弘(ふしだ・なおひろ)さんは、2020年の売上高を前年比で16%増やすことに成功した。逆風下でなぜ躍進できたのか。伏田さんにインタビューした。

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5年目で売り上げ6900万円を達成、九州大卒の脱サラ農家

最初に伏田さんらしい一言を紹介しよう。
「ものが売りにくくなったので、めっちゃ面白かった。こんな状況でどんな判断をすればいいのか。それを考えるのがすごく楽しかった」
2020年11月から12月にかけての野菜の値段の下落に話題が及んだときの発言だ。11月はちょうど伏田さんが居酒屋向けに予定していたレタスの出荷がコロナの影響で止まった時期とも重なっていた。
相場が下がったり、売り先が減ったりすれば、ふつうはダメージと受け止める。だが伏田さんは困難に直面したことで、がぜんやる気が出た。ゲームを攻略する感覚で戦略を考える伏田さんの面目躍如といったところだろう。
伏田さんは現在、42歳。九州大学で農業経営学を学び、修士課程を修了。外食チェーンが運営する農場や金融機関での仕事を経て、2015年に農業法人のふしちゃん(茨城県つくば市)を設立した。法人を立ち上げるまでの経歴はすべて、いずれ農場経営を始めるのを視野に入れて選択したものだ。
主な品目はコマツナとミズナ、レタス、ホウレンソウ。49棟のハウスで、農薬や化学肥料を使わずに育てている。土中の水分量や地温を計測するセンサーを導入し、野菜の鮮度を保つ特殊なシステムを冷蔵室に設置するなど、経営効率を高めるための設備投資にも積極的だ。

センサー2

ハウスに設置したセンサー

栽培については、有機農業の技術指導で知られる小祝政明(こいわい・まさあき)さんの講習に出て学んだ。農場を開いた当初はアブラムシが大量に発生するなど栽培が安定していなかった。事態の打開を目指した伏田さんは、収量のアップや品質の向上を可能にする栽培の仕組みをこの講習で知り、さらに独自の工夫も重ねることで栽培を軌道に乗せた。
農場を開いて5年目の2019年の売り上げは6900万円と、破竹の勢いで事業を拡大してきた。だがそんな伏田さんも、2020年は試練の年になるかと思われた。主な売り先の中に、コロナによる休校で一時需要がなくなった学校給食や、居酒屋チェーンなどが含まれていたからだ。
ところが1年が終わってみると、売り上げは約8000万円と前年を大きく上回った。とくに7月は780万円と、単月で過去最高を記録した。そのときのハウスの数は39棟。49棟で望む2021年は1億円を視野に入れている。

小祝政明

有機農業の技術を教える小祝政明さん(左)と

ピンチを回避できた背景には、5年の間に多様な売り先を確保してきたことがある。学校給食や居酒屋向けの販売の減少をカバーし、売り上げを増やすことに貢献したのが、食品宅配のオイシックス・ラ・大地やスーパーに直売所を展開している農業総合研究所(和歌山県和歌山市)向けの販売だ。
この2つの売り先をあらかじめ持っていたことで、コロナの影響で消費者が家で調理する機会が増えるという需要の変化に対応することができた。日本経済を覆った「巣ごもり消費」の波に乗ることができたのだ。
ただし、2020年を通して1回だけ、前年の売り上げを下回った月がある。野菜の相場が急落した11月だ。このとき伏田さんがとった作戦が、主力の作物のコマツナやレタスの出荷時期をできるだけ先送りすることだった。
そのために、ハウス内に外気を入れて温度を下げ、生育を遅らせた。冷蔵室の鮮度保持システムも、収穫済みの作物の出荷を遅らせるうえで威力を発揮した。その結果、気温が下がって他の有機農家の出荷が減り始めた12月下旬に出荷を集中させ、12月の売り上げを前年並みに回復させることができた。

有機農法でも夏にホウレンソウの欠品を防ぐ戦略

「選択肢をいくつか持っているのがうちの強み」。伏田さんはそう強調する。コロナによる休校や居酒屋向けの需要減を、ほかの売り先でカバーできたのはその成果だ。ではどうやって販路を多様化してきたのか。2019年から栽培を本格化させたホウレンソウでその戦略を確認してみよう。

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