コロナも悪天候も怖くない、売り上げ1億円を視野に入れた有機農家の戦略

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コロナも悪天候も怖くない、売り上げ1億円を視野に入れた有機農家の戦略

連載企画:農業経営のヒント

コロナも悪天候も怖くない、売り上げ1億円を視野に入れた有機農家の戦略
最終更新日:2021年01月13日

多くの農家はいま二つのリスクに直面している。新型コロナウイルスの影響で販路を失うリスクと、天候不順で栽培に失敗するリスクだ。そうした中、茨城県つくば市で有機農法で野菜を育てる伏田直弘(ふしだ・なおひろ)さんは、2020年の売上高を前年比で16%増やすことに成功した。逆風下でなぜ躍進できたのか。伏田さんにインタビューした。

5年目で売り上げ6900万円を達成、九州大卒の脱サラ農家

最初に伏田さんらしい一言を紹介しよう。
「ものが売りにくくなったので、めっちゃ面白かった。こんな状況でどんな判断をすればいいのか。それを考えるのがすごく楽しかった」
2020年11月から12月にかけての野菜の値段の下落に話題が及んだときの発言だ。11月はちょうど伏田さんが居酒屋向けに予定していたレタスの出荷がコロナの影響で止まった時期とも重なっていた。
相場が下がったり、売り先が減ったりすれば、ふつうはダメージと受け止める。だが伏田さんは困難に直面したことで、がぜんやる気が出た。ゲームを攻略する感覚で戦略を考える伏田さんの面目躍如といったところだろう。
伏田さんは現在、42歳。九州大学で農業経営学を学び、修士課程を修了。外食チェーンが運営する農場や金融機関での仕事を経て、2015年に農業法人のふしちゃん(茨城県つくば市)を設立した。法人を立ち上げるまでの経歴はすべて、いずれ農場経営を始めるのを視野に入れて選択したものだ。
主な品目はコマツナとミズナ、レタス、ホウレンソウ。49棟のハウスで、農薬や化学肥料を使わずに育てている。土中の水分量や地温を計測するセンサーを導入し、野菜の鮮度を保つ特殊なシステムを冷蔵室に設置するなど、経営効率を高めるための設備投資にも積極的だ。

センサー2

ハウスに設置したセンサー

栽培については、有機農業の技術指導で知られる小祝政明(こいわい・まさあき)さんの講習に出て学んだ。農場を開いた当初はアブラムシが大量に発生するなど栽培が安定していなかった。事態の打開を目指した伏田さんは、収量のアップや品質の向上を可能にする栽培の仕組みをこの講習で知り、さらに独自の工夫も重ねることで栽培を軌道に乗せた。
農場を開いて5年目の2019年の売り上げは6900万円と、破竹の勢いで事業を拡大してきた。だがそんな伏田さんも、2020年は試練の年になるかと思われた。主な売り先の中に、コロナによる休校で一時需要がなくなった学校給食や、居酒屋チェーンなどが含まれていたからだ。
ところが1年が終わってみると、売り上げは約8000万円と前年を大きく上回った。とくに7月は780万円と、単月で過去最高を記録した。そのときのハウスの数は39棟。49棟で望む2021年は1億円を視野に入れている。

小祝政明

有機農業の技術を教える小祝政明さん(左)と

ピンチを回避できた背景には、5年の間に多様な売り先を確保してきたことがある。学校給食や居酒屋向けの販売の減少をカバーし、売り上げを増やすことに貢献したのが、食品宅配のオイシックス・ラ・大地やスーパーに直売所を展開している農業総合研究所(和歌山県和歌山市)向けの販売だ。
この2つの売り先をあらかじめ持っていたことで、コロナの影響で消費者が家で調理する機会が増えるという需要の変化に対応することができた。日本経済を覆った「巣ごもり消費」の波に乗ることができたのだ。
ただし、2020年を通して1回だけ、前年の売り上げを下回った月がある。野菜の相場が急落した11月だ。このとき伏田さんがとった作戦が、主力の作物のコマツナやレタスの出荷時期をできるだけ先送りすることだった。
そのために、ハウス内に外気を入れて温度を下げ、生育を遅らせた。冷蔵室の鮮度保持システムも、収穫済みの作物の出荷を遅らせるうえで威力を発揮した。その結果、気温が下がって他の有機農家の出荷が減り始めた12月下旬に出荷を集中させ、12月の売り上げを前年並みに回復させることができた。

有機農法でも夏にホウレンソウの欠品を防ぐ戦略

「選択肢をいくつか持っているのがうちの強み」。伏田さんはそう強調する。コロナによる休校や居酒屋向けの需要減を、ほかの売り先でカバーできたのはその成果だ。ではどうやって販路を多様化してきたのか。2019年から栽培を本格化させたホウレンソウでその戦略を確認してみよう。
コマツナやミズナは周年栽培が可能なのに対し、暑さに弱いホウレンソウは真夏には作りにくい。伏田さんが着目したのはこの点だった。「うちは夏でもホウレンソウを出荷できる」と約束し、新たな売り先を見つけるための突破口にしたのだ。重点を置いた出荷時期は6月から9月だった。
有機農家は一般に旬の時期に農産物を出荷することが多い。「できるだけ自然な形で作物を育てたい」という思いから有機農法を選ぶ人が少なくないことが理由の一つ。農薬や化学肥料を使わないため、植物が最も元気に育つ旬の時期以外には出荷しにくいという事情も背景にある。

鮮度保持システム

野菜の鮮度を保持するシステム

伏田さんの発想は、この点で多くの有機農家とは一線を画す。野菜の値段が下がったときに鮮度保持システムを活用して出荷時期を遅らせたことが象徴するように、できるだけ栽培をコントロールしようと努めてきた。伏田さんは「多くの有機農家はうちと比べると設備が脆弱(ぜいじゃく)だ」と指摘する。
欠品を防ぐための努力は当然する。伏田さんの栽培方法は、ハウスの中の畑に種をまくのではなく、苗を育ててから定植するのが基本。そのほうが収穫までの期間が短くなり、回転率が高まって売り上げが増えるからだ。
例外が、暑さがピークを迎える8月。高温のハウスの中で苗を植えるのはあまりに大変なため、より作業が楽な種まきに切り替えていた。ところが2020年は夏場も定植を続けることにした。二つの天候不順が原因だ。
一つは7月の長雨。伏田さんは気温の上がる7月ごろにハウスに透明なマルチを敷き、土の中を高温にして雑草の種が発芽するのを防ぐという栽培方法をとっている。だが2020年は日照不足で土の中の温度が十分に上がらなかったため、雑草を防除できていない懸念が高まった。そこで夏も苗を育てて植えることにした。発芽の段階から雑草と競い合うのと比べ、生育を雑草に邪魔されにくいからだ。

ホウレンソウ

難しい夏の栽培に挑んだホウレンソウ

もう一つは、予想以上の猛暑だ。暑い盛りにハウスの中にホウレンソウの種をまいて発芽させるのがいかに難しいかを2019年に知り、2020年は育苗ハウスにある発芽機の中で芽を出させることにした。発芽機の中は温度を20度以下に抑えることができるため、猛暑の影響を排除することができるからだ。
打った手はこれだけではない。いくら栽培を工夫しても、冬と同じように夏にホウレンソウを育てるのは限界がある。そこである程度生育不良のホウレンソウが出るのを覚悟し、栽培する量を受注した量よりも大幅に増やしたのだ。伏田さんは「最後は大きさや形の規格なんてあってないようなもの。出荷できるホウレンソウがあるだけで意味がある」と強調する。
では結果はどうだったのか。そうたずねると、伏田さんは「ゼロにはならなかったが、多少は欠品が出た」と話す。それでも目標は十分に達成できた。ほかの農家が出荷できなくなる中で、伏田さんのホウレンソウは最後まで残ったからだ。これが信頼につながり、売り先との関係強化を可能にした。

「コロナは全然怖くない」、次の目標はホウレンソウの周年出荷

「いくらコマツナやミズナを一年中出せますとバイヤーに言っても、誰も見向きもしてくれない。だから真夏に少ないホウレンソウを作ろうと思った」。伏田さんはそう話す。そして本当の狙いはこの先。バイヤーの信頼を勝ち取ったことで、次は周年でホウレンソウを出荷することを目指しているのだ。
終始一貫して合理性にこだわる伏田さんが、一般の農法と比べて手間がかかる有機農法を選んだ理由もこれで見えてくる。多くの有機農家が安定供給が難しいからこそ、それを実現すれば大きな競争力になるからだ。
実際、効率を追求した結果、一般の農家の野菜とそれほど変わらない価格で販売することも可能になっている。これはバイヤーにとって大きな魅力。だからこそ、伏田さんは「コロナは全然怖くない」と言い切ることができる。
多くの農家がさまざまな困難に直面した2020年。今回の取材はこの激動の年を、伏田さんがどう乗り切ったかを取材するのが目的だった。だがインタビューを続けているうちに、伏田さんの視線はずっと先の未来に注がれていることがわかってきた。次回はそのことを紹介したいと思う。

伏田さん

次の戦略を練る伏田直弘さん

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「食と農」の現場を日々取材する記者が、田畑、流通、スマート農業、人気レストランなどからこれからの農業経営のヒントを探ります。
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