農家の加工品も見た目が大切な時代
農産加工品は以前はラベルがなくても素朴だと受け止められていましたが、今はそれだけでは売れなくなってきました。また栄養成分表示などのルールも厳しくなってきて、おばあちゃんがお小遣い稼ぎにと簡易プラスチックパックで簡単な表示で出していた漬け物やかきもちの販売もどんどん難しくなってきました。寂しいことではありますが、時代の流れはますますそうなっていくでしょう。
かと言って個人での加工が難しいかというとそうではありません。原材料表示についての知識はインターネットで調べることもできますし(※1)、商品の顔にもなる商品名ラベルや原材料シールの印刷はパソコンとプリンターがあれば簡単にできる時代。我が菜園生活 風来(ふうらい)でも早くから加工に取り組めたのは、これらを個人で印刷できるようになったからです。
以前、ズッキーニのからし漬けがおいしくできたので商品化しました。イベントで試食つきで販売したところたくさん売れました。そこでインターネットで「ズッキーニのからし漬け」とラベルをつけ販売したのですが、まったく売れませんでした。まだズッキーニも一般的ではなく、さらにからし漬けということで味の想像がしにくかったのでしょう。そこで「旬野菜のからし漬け」に商品名を変更して出品したところ人気商品になりました。そういったことができたのもラベルを自分で印刷していたからこそ。ラベル印刷を外注すると1000枚から2000枚が最低ロットになりますので大きな無駄が出るところでした。
ただし個人印刷でも、ラベルの素材や色使いによってコストがかなり高くなることも。またネット販売の場合はラベルにはそれほど気を使わなくてもいいのですが、店頭販売、イベント販売だと見た目が売り上げに与える影響が大きいので、少しグレードの高い、光沢のあるものにするなどの対応も必要になります。いろいろと試行錯誤もしてきましたが、現在は何にこだわってどのように作っているのか、お話ししたいと思います。
※1 消費者庁 早わかり食品表示ガイド(令和2年11月版・事業者向け)より「加工食品」(PDF)
商品名ラベル、原材料シールの作り方
我が菜園生活 風来は、2000年の起農当初から商品名ラベルも原材料シールも自前で印刷してきました。加工品のメインは漬物なので、インクジェットプリンターは顔料インクのものを使用。顔料インクは水に溶けず、紙の表面で定着する性質のインクで耐水性が高いため、結露で濡れても色落ちしません。 また、紙に浸透しないため普通紙でも裏写りしにくい特徴があります。風来では発送時に同封するパンフレットの文面をその時々で変え両面印刷したものを入れているので、ここでも顔料インクが活躍してくれました。
注文量が増えてきて途中からカラーのレーザープリンターに変えました。レーザープリンターも裏写りせず水にも強いのが特徴ですが、なにより印刷スピードが速いのでストレスなく仕事ができるようになりました。そして今は細かい対応をするネット印刷サービスも出てきました。メイン商品用など年間1000枚以上使うものだと、ラクスルやビスタプリントといった印刷サービスを使うのもお勧めです。以前では考えられないくらい高品質なものが安価でしかも早く手に入れることができる時代になり、隔世の感があります。
実際、どのようにラベルシールを作ってきたかというと、最初は表計算ソフトのエクセルを使い自分でひな形を作っていたのですが、今はエーワンというラベルシール大手メーカーが提供している無料で使えるオンラインサービス「ラベル屋さん」(※2)を使用しています。
こちらでは用紙の型番によってひな形が用意されているので、直感的に使えます。バーコード生成にも対応しています。シールも商品名、原材料、バーコードなど、分ければ分けるほど貼る手間もかかりますので、できるだけまとめています。
原材料表示には先述したような栄養成分表示のほか、原材料によってはアレルゲンなどの表示も必要です。また文字の最低の大きさが決まっているため、そこにバーコードも入れることでどんどん大型化しています。
ちなみに筆者がよく使っているラベルシールの品番は、商品名ラベルシール用が29223(丸型・A4判24面タイプ)、原材料シール用が28184(A4判12面タイプ)です。こちらは加工品の種類や大きさによって変わると思いますので、いろいろ試してもらえればと思います。
瓶か袋か、見た目かエコか
コロナ禍以前、2019年は新しい事業ということで高付加価値商品であるピクルスの販売に着手しました。常温で日持ちするピクルス。コンセプトを「食べる万華鏡」として、カラフルな野菜を使いました。お土産はもちろんインテリアにしてもらってもいいように、細長いスタイリッシュな瓶に入れました。
風来としては初めてラベルデザインを外注し、洗練したものを心がけました。瓶は袋に比べてコストもかかりますが、高付加価値をつけることでそのコストは回収できると考えてのこと。実際にイベント販売やデパートの催事では好評でした。
しかしメインと位置づけたお中元やお歳暮などのギフト用となると、注文が多かったのは、圧倒的に同時に売り出していたスタンドパック入りの方でした。
理由を聞いてみると「瓶は1、2本ならいいが、それ以上となると重く、また割れる心配もあり持ち運びに不便」ということ。そして何より多かった理由が「瓶だと捨てるのに困る」「贈り先に迷惑をかけたくない」「環境に悪そう」でした。
この傾向は都市部に住む人の方が顕著に出ました。もちろん単品販売かどうかや販売方法によっても変わりますが、これからの時代はエコの観点もかなり重要になってくることを実感しました。
そしてやってきた2020年のコロナ禍。風来でも売れ筋の商品が大きく変わりました。自宅消費が増え、ご飯に合う昔ながらのぬか漬けや調味料、野菜セットなど、より実用的なものへ。
エッセンシャル(不可欠、必要)という言葉も注目されていますが、高付加価値になればなるほど実用的なものから離れていくことに気づかされました。もちろんそれが悪いことではありませんが、実用的で長く継続できるものが農家に求められる6次産業化ではないかとあらためて考えています。そしてデザインを考える上でも、これからはそのような視点を持つことがますます必要になってくると感じています。