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小さい農家が加工を始めるのに必要なもの【ゼロからはじめる独立農家#18】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

小さい農家が加工を始めるのに必要なもの【ゼロからはじめる独立農家#18】

6次産業化という言葉も定着してきましたが、現実はなかなか厳しいようです。6次産業化の目的はあくまでも所得を増やすこと。加工はあくまでも手段のひとつです。そこをしっかり見据えると加工のやり方、そろえる道具も変わってきます。小さい農家だからこそできる「失敗しない6次産業化」とは。

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販売から考える6次産業化

当連載【ゼロからはじめる独立農家#13】では「農家のため」の6次産業化について書きました。

6次産業化は「何をどういうふうに加工するか」というのももちろん大切ですが、一番大変なのは「どう売るか」ということです。以前なら農家が加工するというだけでも珍しかったのでそれだけで商品価値がありましたが、今は違います。

店の棚に並ぶ大手食品メーカーの商品と価格面で張り合うのは無理。そうなると素材を生かした「こだわり」で勝負することになりますが、そのこだわりを伝えられる人数や生産量には個人経営では限りがあります。この連載では繰り返し「小さい農家は百の仕事ができる百姓を目指せ」と言っていますが、加工でも同じ。百姓的とはヒットアンドアウェー。やってみてダメなら別のものをやってみる。そのくらいのスピード感がないと情報化社会、移り変わりの激しい現代では残っていくのが難しいと実感しています。

ただし今はホームページや産直EC(通販)サイトを使い、個人がダイレクトに情報ごと販売することができる時代。小さいからこそ有利なところもあります。そしてその考え方になるとそろえるものは違ってきます。

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見落としがちな2つのコスト

直売所では1本100円の大根。我が風来で加工し250円(税抜き)で販売している漬物の「かつお大根」は、大根1本から約6袋分とれます。大根以外の副材料費、袋、シール代などの経費を除くと1袋あたりの大根の価格は約200円で、これが6袋。そうすると1本100円のものが1200円になるので12倍の付加価値が付く。これが6次産業化の理屈です。

ただしそこには加工、保存するための設備費は入っていません。その設備の減価償却をするにはどれだけ販売しなければならないのか。そこを考える必要があります。

設備費にかかるコストには、イニシャルコスト(初期費用)とランニングコスト(維持費)があります。例えば我が家のウォークイン冷蔵庫(高さ2メートル、幅3.6メートル、奥行き1.8メートル)の購入価格は75万円。庫内温度を5度に設定すると、ここ石川県では電気代が年間で7~8万円ほどかかります。

補助金を利用するとイニシャルコストを抑えられるということで安易に6次産業化に取り組む人も多いですが、このようにランニングコストがかかります。そしてランニングコストには修繕費もあります。上記の例でいうと20年間使用してきて、一度冷蔵設備の大幅入れ替えがあり、35万円かかりました。それとは別に修理費も計30万円ほどかかっています。

コストはトータルで考えていくことが必要不可欠。農園の視察を受け入れた際、時間のある農閑期だけ加工販売をしたいという相談を多く受けるのですが、その期間だけでイニシャルコスト、ランニングコストをまかなった上で利益を出せるのか。これまでの経験からですと、加工するなら通年を視野に入れないと難しいと実感しています。

小さい農家の加工はリスク分散を考え、専用機械の購入をなるべく後回しにする。農業機械と同じく調理機器も業務用となると一気に高価になります。万が一加工品が失敗しても他のものに使える。そんなフレキシブルに使えるものからそろえるのをおすすめします。

.自家製の商品表ラベルと原材料シール

自家製の商品表ラベルと原材料シール

柔軟な発想で言うと思い出すのが知り合いの大豆農家。自家製大豆を使った豆腐屋を始めるにあたり、購入したのが家庭用のミキサー10台。すべて合計しても専用機械の1/10の価格だったそうです。家庭用の普及モデルなので、故障してもすぐに、そして安く修理できたとのこと。その豆腐が評判になり、軌道に乗ってから専用機械を購入しました。「小さく無理なく始めたことで借金のプレッシャーもなく伸び伸びできたのが一番よかった」と本人談。

小さい農家がそろえるべきもの

では小さい農家が加工するにあたり、具体的に何をそろえればいいのでしょうか。

真っ先に必要なのはプリンターです。おすすめは水で落ちない顔料インクを使うもの。できればカラーレーザータイプ。プリンターがあると商品の表ラベルや裏の原材料シールを自分で作ることができます。自身で少量作ることができるので旬に合わせたラベルを作れます。商品名の付け方で売れ行きが違いますので、もし販売してみてダメでもすぐに変えることができます。ラベル印刷をプロに依頼すると時間もコストもかかり、何より注文ロットが大きいので小回りが利きません。
(どんなラベルシールやソフトを使っているのかなど、消耗品については別の機会に書かせていただきます。)

大活躍の脱気シーラーとコールドテーブル

大活躍の脱気シーラーとコールドテーブル

調理機器は、先にもありましたが最初は家庭用を使うのをおすすめします。我が風来の機器は今もほとんどが家庭用です。ただ、加工するにあたり新しくそろえておいた方がいいのが冷凍ストッカーチルド温度帯(-3~-2℃)のコールドテーブル(作業台付き保冷庫)です。容量ですが、冷凍ストッカーは300リットル以上、コールドテーブルは150リットルあると便利に使えます。どんな加工をするにも保存が必要になってきます。これからますます衛生管理が厳しく問われる時代になりますので、ここはコストをかけておきましょう。

またあると便利なのは脱気シーラーです。漬物など袋詰めする時に、袋の中の空気を吸い取って封をするのに使います。さまざまな形状の袋に使え、例えば前出のラベル写真の上部にある「甘糀(あまこうじ)」のように、スタンドパックに調味料やジャム、トマトソースを詰められます。パックすることで煮沸消毒が可能になるのもメリットのひとつです。また最近はゴミの問題や持ち運びやすさから、瓶より袋ものが喜ばれる傾向にあります。脱気シーラーがあることで加工品の種類は一気に広がりました。

どのような加工をするかによってそろえるものは変わってきますが、最初から大きく投資しないことがポイントです。地域の農業普及所によってはいろいろな調理器具、調理機器もありますので、もしあればそれらを活用して使えたら購入するという方法もいいかもしれません。

くれぐれも小さい農家は加工も‟百姓的”に。小回りを利かせ、スピード感をもち、リスクの分散を心掛ける。それにより無理なく6次化が実現できれば、本業である農業にとっても大きな力になります。

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