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有名企業の農業参入例6選 こんな企業が農業やってるのはナゼ?

有名企業の農業参入例6選 こんな企業が農業やってるのはナゼ?

企業や法人などの一般法人が新たに農業参入する事例は、増加の一途をたどっています。有名な企業が参入するケースもあり、実際に成功をおさめているところもあります。今回は、「こんな企業が農業やっているの?」と思わず驚いてしまいそうな有名企業の農業参入について、6つの事例をご紹介します。

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一般法人の農業参入、最近の傾向は?

一般法人の農業参入は、年々増加傾向にあります。農林水産省の調べでは、農地を利用して農業経営を行う一般法人は、2003年末にはわずか10法人でしたが、2018年末には3286法人にまで増えています。2009年の農地法改正によって、リース方式による参入が全面自由化されたことが増加の背景にあると考えられ、その年間増加数は改正前の約5倍のペースで増えています。

2018年に農業に参入した3286の法人を業務形態別に見てみると、「農業・畜産業」がもっとも多く、「その他(サービス業他)」、「食品関連産業」と続いています。さらに、営農作物別で見ると、「野菜」がもっとも多く、続いて「米麦等」、「複合」となっています。これら以外にも業務形態や作物は多岐にわたっており、農業参入がさまざまな分野で大きな広がりを見せていることがわかります。

ここからは具体的に、農業参入している企業ごとに、その内容を見ていきましょう。

1. 精米と米の販売に特化したアイリスオーヤマ株式会社

生鮮米パック米(アイリスオーヤマ)

低温製法で精米された宮城県産のひとめぼれ

主に生活用品の企画、製造、販売などを幅広く手がけているアイリスオーヤマ株式会社は、
東日本大震災によって被災した農業従事者の復興支援をしようと、2013年から精米と米の販売を始めました。自らも本社を宮城県仙台市におき、「東北をはじめとする日本のお米を『製品』から『商品』に変えて、全国へ販路を持つ自分たちの強みを合わせることで、消費量の拡大に貢献したい」と、東北への思いを行動で表しています。

東北はお米の産地として有名ですが、東日本大震災の後は原発事故による風評被害に苦しんだ時期もありました。また、日本の「環太平洋パートナーシップ(TPP)協定」交渉への参加表明にともない、米を含む農作物の重要5品目の関税撤廃や関税の引き下げが懸念され、日本の農業の競争力強化が課題となっていました。そこで、アイリスオーヤマは、自社のビジネスモデルを活用して解決できないかと、精米と米の販売に着手したのです。

今後は、福島県などを中心に地元の農業者と連携して、使われていなかった土地や被害を受けた農地の営農再開に向けて作付けを行い、農地拡大の取り組みを強化していきたいと考えているとのこと。「おいしい・安全・安心」なお米を、国内だけでなく、海外に積極的に展開することで、お米をはじめとする日本の農業を世界に誇るビジネスにすべく、農事業を進めていきたいとしています。

2. 生産から販売まで手がけるオリックス株式会社

サラダほうれん草(オリックス)

水耕栽培で収穫された「サラダほうれん草」

リース事業をはじめ、多角的に事業を展開するオリックス株式会社は、2014年2月に「オリックス農業株式会社」を設立し、兵庫県養父(やぶ)市で人工光型の植物工場事業を始めました。その後、2015年から2016年までに、長野県と兵庫県と静岡県で、3つの株式会社を設立します。これら4つの拠点では、水耕栽培や土耕栽培、オランダで開発されたガラス温室の「フェンロー型ハウス」での栽培など、さまざまな種類の生産方法をとっています。

そして、2016年7月に、この4つの生産拠点での生産物の販売会社として「オリックス・フードサプライ株式会社」を設立しました。自社で生産する野菜を中心に、直接エンドユーザーへの販売活動を行うなど、農業において幅広い事業展開を進めています。

オリックスが農業参入した2014年は、農地法の改正や減反政策廃止決定など農業政策に転換が起きていました。また、消費者のライフスタイルやICTなどの技術導入など、農業を取り巻く環境にも変化が起きていました。それを「ビジネスチャンス」、「新たにチャレンジする意義のある分野」ととらえたオリックスは農業参入を決めます。農業従事者の高齢化や耕作放棄地の拡大等が進む中で、自社の既存ビジネスに基づくノウハウやネットワークをいかし、日本の農業の産業化と成長に貢献したいと考えたのです。

現在、オリックスでは、野菜の生産販売事業の更なる安定化を目指すとともに、栽培から販売までを一貫して行う競争力のある事業モデルの確立を目指しています。

3. JTBグループによる観光×農業の可能性

台湾のオンライン商談会(JTB)

2020年に台湾でオンライン商談を行った際の様子

大手旅行会社のJTBグループは、以前から日本の食と農と観光を結びつける取り組みを行ってきました。2015年には「J’s Agri(ジェイズアグリ)」ブランドを立ち上げて、日本の農林水産物や食品の海外への販路創出、販売までをサポートしています。日本産の食産品を直接海外に販売することで、海外での価値を高め、「生産地を訪れたい」という日本へのインバウンド観光の新たな目的を創出しようとしているのです。

海外販路の開拓を支援するための商談会の開催や、市場にマッチする食産品の発掘・開発の支援のほか、食や観光関連の従事者や地域活性化に関心のある人を対象とした「フードツーリズムマイスター養成講座」の実施、人手不足が続く農業現場への観光業からの人材支援など、JTBは観光を通じて食や農を盛り上げようと、さまざまな取り組みを続けています。

JTBグループによると、「旅行者が地域を訪れることは、滞在中の消費だけではなく、その地域の産品を継続購入することなど、双方にとっての中長期的なきっかけづくりに寄与する」とのこと。旅行業で培った旅行者視点つまり外部視点によって、地域の中ではなかなか気づかない魅力を再発見することができ、農業に付加価値を生み出せると考えています。一見縁遠いように思われる一次産業の農業と、三次産業の観光業が、それぞれの強みを掛け合わせることで、社会全体に付加価値をもたらすのだそうです。

4. トヨタ生産方式の考え方を応用した農業IT管理ツール「豊作計画」

現場改善の様子(トヨタ)

改善スタッフによる現場改善指導を受ける生産者

トヨタ自動車株式会社は、自動車産業で培ったトヨタ生産方式の考え方を応用して作られた農業IT管理ツール「豊作計画」を2014年に開発、リリースしました。「豊作計画」を使って農畜作物の生産工程を管理するとともに、改善スタッフによる「現場改善」のサービス提供もしています。「計画、実行、確認、振り返り(PDCA)」を中心とした活動で、農業の工程管理や見える化を実施しながら、ムダの徹底的な排除を行っています。

実際にサービスを利用した農家からは、「人材育成にも役立った」という声や「管理・記録だけでなく、結果の振り返りにより、原価を意識して作業に取り組むことで、会社の経営改善に貢献できる」、「後継者育成の場で、3〜4年を要すると考えていた営農ノウハウの伝承がほぼ1年で済んだ」といった喜びの声が寄せられています。

トヨタの基本理念である「地域に根差した活動を通じて、経済・社会の発展に貢献する」という強い思いでスタートした農業参入。農業分野に「トヨタ生産方式」の考えを応用することで、農畜産物を効率的に生産し、経営基盤の強化を実現すると同時に農業生産を担う人づくり、地域づくりに寄与することを目指しています。

今後、さらに多くの農業関係者に対してサービスを提供し、地域に根差した取り組みを続けることで、日本の農業の持続的発展に貢献していきたいと考えているとのことです。

5. パナソニック株式会社は農業を「栽培ナビ」で「見える化」する!

栽培ナビ(パナソニックアプライアンス)

「栽培ナビ」を使って生産者と打ち合わせをする様子

パナソニック株式会社アプライアンス社は、もともと、調理家電など食に関わる商品を製造・販売してきました。しかし、生産者の現場で担い手不足の解消や生産性の向上、品質・経営の強化など、多くの課題を把握する中で、生産者の困りごとを解決し、安定的で効率的なおいしい農産物作りを支えたいと、農業分野への研究を2013年10月にスタートさせます。

そして、2016年12月に、双方向クラウド型農業管理システム「栽培ナビ」で農業参入しました。「栽培ナビ」は、作業履歴やデータ取得・活用を通して、現場の生産者の課題解決を目指すウェブサービスで、営農と経営の「見える化」を可能にします。さらに、2020年5月には、作物の育つ土台である「土づくり」を「見える化」するための「栽培ナビ ドクター」をリリース。27項目で土壌を分析し、さらに8項目の作物分析をスピーディーに行い、今、土や作物がどんな状況なのかを「見える化」することができます。これによって数字で見る新しいスマート農業を実現し、農業への新規参入のハードルを下げて、収量と品質の向上に貢献します。

これからの目標は、だれもが原理や原則を可視化しながら、農業ができるようにしていくこと。農薬や化学肥料を減らし、有機栽培の農業技術を科学的、論理的に「見える化」することで、サスティナブルな循環型農業、持続可能な社会の実現を目指します。そして農業を通し、子どもたちに、変わらぬ自然、作ることの楽しさ、おいしさ、食べることの大切さを伝えていきたいということです。

6. 外食事業のワタミ株式会社は農業で6次産業化を目指す

倉渕農場(ワタミ)

群馬県高崎市の「有限会社ワタミファーム 倉渕農場」

外食事業や宅食事業を手がけるワタミ株式会社は、2002年に有限会社ワタミファームを設立して、農業に参入しました。千葉県など、全国11カ所に合わせて630ヘクタールの圃場(ほじょう)をもち、直営の農場と牧場で、有機野菜や採卵鶏、乳牛などを育てています。

また、GAP(農業生産工程管理)認証取得を推進しており、畑作の8農場でJGAP(国内のGAP)認証も取得しています。生産した農作物は、グループの工場で加工し、外食店舗などで提供することにより、6次産業化も進めています。

さらに、2021年3月には岩手県陸前高田市で、有機農業のテーマパークの開業も予定しているワタミ。精力的に農事業を進めているのには、理由があります。その合言葉は、「土づくり、人づくり、地域づくり」。まず、農場や牧場での土づくりにこだわり、その土から作物をつくり、飼料をつくって家畜を育て、その過程で人も育ち、地域に貢献し、地域づくりを行っていく。そしてその地域に合わせた有機循環型モデルタウンづくりを推進していく考えです。

今後は、農場を拡大するとともに、独自性のある商品の生産にも取り組む予定で、今シーズンから生産を始めた「キクイモ」を中心的役割にしていくということです。

農業は有名企業も注目の成長産業

さまざまな業種の企業が、それぞれの形で農業に参入していて、社会全体が農業に対して大きな期待を寄せていることを実感します。農業を始めたい若者の就職先としても、自分で農家を始めたり農場に就職をしたりするのではなく、「有名企業で農業をする」という選択肢が増えていくかもしれません。農業参入の今後に、注目が集まります。

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