アドレスホッパー農家がビールで農家を盛り上げるのはなぜ?
公開日:2021年02月02日
最終更新日:
全国の農家さんを訪ねる、フリーランス農家のコバマツです。今回は沖縄県に来ています。ここで出会ったのは「アドレスホッパー農家」と名乗る女性。夏は岩手県、冬は沖縄県と定住せずに日本各地を移動し、一年を通して農業現場で働く彼女はとてもパワフル。「農作業後、ビールを飲むのがエネルギー源」と語ります。
ジプシー農家だからこそ、生まれた各地での農家さんとのつながり。このつながりをもっと多くの生産者や消費者に広げていけないかと考え、たどり着いたのは「農作物でビールをつくる」というアイデア。ビールが作り出す人と人とのつながりは、新たな6次産業化の可能性を感じさせてくれるものでした。
南国沖縄の畑で出会ったのは「アドレスホッパー農家」と名乗る女性
今回コバマツが訪れたのは沖縄県です。沖縄は冬こそ農作業の繁忙期。冬でも暖かいので、本州でよく見られるような野菜を冬場に栽培できるからです。
冬だけど青々とした沖縄の海
ここ、沖縄の農場で働く中出会ったのは、アドレスホッパー農家と自ら称する、間瀬文香(ませ・ふみか)さん。アドレスホッパーとは、定住にこだわらずに移動しながら生活する、近年注目されているライフスタイルです。間瀬さんは農業サービスを提供する企業である株式会社マイファームの社員として、夏は岩手県の、冬は沖縄の自社農場で働く超パワフルな女性。私と同様、自分の畑は持っていません。
そんな彼女の農業との関わり方にフリーランス農家としてとても共感したコバマツが、彼女の働き方や各地の農家さんとの関わりなどの取り組みを紹介します!
■間瀬文香さんプロフィール
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愛知県出身。1984年生まれ。大学卒業後、アパレルメーカーや有名リゾートホテル等のサービス業を経て2016年にマイファームに入社。農業を学ぶアグリイノベーション大学校の事務局、体験農園の運営を経て、現在は岩手県と沖縄県にある生産圃場(ほじょう)をジプシーのように行き来して働く。2020年には農作物を活用した「畑(はた)咲くビール」の企画・プロデュースも行い、生産者の6次産業化支援も行っている。
農作業後に仲間とビールを飲むことが、パワーの源。
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有名リゾートホテルから農業の世界に転職! 農業サービスの会社に入ったきっかけとは?
コバマツ
もとは、全く畑違いの分野から農業の世界に転職したと聞いていますが、どのようなお仕事をしていたのでしょうか?
前は、ホテル業界で働いていました。人が楽しくなれる空間を作ることが好きで、サービス業を選びました。フロント、清掃、レストランと何でもやっていましたね(笑)。
間瀬
コバマツ
今と全く違いますね! 農業は人よりも植物と触れ合う時間が長い仕事ですが、どうしてマイファームに入社したのですか?
マイファームは農業「サービス」を提供している会社だったので、なんだか面白そうと思い入社しました。アグリイノベーション大学校という全国の農家さんや新規就農希望者が農業について勉強するスクールの事務局や、一般の人を対象にした体験農園の運営も担当しました。いずれも、農業に関心がある人達が集まるコミュニティーで、「どうやったら農業を通して参加者に楽しんでもらえるか」と考えていろいろと企画することが楽しみでした。
間瀬
体験農園を運営する間瀬さん
農作業をする間瀬さん
現在は、夏は岩手県、冬は沖縄県と年間通してマイファーム自社農場の現場で栽培管理のお仕事をしているそうです。農業のゼネラリストですね!
農家さんって面白い! 農業サービスを通して感じた農業の魅力
コバマツ
ズバリ! 違う分野から入ってきた間瀬さんだからこそ感じた農業の魅力ってなんでしょうか?
アグリイノベーション大学校の事務局にいた時、初めて農家さんと深く交流する機会をいただいて。「こんなに農家さんて面白いんだ!」と衝撃を受けました。
こんなに農業に対するこだわりや考えがあるんだって!
間瀬
コバマツ
わかります! 私もそういう所から農業に関心を持ち始めました。
最初、どのように農家さんと仲良くなっていったのでしょうか? 最初は農業に対する知識も経験もない中で、農家さんの輪に踏み込んで行きにくかったと思うのですが……。
私は、農家さん達と大好きなビールで乾杯し、飲みながら、語りながら仲良くなっていきました!!
間瀬
楽しい空間が大好きな間瀬さん。ビール片手に全国の農家さんと交流して農業の世界にハマっていきました。
農作業後のビールのうまさに感激!
コバマツ
間瀬さんって本当にビールがお好きですよね! 私が出会った農家さんもお酒好きな人が多かったので、交流が深まりそうですね!
ビールは数あるお酒の中でも一番明るい場を作ってくれるお酒だと思っています。
乾杯=ビール、農家さんとの初めましてもビールから始まることが多くあったんです。
間瀬
農家さん達とビールで乾杯をし、順調に農業の世界に溶け込んでいく
お酒を通して、農家さんとのコミュニケーションが円滑になったり、本音の話も聞けたりすることがあって。異業種から農業の世界に飛び込みましたが、それで仲良くなっていけたんです。
ビールがなければ、ここまで農業を面白いと思い、ハマっている自分はいないんじゃないかといってもいいくらいですね!(笑)
間瀬
コバマツ
単純にお酒として、ビールが好き!というだけではなくて、人と人の縁を深めたり、コミュニケーションのきっかけになる。そんなツールとしてもビールが好きなんですね!
明るく楽しい場を作ってくれるビールが大好きと話す間瀬さんは、仲間と飲むビールはもちろん、農作業後に一人で飲むビールも大好きだそうです。
農作業後にビールをたしなむ。仲間と協力して作業した後のビールは最高とのこと
生産者と消費者の距離が近づく「畑咲くビール」づくり始動! 畑で乾杯できる日を夢見て
農家さん達と乾杯を繰り返し、農業仲間を増やしていった間瀬さん。ついに、自分でもビールづくりの企画をマイファームで立ち上げたそうです。
コバマツ
マイファームの仕事を通して出会った農家さん達と協力し合い、農作物を使ったクラフトビールづくりにも踏み出しているそうですね! このビールをつくろうと思ったきっかけや思いについて聞かせてください!
私自身が、ビールを通して生産者の方たちと交流することで、農業を身近に感じたり、農業を知っていくきっかけになりました。この体験を私だけではなく、もっと多くの人と共有したい! そう思い、農作物を使ったビールづくりのアイデアにつながりました。
間瀬
畑咲くビールのロゴ。畑咲くビールを通して、生産者と消費者の出会いが生まれる(咲く)、会話が生まれることをイメージして作られたそう
左から、マンゴー、パプリカ、黒糖のビール。ラベルには生産者のイラストが描かれ、商品名にもしっかり農作物と生産者をイメージしたキャッチコピーがつけられている
コバマツ
農家さんのイラストと作物がダイレクトに描かれていますね! これは手に取りたくなるし、気になっちゃう!
畑咲くビールを通して、生産者や地域を知ってもらったり、そのことで新しい会話が生まれたり、そんなふうに消費者の方に農家さんを身近に感じてもらえるきっかけを作ることができればと思っています。
最終的にはこのビールの原料を作ってくれている農家さんの畑で、購入してくれた皆さんと乾杯することが夢です!
間瀬
コバマツ
ビールの元になっている作物が作られている畑で、しかも農家さんと乾杯できるなんて最高すぎます! 絶対楽しい! 呼んで下さい! むしろもう頭の中で畑で乾杯している!
味もデザインの一つ! デザイナーを交えた商品開発
ビールと明るい空間が大好きな間瀬さん。自分の「好き」であるビールと農業を掛け合わせて、なんとクラフトビールづくりという6次産業化に踏み出し、農家さんを応援する活動に踏み出すまでに至りました。
コバマツ
ボトルのデザインがとても素敵ですが、どのようにビール開発を進めていったのでしょうか?
沖縄のブルワリー「クリフビール」のクラフトビール醸造家兼デザイナーでもある宮城(みやぎ)クリフさんにご協力いただき、商品コンセプトから実際のビールづくりまでを手掛けていただいています。
間瀬
ビールプロジェクトのコンセプト、ロゴ、デザイン、ビール醸造を担っているデザイナーの宮城クリフさん。ビールづくりは、ビールのラベルだけではなく味もデザインの一つだと語る
畑咲くビール第1弾の「キビといつまでも」は、実際に農家さんの畑で一緒に作業しながら、ビールの味やコンセプト、デザインを決めていくそう(写真右がクリフさん)
出会った農作物をビールの原料に!
農作物・農家が主役のビール開発
コバマツ
原料となる農作物は、どのような農家さんとコラボしているのですか?
仕事を通して出会った農家さんの中でも、この「自分の作物をビールにする」ということに価値や可能性を感じてくれそうな農家さんに声をかけてみました。
間瀬
コバマツ
ビールという新しい切り口での加工品作りを行った結果、生産者にとって刺激になったなと感じる部分はありますか?
今回協力していただいたマンゴー農家さんからも声があったのですが、よく「生産者の顔が見える農作物」ってあると思うんですけど。消費者が見える農業の可能性を一つ作ることができたかなと思います。
協力してくれた農家さん自身も、購入してくれたお客さんに思いを巡らせて自分の畑で乾杯できる日を楽しみにしてくれているみたいです。
間瀬
コバマツ
消費者の見える農業! 生産者と消費者の接点を新たに作ることができたんですね。消費者が生産者の顔が見える作物を買いたいのと同様に、生産者も誰の手に自分の作物が届くのかが分かったら、「この人のためにもっといいものを作りたい」といっそう生産意欲が高まりそうですね!
自分の大好きなビールを農家さんの作物とコラボしてつくった間瀬さん。消費者に今までにない切り口で農業を発信することはもちろん、生産者にも新しい農業の可能性や魅力に気づいてもらえるきっかけをつくることができたのではないでしょうか。
農業を通じて自分の夢がかなった
こうして間瀬さんは別業界から農業の世界に入り、自分がこよなく愛し続けてきたビールをつくるまでに至りました。結果、農家さんを6次産業化で支援するというお互いがハッピーになるプロジェクトとなりました。
コバマツ
これから農業に関わりたい!と思っている人に向けて一言メッセージを!
異業種から参入したからこそ、見えてくる農業の可能性やチャンスは絶対にあります! 私自身も飛び込むまで、ここまで農業を魅力的に感じ、更に自分の好きなビールをつくることができるなんて夢にも思っていませんでした(笑)。
農業には挑戦できるチャンスがまだまだありますよ!
間瀬
「人々が楽しくしている空間が好き」。職業は違えど、その思いを持ち続けて農業の世界でも常に周囲が笑顔になることを考え続けてきた間瀬さん。
結果、自分の好きなビールをつくることで、生産者も消費者も笑顔が咲くビールができました。
畑咲くビールで、生産者、消費者が双方に思いを巡らせる。
最終的には畑で生産者も消費者も乾杯できたら、お互いの距離がぐっと縮まり、お互いを思い合える農業が生まれるのではないかと感じました。