草刈りの代行はなぜ人気なのか ビジネスという割り切った関係

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草刈りの代行はなぜ人気なのか ビジネスという割り切った関係

窪田 新之助

ライター:

草刈りの代行はなぜ人気なのか ビジネスという割り切った関係
最終更新日:2021年02月09日

福岡県築上町で農作業を代行するアルク農業サービス。受注する単価は「決して安くはない」というものの、注文の依頼は絶えない。要因は「ビジネスという割り切った関係」にあるという。乾いた印象を受けるこの説明は、むしろ疲弊する地域の農業や社会に血を通わせるものであることを伝えたい。

無視できない耕作放棄地

清水さん

アルク農業サービスの清水さん

田植えや稲刈り、防除、堆肥(たいひ)の散布、農機の配送……。アルク農業サービス(以下、アルク)が受託する農作業は多岐にわたる。ここでは今月の特集のテーマである「除草」を例にとりながら、本題に入っていきたい。

アルクが所有する除草関連の資材は、トラクターに装着して使うハンマーナイフモアと刈り払い機。注文は主に電話かファクスで入ってくる。
作業する場所は町内が中心で、その多くは不在地主からである。アルクの共同創業者・清水祐輔(しみず・ゆうすけ)さん(29)は「耕作放棄地は周りの目が気になることに加え、発生させると行政から通達が来るようになったので、いまや放っておけない存在ですね」と説明する。

単価は「決して安くはない」

代行の単価表

アルク農業サービスが代行する作業の単価表。一部改定前の料金のまま

清水さんは作業の単価について「決して安くはない」と打ち明ける。料金表を見せてもらうと、刈り払い機による畦畔(けいはん)の除草は1時間当たり2700円、ハンマーナイフモアによる除草は10アール当たり8000円(いずれも税別)など。これとは別に移動交通費が発生する。地域の相場と比べると、「1~2割ほど高いかな」と清水さん。それでも注文が絶えないのは「お金で割り切っているからです」として、次のように説明を加えた。
「隣近所に頼むことを嫌がる人は少なくないですよ。対価としてお金を払っても、草刈りを引き受けた側から後々恩着せがましく言われることがあるからですね」
もう一つの理由は「ほかに頼める業者が見当たらないから」と清水さん。「土木事業者やシルバー人材センターなども草刈りの代行サービスをしていますが、『農業』の看板を掲げているわけではないので、頼んでいいものか分かりにくいですよね。その点、うちは『農業の何でも屋』としているので、注文するハードルが低いのでは」
いずれの理由もいってみれば「気兼ねなく頼みやすい」ということに尽きる。

永井さん

アルク代表社員の永井さん

「相互扶助」という名の「押し付け」

前回紹介した通り、アルクを共同で創業した男女3人は、はなから代行の仕事は「ビジネス」として割り切っていた。田植えや稲刈りなどの作業や移動距離に応じて単価表を設け、値段の交渉には応じない。当たり前と言われそうだが、農業に限らず地域社会ではそれが通りにくい。代表社員の永井洋介(ながい・ようすけ)さん(47)はこう説明する。
「なかには『相互扶助』を建前に値切ってくる人もいるんよ。近所の兄ちゃんは3000円でやってくれるのに、なんで3500円なのって。だから『相互扶助』という言葉が嫌いなんよ」

永井さんは「相互扶助」の本質を否定しているわけではない。「嫌い」というのは、「相互扶助」という言葉を借りた「押し付け」や「強制」である。既述の通り、それは農作業を引き受ける側から発せられることもある。
「高齢のおじちゃんおばちゃんが隣の農家に農作業や草刈りを頼むと、中には『やってやった』と恩着せがましくする人がいるんです。だからその農家にゴマをする。それが悲しい。うちは対価を決めているから、お茶も笑顔も要らない。見返りは求めない」

「金で解決できることはしたらいい」

筆者はそんな永井さんの話を人ごとではなく聞いた。というのも私の90歳になる祖母はアルクが本社を置く隣町で一人暮らす。20年前以上にひき逃げに遭って足を骨折。手術するも完治せず、歩くのに杖は手放せない。毎週3回、デイケアセンターで身体機能を回復する訓練をしている。
そんな祖母を困らせているのは集落の共同作業だ。溝の清掃や草刈りなどの共同作業が定期的に訪れ、1戸から1人が出る決まりになっている。永井さんにそんな話をすると、こう返ってきた。

「うちらみたいな代行サービスの会社があれば、そこに頼めば済む話。なにも高齢者がしんどい思いをしてやることではないんよ。地域が高齢化と人口減少で疲弊する中、農業に限らずお金で解決できることはしたらいいんじゃないかって思うんよね」
地域に根差してきた人の温かく、賛成できる意見だと受け止めた。
とくに過疎・高齢化が極まったような地域では、私の祖母のように共同作業で困っている高齢者は少なくないはずだ。

かといってアルクがこれから会社を全国に展開するつもりがあるかといえば、永井さんは「それはない」ときっぱり。「あくまで自分が住んでいる地域の役に立ちたい。もしそう思っている人でうちと同じような事業をしたいなら、うちをモデルにしてもらったらええ。遠慮なく教えてあげますよ」
実際に大手商社から関東へ進出することを打診されている。アルクは事業を展開する方法を教えるつもりだ。ぜひ実ってもらいたい話である。

アルク農業サービス

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