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「故郷を知ってほしい」、悔しさをバネに若手農家が選んだ意外な作物

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

「故郷を知ってほしい」、悔しさをバネに若手農家が選んだ意外な作物

地元の農業を盛り上げたいと思うきっかけはいろいろある。東京都西多摩郡日の出町の若手農家、野口雅範(のぐち・まさのり)さんの場合、「日の出町ってどこ?」と聞かれ続けたことが動機になった。そこで地域の特色を出すために選んだのは、東京で育てているとは想像しにくい意外な作物だった。

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直売所ですぐ売り切れるトマト

野口さんはいま36歳。栽培面積は2ヘクタールで、トマトを中心に白菜やブロッコリー、トウモロコシなどさまざまな作物を父親の隆昭(たかあき)さんと一緒に育てている。トマトはハウス、他の作物は露地栽培だ。
作物は全量、秋川農業協同組合(JAあきがわ、東京都あきる野市)が近くで運営している直売所で販売している。直売所のメインの農産物は日の出町で栽培が盛んなトマトで、とくに野口さんのトマトは人気商品。昼過ぎに直売所に行くと、棚いっぱいにあったトマトがすべて売り切れていた。

収穫したてのトマト

棚いっぱいにあった野口さんのトマトは昼過ぎに売り切れていた

実家で就農したのは、27歳のとき。もともと農業を仕事にするつもりはなく、やるとしてもいつか会社勤めをやめた後のことだと思っていた。母方の祖父が大工だったこともあり、興味があったのは建築関係の仕事。高校や専門学校で建築について学び、東京都中央区にある建築事務所に就職した。
父親が体調を崩したことが、実家に戻るきっかけになった。3棟のハウスで1000株のトマトを育てており、ハウスの中が高温になる夏場は大変な重労働。野口さんは当時、東京都墨田区に住んでいたが、母親から「お父さんが体をこわした」などの連絡がたびたび入るようになり、就農を決めた。
そのころ、野口さんが農業に対して持っていたイメージは「とにかく大変」というものだった。建築事務所での仕事のかたわら、週末には実家に戻って手伝うこともあったので、作業がいかにきついかよくわかっていた。
それでも、前向きな気持ちで就農できる理由はあった。「父が作るトマトはおいしい」という思いがあったからだ。野口さんが農業を始めると、ほどなくして父親も体調が回復した。こうして父親の栽培技術を学びながら、経営を発展させるために新しいことに挑戦する日々が始まった。

父親の隆昭さんと

GAPの認証取得で収益性向上、新たに始めた作物とは

野口さんによると、営農のさまざまな局面で判断が必要になったとき、意思決定する比率は「自分と父で6対4」という。仕事のやり方や栽培品目の選定など全般にわたり、父親から経営のバトンを引き継ぐ過程にある。
新たに取り組んだことの一つが、農業生産工程管理(GAP)の認証の取得だ。農機具や農薬、肥料などを適切に管理することで、事故を防いだり、農産物の安全性を確保したりするためのルールで、国内のGAPは農林水産省のガイドラインに準拠した内容になっている。2018年度から東京都が運営する「東京都GAP」の認証制度が始まったのを受け、野口さんは2019年に認証を取得した。

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