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野球チームに例えたら? 出荷者との付き合い方のヒント【直売所プロフェッショナル#40】

野球チームに例えたら? 出荷者との付き合い方のヒント【直売所プロフェッショナル#40】

直売所を複数展開する民間ベンチャーの創業者たちが、直売所運営のイロハについて解説する連載。出荷者の協力を得るには? 新しい出荷者を仲間に加えるべき? 今回は、野球チームを例にしながら、直売所のキモである出荷者マネジメントについて語る。

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直売所プロフェッショナルは、“監督”

多くの直売所は委託式です。委託式である以上、出荷者は好きな品目を好きな量だけ持ち込むことができるため、出荷者の意向をコントロールするのはなかなか難しいものです。
しかし、そこでめげてはいけません。
地域の出荷者を野球チームの選手とすれば、直売所プロフェッショナルはそのチームの監督の立場にあると自覚して、地域の農業をけん引していかなくてはいけません。
農家さんからすれば、選手にたとえられるのはちょっとムカッとくるかもしれません。しかし、そこは抑えていただいて(笑)。
というのも、一部の直売所は受け身の姿勢に徹していて、地域の農業に積極的に関与しようという志があまりにも低いことがあります。ですから、直売所の店長が「自分は農家さんをまとめる監督役だ」と考えるくらいでちょうどいいのではないでしょうか。

いずれにしても、出荷者とお店の共通のゴールは、「消費者の満足をつくること」です。
だとすれば、毎日消費者と接している直売所のスタッフが一定の発言力を持っていることは、出荷者にとってもプラスになるはずです。
出荷者がお店に意見を言い、お店が出荷者に意見を言う。この建設的な関係が、直売所と出荷者のあいだにできてくれば最強です。

以下では、直売所がいかに出荷者と付き合っていくか、そのヒントを示します。全体的に言えることは、カニバリゼーション(共食い。出荷者どうしの過度な競争)をいかに防ぎながら、消費者の満足度を高めるのか、ということです。

ヒント1 〈守備力の強化〉とにかく重要品目を欠品させない

直売所を野球チームにたとえるなら、まずは守備の強化をしましょう。
直売所における守りとは、機会損失というエラーをなくし、お客様の落胆を防ぐことです。

直売所には、季節に応じて、ものすごく重要な品目があります。たとえば、トマトとかエダマメとか、あるいはその地域の特産品のことです。
わざわざ直売所に足を運ぶお客様の気持ちになってみれば(便利ではない場所にある直売所も多いです)、目当ての品物がないということは大きな落胆です。
とはいえ、すべての品目について欠品を防ぐのは難しいので、とくに重要な品目だけでも欠品がないように目を光らせておきましょう。

そして、このとき、スムーズな情報共有が直売所の守備力アップにつながります。
まず、「供給側」の情報共有です。
たとえば、トマトをたくさん出荷している農家さんが何かしらの事情で休む、あるいは畑で病害が発生して出荷ができなくなったとします。となれば、他の農家さんがその分をカバーしなければ、お店の棚に穴が開いてしまいます。

また、供給側の情報だけを出荷者に伝えても片手落ちです。
「需要側」の情報とは、ありていにいえば来客数の予測です。出荷者にはその予測数に合わせて出荷してもらうことで欠品というエラーをかなり減らせます。
たとえば、雨の日は来客数が減りますが、それはたいていの出荷者も理解しているでしょう。ですが、雨予報の日の前日に客数が伸びやすいことは情報共有されているでしょうか? 意外と機会損失(エラー)が発生しているのではないでしょうか。

委託式であるからには、出荷数は保守的になりがちです。ですから、直売所のスタッフからの情報提供が不可欠なのです。
委託式の弱点については、以下の記事を参考にしてください。

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ヒント2 〈攻撃力の強化〉熱狂野菜を作る!

守備が完成したら、次は攻撃力の強化です。
直売所における攻撃とは、お店に足を運ぶ価値を増やすこと。
それには、「ここでしか手に入らないけど、ぜひとも欲しい品目」を消費者に認知してもらいましょう。第35回の連載で、そのような品目を「熱狂野菜」とカテゴライズしました。図を再掲します。
(また、詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
直売所は‟熱狂野菜”を増やせ! 魅力的な野菜ラインアップのために【直売所プロフェッショナル#35】

お客様の熱狂度を表す図

熱狂野菜を作っていくためには、POPなどで適切な発信をしていくだけではなく、ある程度安定的に出荷されている必要があります。しかし、出荷者からすれば、ポテンシャルはあるとしても、まだ人気のない野菜を毎日出荷するのは苦しいものです。

そこで、「部分的な買い取り式(非委託式)」を検討しましょう。
直売所のスタッフが、いずれは流れが来そうだという品目を見定めたなら、その品目のロスはお店側でかぶりましょう。つまり、買い取ってしまうのです。将来のための投資です。
(飲食スペースを併設しているなら、そこで使うこともできるかもしれません。)
野球チームでいえば、ポテンシャルのある若手選手を我慢しながらスタメンで使いつづけるようなイメージですね。

ヒント3 〈機動力の強化〉急な注文に応える仕組みを作っておく

さらには機動力も強化したいところです。
直売所における機動力とは、急な需要にスピーディーに応えられる力、ということです。
直売所には、企業や学校などから、まとまった数の注文が入ることがあります。委託式である直売所では、そうした注文に応えるのは基本的にはイレギュラーなことです。
しかし、そういう注文に応えられると、さらに新しい注文が入り、地域の農業所得アップにつながっていく可能性があります。

イレギュラーなニーズに応えるためには、SNSのグループ機能やチャットツールを利用して、納品可能な出荷者を探すという方法があります。片っ端から電話して納品を依頼してもよいのですが、オープンに募集した方が、出荷者どうしの疑心暗鬼を防げます。また、営業努力している姿をより多くの出荷者に見てもらった方が、お店に対する信頼につながります。

直売所で野菜を品定めする客

ヒント4 〈チームワークをつくる〉出荷者会議を作ろう

ここまで書いてきた、「守備力」「攻撃力」「機動力」のいずれも、重要なのは情報共有のスムーズさです。
そのために、ITツールの活用もさることながら、リアルの会議体を作ることも検討すべきです。野球チームでもミーティングをやりますね。

会議体を作ることで以下のようなメリットが見込めます。
・出荷者どうしの情報共有がスムーズになることで、欠品が発生しにくい
・不毛な安売りの防波堤になる
・出荷者どうしの疑心暗鬼を防ぐ(ヒント5)
・販売促進のアイデアを出荷者から出してもらう
・出荷者どうしで栽培技術の交換が行われる

また、会議体に幹事役を置くこともできます。いわばチームのキャプテンです。
キャプテンが農家とお店の両方の気持ちをくみ取って橋渡し役になってくれれば、より効果的な販売促進も可能になるでしょう。

一方で、デメリットもあります。
まず、会議の幹事役の出荷者が人格者でないと、かえって出荷者どうしの仲が悪くなりかねないということです。また、その人が守旧的な考えを持っている場合には、新しい出荷者が入りにくくなったり、斬新な販売促進策を打てなかったりして、お店の改善が滞ってしまいます。
なお、新しい出荷者の扱いについては、本稿の最後で触れます。

したがって、出荷者の会議は絶対に作った方がいいということでもなく、とくに幹事役を年齢順で選ぶくらいなら、いっそ作らない方がよいでしょう。
ただし、建設的な会議体は直売所にとって大きな武器になります。ここまで述べてきた施策も、よりスムーズに行えるようになるはずです。

ヒント5 〈チーム内の競争〉フェアな環境を作る

野球チームの選手どうしがレギュラーを争っているのと同じように、出荷者どうしの関係は、仲間でありながらもライバルです。限られたポジション(マーケット)を奪い合っているという事実からは逃れられません。
したがって、直売所として重要なことは、フェアな競争環境を維持することです。そうでないと、出荷者に余計なストレスが発生します。
とくに、他の出荷者の行動や考えがブラックボックスになっていると疑心暗鬼に陥ることがままあります(そうならないためにも、出荷者の会議体はあった方がいいかもしれません)。

一番ありがちなケースは、前触れなく大量に納品する出荷者がいる場合です。毎日たくさん出しているのならいいのですが、突然に大量に出荷する人がいると、コンスタントに出荷している他の出荷者に廃棄損が出てしまい、出荷者どうしの仲が悪くなってしまいます。最悪の場合、コンスタントに出荷している方の農家が出荷をやめてしまうということになりかねません。
可能であれば、直売所として販売数の予測を出荷者と共有しておきたいものです。その販売数のなかで節度ある出荷を促すわけです。

多くの直売所は委託式であるため、各々の出荷者は自由に動きます。なので、情報共有をすることで、ある程度マネジメントしていくことが大事です。
(なお、連載第21回で、非委託式(買い取り式)について解説 しています。)

ちなみに、競争には2種類あります。品質競争と価格競争です。
安易な価格競争にならないように、「○○賞」のような表彰制度を設けるのも一考の価値ありでしょう。品質の競争を大事にしているというお店から出荷者へのメッセージになります。
自治体の品評会では外見の良さを見ることが多いので、ここでは消費者の声や返品率の低さなどを表彰基準にするとよいと思います。

ヒント6 〈戦力補強〉難問。FA選手を獲得すべきか?

野球チームがフリーエージェント(FA)となった選手を獲得することがあるように、直売所には新しい出荷者を迎え入れるという選択肢がつねにあります。
積極的に新しい出荷者を迎え入れるかどうか。これは実に難しい問題です。

なお、公共的な性格の強い直売所では、新しい出荷者を断ることができないと思いますので、以下の部分は読み飛ばしてください。

まず、単純なルールが2つあります。
1)足りないポジションは絶対補充
2)既存選手の育成が王道

畑作業をする女性

足りないポジションとは、たとえば売り場に果物がないのであれば、果樹農家がこれにあたります。すぐにでも補充すべきです。直売所側から積極的に訪問して出荷を促しましょう。
(以下の記事も参考にしてください。「次世代の直売所に大事なバイヤー気質。仕入れは小売業のキホンのキ。【直売所プロフェッショナル#06】」)

そして、2つ目のルールですが、既存選手を育てていくのがチームづくりの王道です。
いまの出荷者の売り上げを減らすような新規参入はできるかぎり避けるべきということです。カニバリゼーション、つまり共食いが起きると、直売所と出荷者との信頼関係に関わるからです。
直売所が出荷者を増やしたいと思うときは、ある品目の出荷量が物足りないケースが大半です。この場合は、既存の農家さんの出荷量、ひいては作付け面積を増やしてもらうことをまずは依頼すべきです。
もうすこし早生(わせ)のものがほしい、晩生(おくて)のものがほしいといった時期ずらしについても同様です。
まず既存の出荷者に時期ずらしを打診し、難しい場合にだけ、出荷者を拡充することを考えます。

ただし、難問だと書いたのは、技術力の高い農家や情熱のある農家が仲間に加わることで、新しい化学反応が起こることがあるからです。それが長期的に地域の農業所得全体を押し上げる可能性も無視できません。
また、ある程度の「選手層の厚さ」も必要です。出荷者が多い方が、病虫害や台風で品物がなくなるリスクが軽減されるからです。

なので、上記の2つのルールをひたすら守ればよい、ということでもないのです。これは一般的な解のない問題だと思います。

ヒント7 〈ドラフト〉新規就農者はどうするか?

一方で、新規就農者から出荷の希望があった場合には、原則は、受け入れる姿勢がよいと思います。
カニバリゼーションが心配ではありますが、若い農業者を育てていくことは、長い目で見たときに地域の農業にとって大事なことです。
野球チームにたとえれば、彼らは他での実績を引っ提げて移籍してくるFA選手ではなく、入団1年目の新人選手。むしろ、先輩農家がいろいろとアドバイスをしてあげるくらいが望ましいと思います。
もちろん、これもケースバイケースですが。

以上、出荷者とお店との関係づくりについて書いてきました。いかがだったでしょうか。

さいごに、FA加入があるなら、FA流出もあります。つまり、有力な出荷者が他の販路に乗り換えてしまうということですね。これはお店としてはかなり痛いです。でも、ぶっちゃけ、100%防ぐのは無理です。

対策はひとつ。「稼げる直売所になること」です。

さらに言えば、「稼ぐために直売所が努力していることを、日ごろから、PRしておくこと」です。
この連載では、終始、同じことを言っているのですが、直売所は委託式であるがゆえに、そのスタッフは受動的な姿勢になりがちです。
しかし、出荷者とどんどんコミュニケーションをとり、販売促進もあれやこれや知恵を絞る。そういう積極的な姿勢があればこそ、「この直売所と一緒にやっていこう!」と出荷者に思ってもらえるのではないでしょうか。

選手は、監督の一挙手一投足を見ているものなのです。

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