多品種栽培を30年余り、ベテラン農家が教える「何でも売り切るスキル」

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多品種栽培を30年余り、ベテラン農家が教える「何でも売り切るスキル」

連載企画:農業経営のヒント

多品種栽培を30年余り、ベテラン農家が教える「何でも売り切るスキル」
最終更新日:2021年03月04日

若い農家に営農のスタイルを聞くと、「たくさんの種類の野菜を少しずつ作ってます」という答えが返ってくることが少なくない。「農協を通さず、自分で売ってます」という答えもいまやふつう。だがそれを、30年余り前からやっているとしたらどうだろう。秋田市のベテラン農家、斉藤善秀(さいとう・よしひで)さんに、多品種栽培を選んだわけと販売の工夫を取材した。

ピーク時には800品種を栽培

斉藤さんはいま65歳。栽培面積は畑が2.6ヘクタールで、2021年は約500種類の野菜やハーブを育てる計画。農協を通さず、直売所やスーパーに売っている。ほかに約1ヘクタールの田んぼでコメも作っている。
斉藤さんは農家の7代目。長野県にある八ヶ岳中央農業実践大学校で栽培方法を学んだ後、秋田の実家に戻って就農した。
就農後は農作業のかたわら、しばらく他の仕事もやってみた。「農家は世間知らず。何が足りないのか考えたい」と思ったからだ。試した仕事は、冠婚葬祭用のギフトの販売や食品販売、トラックの運転手などさまざま。そのときの経験が、新しいことにチャレンジするうえで生きたという。
就農したとき、主な作物は切り花用の菊だった。出荷先は市場。だが菊に農薬を噴霧していて、自分にもかかることが度々あり、他の作物に変えたくなった。そこで30代のときにハーブの栽培を開始した。

ハーブの一種のゲッケイジュ

そのころ、農園の名前を「リトルガーデン」に決めた。「規模が小さいので、謙虚な気持ちでそういう名前にした」という。経験のためにほかの仕事をやってみるのもやめ、専業農家としての営農が本格的にスタートした。
ここからが、斉藤さんの本領発揮だ。「いたずら半分。独学で楽しみながら育て始めた」というハーブだが、ピーク時には種類が約800まで増えた。売り先は百貨店やレストランなど。販売するだけでなく、庭にハーブを植えるガーデニングの仕事も手がけたほか、ハーブを編んでリースを作る教室を開いたりした。
次の転機は1990年代に入り、バブル経済が崩壊したことがきっかけになった。ハーブを植えるガーデニングの仕事は、バブル期の住宅着工ブームが背景にあった。だがバブルが崩壊したことで、「いつまでも同じことをやっていてはいけない」と思うようになり、野菜の栽培を軸にすえることにした。
ハーブのときと同様、野菜も育てる品種を次々に増やしていった。なぜ、作物を絞り込まないのか。そう聞くと、斉藤さんは「いろいろなものを作ったほうが楽しい」と答えた。好奇心に促され、品種の多様化を進めたのだ。
では斉藤さんは、多様な品種をどうやって売ってきたのだろうか。

色とりどりのニンジン

収穫時期を外した作物を売るさまざまな工夫

今回の取材は、斉藤さんの自宅の敷地内にある作業場で行った。
作業場に入ってすぐ目に入ったのは、コンテナに入った真っ黒な作物だ。室内の照明が暗かったこともあり、ほとんど炭に見えた。斉藤さんがその一本を手にとって教えてくれた名前は、「黒長(くろなが)大根」。皮は真っ黒で、中は白。欧州では一般的な品種で、水分が少なく、やや辛みがあるのが特徴だ。
別のコンテナには、「紅しぐれ大根」が入っていた。皮が薄紫色で、カットすると白い断面にも中心から放射状に紫色の筋が入っていた。
スーパーなどで見ることの少ないこうした珍しい品種を作るのは、多品種少量栽培ではよくあるパターン。だが、斉藤さんの場合はもっと違う工夫も栽培で試みた。ふつうなら廃棄する状態の作物を商品化したのだ。

黒長大根

その一つが「さや大根」。大根が大きくなっても収穫せず、トウが立って花が咲き、種ができるまで待つ。種が硬くなる前にさやを収穫し、商品にした。収穫しきれず、畑に残っていた大根に実ったさやを食べてみて、おいしいと思ったのがきっかけ。浅漬けにしたり、油で炒めたりして食べる。
同じ発想で商品にしたのが「キャベツのつぼみ」。うまく結球しなかったキャベツをそのまま畑に残し、トウが立ってつぼみができた段階で収穫する。甘みがあり、炒め物やサラダに向いているという。
「ほかの人とは違うものを作ってみたい」。そう考えて商品を増やしてきたため、大量流通を前提に細かい規格を定めた農協ルートでは売りにくい。直売所やスーパーに直接売っている背景にはそうした事情もある。
ただし、いくら直売所でも、見たこともない野菜を簡単に買ってもらえるわけではない。そこで、特徴や食べ方を書いたカードを野菜の袋に入れておくようにした。最初は説明書きのポップを棚に置いてみたが、それでも消費者から食べ方などについて問い合わせが来たため、カード方式に改めた。

トウが立って花が咲き、種がついた大根

例えば、さや大根のカードには「大根の実。ピリッとした風味」と書いてある。曲がったネギには「曲がりねぎ」のカード。台風でもっと曲がれば「おどりねぎ」。作物を規格の内と外とで区別せず、それぞれの特徴をアピールして売るためのアイデアだ。当初は「寒くなって、白鳥が飛んできた」といった内容を川柳に詠み、袋ごとに内容を変えて貼ってみたこともあるという。
こうした工夫を重ねることで、直売所などで斉藤さんの野菜を買う人が増え、口コミでファンが広がっていった。料理に特色を出したいシェフがメニューに取り入れ、誰が作ったどんな野菜かを説明してくれることもあった。
斉藤さんは「野菜は育てないが、客は育ててきた」と強調する。野菜はできるだけ自然に育った状態で出荷する。中には旬の時期のものもあれば、さや大根のように旬以外のものもある。販売では客が手に取ってくれるよう努力した。その結果、斉藤さんに代わって魅力を伝えてくれる人が増えた。

さや大根の袋に入れるカード

地域の農業の活性化のために取り組んでいること

斉藤さんがいま力を入れているのが、地域の農業を盛り上げることだ。その一つが、地域の新しい特産品を作ること。ハーブの一種のローズマリーを精肉店に無償で提供し、肉におまけでつけるよう頼んでいる。刺し身にパセリがついているのを見て、「肉ならローズマリー」と思いついた。斉藤さんは「このやり方が広まれば、農家が売ることのできる作物が増える」と話す。
若い農家の育成にも取り組んでいる。農業を始めたい人を支援する秋田県の制度を使って3人に技術を教え、就農を後押しした。「育てた作物で無駄になるものはない。発想次第で売れるから、諦めるな」と教えている。
「この年でもできるような農業の形を作ること」もこれからの目標だ。規模を拡大するのは体力的に難しい。だが、どんな品種をいつ収穫し、どうやって売るかはアイデアがどんどん出る。それを地域に広めたいという。
念頭に置いているのは、会社を辞めるシニア層。「仕事が一段落し、農業の世界に入って来たいと思う人のモデルになりたい」。それはどんな営農の姿かと聞くと、答えは「これから模索する」。やりたいことはまだたくさんある。そんな斉藤さんの尽きない活力に圧倒されるばかりの取材だった。

新たな売り方を提案しているローズマリー

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「食と農」の現場を日々取材する記者が、田畑、流通、スマート農業、人気レストランなどからこれからの農業経営のヒントを探ります。
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