そもそも農地の贈与とは?
贈与とは、自分の財産を無償で人に贈ることです。贈与者から贈与する旨の意思表示があり、贈与を受ける側がそれを承諾することで贈与が成立します。
一般的な不動産であれば、不動産の価値に応じて贈与税を納める必要はあるものの、自由に贈与が可能です。
しかし、農地を贈与する場合は売買する際と同様に、農地法3条の許可を得なければなりません。
贈与にあたっては所有権移転登記をする必要がありますが、農地の場合は登記の際に農地法に基づく許可指令書の添付が求められます。
そのため、許可が下りなければ所有権移転登記自体ができないのです。
農地を他人や家族に贈与する際の流れ
ここからは、農地を他人や家族に贈与する際の流れを見ていきましょう。
具体的な流れは、以下のとおりです。
- 贈与者と受贈者で話し合う
- 農業委員会または知事に許可を申請する
- 農地の贈与契約書を作成する
- 農地の名義を変更する(贈与登記)
- 贈与税を申告し納税する
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
1.贈与者と受贈者で話し合う
「贈与」という言葉には、単に「一方的に与える」というイメージがあるかもしれません。
しかし冒頭でお伝えしたとおり、贈与は贈与する側からの意思表示と贈与を受ける側の承諾があって初めて成立する契約です。
そのため、まずは贈与者と受贈者が贈与の内容について話し合う必要があります。
その際は双方の意思確認だけでなく、「そもそも贈与が可能かどうか」「税金はどのくらいかかるか」といったことも話し合うことをおすすめします。
2.農業委員会または知事に許可を申請する
農地を贈与するためには、事前に農業委員会または知事に許可を申請する必要があります。
その際は、以下のような書類を用意しなければなりません。
- 許可申請書
- 農地の登記簿謄本
- 住民票や印鑑証明書
- 耕作証明書や営農計画書
- 行政書士への委任状(委任する場合)
3.農地の贈与契約書を作成する
贈与は贈る側の意思表示と受け取る側の承諾があって初めて成り立つ契約ですが、契約自体は口約束でも成立します。
しかし、不動産の贈与では贈与税が発生することがあるため、具体的にどのような贈与を行ったかについて、贈与契約書を作成しておくことをおすすめします。
贈与契約書の形式に決まりはありませんが、以下の5点は記載しておきましょう。
- いつ贈与するか
- 誰に贈与するか
- 何を贈与するか
- 贈与する条件
- 贈与する方法
4.農地の名義を変更する(贈与登記)
贈与契約の後は、所有権が贈与者から受贈者に移転することになります。
所有権の移転自体は双方の合意だけで成り立ちますが、登記をしていなければ第三者にそれを主張できません。
例えば、AからBに農地を贈与したにも関わらず登記をしていない場合、贈与後にAが第三者であるCに農地を売却したとしても、BはCに対して自分の所有権を主張できないのです。
農地の贈与に伴う所有権移転登記では、以下のような書類が必要になります。
- 登記申請書
- 贈与契約書
- 贈与者の印鑑証明書
- 農地の権利書
- 受贈者の住民票
- 農地贈与の許可指令所
- 司法書士への委任状(司法書士に依頼する場合)
所有権移転登記の際は登録免許税がかかり、所有権の移転後は受贈者に不動産取得税が課されます。
5.贈与税を申告し納税する
贈与が行われると、受贈者は贈与を受けた財産に応じて贈与税を納めなければなりません。
贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、受贈者が税務署に対して申告し、納税する必要があります。
なお、贈与税には相続税精算課税制度という特例がありますが、このような特例の適用を受ける場合も、申告期限までに必要書類を揃えて申請しなければなりません。
農地を贈与する場合の贈与税について
前述のとおり、受贈者は贈与を受けた財産の額に応じて贈与税を納めなければなりません。
ここからは、農地を贈与する場合の贈与税について解説します。
贈与税の課税対象者
贈与税の課税対象者は受贈者、つまり贈与を受けた人です。
農地を売却した場合、売却した人が所得税の申告をしなければなりませんが、贈与の場合は不動産を受け取った人が税金を納めなければならないのです。
贈与税の計算方法
贈与税額は、以下の式で計算できます。
-
贈与税額 =( 贈与した財産の額 - 110万円の基礎控除 )× 税率 - 控除額
贈与税の税率は、贈与された財産の額に応じて税率が変わる累進課税制度になっています。
また、直系尊属から20歳以上の子や孫に対する贈与の場合は特例税率、それ以外の場合は一般税率が適用されます。詳細は以下のとおりです。
一般税率
特例税率
例えば、特例税率の適用を受けられるケースで500万円の農地が贈与された場合の税額は、以下のように計算します。
-
基礎控除後の課税価格 500万円 - 110万円 = 390万円
贈与税額の計算 390万円 × 15% - 10万円 = 48.5万円
贈与税の申告・納税について
贈与税の申告は、贈与があった年の翌年2月1日から3月15日までに行う必要があります。
納税の期限も上記と同じで、3月15日までに申告と納税を済ませなければならない点に注意しましょう。
なお、贈与税の納税が困難である理由があり、かつ納税額が10万円を超える場合は贈与税の延納制度を利用できます。
延納では最長5年の分割納付が可能ですが、その場合は別途利子税がかかります。
贈与税や相続税の節税対策
上記は贈与税の納税方法のうち、暦年課税を利用した場合の計算方法です。
贈与税には相続時精算課税制度という制度もあります。この制度を利用すると、申請した年以降、合計2,500万円まで贈与税が非課税となり、2,500万円を超えた分については一律20%の税率が適用されます。
ただし、相続時精算課税制度の適用を受けて贈与した財産は、相続税を計算する際に加算する必要があるため、納税を先送りする制度といえます。
相続税には「3,000万円+法定相続人の数×600万円」の基礎控除があるため、財産の総額が基礎控除に収まるようなケースで利用するのがおすすめです。
その他、贈与税には納税猶予の特例や配偶者控除の特例などがあります。
納税猶予の特例は、「農業後継者が農地等の贈与を受ける」といった一定の要件を満たす場合に贈与者の死亡の日まで納税が猶予されるというものです。詳しい要件は国税庁の「農業後継者が農地等の贈与を受けた場合の納税猶予の特例」で確認することをおすすめします。
配偶者控除の特例は、婚姻期間が20年以上の夫婦間の贈与について、2,000万円まで非課税になる制度です。
いずれも、要件を満たす場合は積極的に活用することをおすすめします。
農地を売却する場合も贈与税がかかる?
贈与税は贈与の際にかかる税金ですが、農地を売却した場合でも贈与税がかかるケースがあります。
農地売却で贈与税が発生するケースについては以下の記事でも紹介しています。
関連リンク:土地売却にかかる税金はいつ払う?税額シミュレーションや特別控除についても解説
農地の売却でも贈与税が発生する3つのケース
農地の売却でも贈与税が発生する可能性があるのは、以下3つのケースです。
- 相場より低すぎる価格で土地を売却した場合
- 法人と代表間の不動産売却
- 関係会社間の不動産売却
該当する可能性がある場合は、事前に税理士などの専門家に相談しておきましょう。
農地売却時の贈与税の支払いを避けるコツ
農地を売却する際にも、贈与税の支払いが求められることがあります。例えば、相場よりも安い価格で売却したために、差額分が贈与にあたると見なされるケースです。
相場に近い価格で売買すれば、贈与税が課されることはありません。
不動産を売却する際はあらかじめ相場を把握し、安すぎる価格で売却することのないように気をつけましょう。
不動産の相場を知るには、不動産一括査定サービスを活用することをおすすめします。
不動産一括査定サービスを利用すれば、複数の不動産会社に売却物件を査定してもらえるため、相場を知るのに役立ちます。
1社だけだと相場から離れた価格になる可能性もありますが、複数のプロが査定すれば、その平均などから相場を把握できるでしょう。
なお、農地の一括査定なら、全国約1,700社の不動産会社から物件に合った不動産会社を紹介してもらえるリビンマッチがおすすめです。
農地の売却を検討しているのであれば、まずはリビンマッチを利用するとよいでしょう。
農地贈与の流れを確認してしっかり話し合いを
農地を贈与する際は許可が必要になることや、受贈者が贈与税を納める必要があることなどお伝えしました。売買の内容によっては農地を売却する場合でも贈与税が課される可能性があるため、注意が必要です。
必要以上に贈与税を支払うことにならないためにも、不動産一括査定サービスを利用して、早い段階でその地域に合った農地の相場を把握しておくことをおすすめします。
農地の査定で不動産一括査定サービスを利用する場合は、全国約1,700社の不動産会社から農地に合った不動産会社の紹介を受けられるリビンマッチがおすすめです。