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アンチエイジングに効果大? ピーカンナッツとは 東大が産学連携で国内生産へ

斉藤 勝司

ライター:

連載企画:農業テクノロジー最前線

アンチエイジングに効果大? ピーカンナッツとは 東大が産学連携で国内生産へ

農作物が持つ健康、美容を増進する効果に関心のある人達の間で、近年、ピーカンナッツが注目されるようになっています。しかし、これまで国内で消費されるピーカンナッツはほとんどを輸入に頼っており、高まる需要に供給が追い付いていませんでした。そこで東京大学の研究グループは、ピーカンナッツが盛んに生産されているアメリカ・アリゾナ州で栽培技術を研究する一方、産官学連携の試験栽培も実施。ピーカンナッツの国内生産を実現する栽培技術の研究開発を進めています。

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ブルーベリー、ブロッコリーを上回る高い抗酸化能力

これまで農産物に対しておいしさや安全性が求められてきましたが、近年、美容や健康を増進する効果への関心が高まっています。リコピンやスルフォラファンなどの機能性成分が注目されるようになっており、それらの含有量を高めることを目指した品種改良や栽培技術の開発も行われています。こうした農作物が持つ健康、美容を増進する効果に関心のある人達の間で注目されるようになっているのがピーカンナッツです。

ピーカンは北米原産のクルミ科の落葉樹で、その実のピーカンナッツは甘みがあり、アメリカではアーモンドよりも人気があると言われています。しかも、食味が良いだけでなく、高い抗酸化作用を持つことが明らかになっています。

アメリカで栽培されているピーカンの実

従来、食品の抗酸化作用はフラボノイドやカテキンなどの抗酸化物質の含有量が目安になっていましたが、近年、食品にどれだけ活性酸素を吸収する能力があるかを示す「活性酸素吸収能力(ORAC)」という指標で評価されるようになっています。このORACに関して、ピーカンナッツは抗酸化物質を多く含むことで知られるブルーベリー、ブロッコリー、トマトよりも高いことが確かめられています。

こうした特徴から日本でも女性を中心にピーカンナッツのファンが増えているものの、これまでほとんどを輸入に頼っており、高まる需要に供給が追いついていませんでした。そこで東京大学生産技術研究所特任教授の沖一雄(おき・かずお)さんらの研究グループはピーカンナッツの国内生産の実現を目指して研究を続けています。沖さんがピーカンナッツの研究に取り組むことになった経緯について、こう説明してくれました。

「元々、東京大学の農学部で人工衛星やドローンを用いて環境変化や農作物の生育状況を把握する技術の研究開発に取り組んでいたのですが、生産技術研究所に移籍した際、元東大の副学長で、現在は京都先端科学大学学長の前田正史(まえだ・まさふみ)先生から、農学と工学を連携させてピーカンナッツの生産効率を高めるとともに、国内での生産を可能にする技術開発に取り組むことを勧められました」

ドローンを使ってピーカンの生育状況を把握

ピーカンナッツに興味を持った沖さんは、早速、盛んに生産されているアメリカのアリゾナ州で研究に取り組むことにしました。ドローンを飛ばして、上空から撮影した圃場(ほじょう)の画像からピーカンの生育状況を把握する技術などの開発を進めました。この技術を応用すれば、ドローンが捉えた生育状況の違いに応じて、圃場内を自動走行するロボットに自動で肥料散布を行わせることもできるようになるでしょう。

沖さんらが栽培技術の研究に取り組んだアリゾナのピーカン農場(画像提供:沖一雄)

さらに沖さんと共同研究を実施している同大学大学院農学生命科学研究科は、856系統のピーカンの遺伝子を解析して、日本の気候風土に合った品種の探索も進めています。
「温暖なアリゾナで盛んに栽培されているだけに、ピーカンは日本では栽培できないと思われるかもしれません。しかし、北部のイリノイ州でも栽培されていますから、うまく品種を選べば日本でも十分に栽培できるはずです。そこで日本各地の自治体に協力を要請したところ、岩手県の陸前高田市が名乗りを上げてくれました」(沖さん)

2011年の東日本大震災では沿岸部が津波で大きな被害に遭った陸前高田市では、新たな農業生産を確立するだけでなく、震災復興のシンボルとなるようピーカンナッツの生産に取り組むことにしたといいます。2017年にはピーカンナッツを使ったお菓子の製造・販売を手掛ける株式会社サロンドロワイヤルが参加して、東京大学、陸前高田市、同社による「ピーカンナッツによる農業再生と地方創生プロジェクト」の共同研究契約を結びました。こうして本格的にピーカンナッツの国内生産に向けた取り組みが始まりました。

産学官連携によるピーカンの試験栽培を実施

2020年4月に90本の苗木が植えられ、ピーカンの試験栽培が行われています(画像提供:陸前高田市)

2020年4月にはピーカン9品種90本の苗木の植樹が陸前高田市で行われ、試験栽培がスタート。無事に寒い冬を越し、2021年にはさらに365本の植樹も予定されています。沖さんがこう続けます。
「まだ日本で推奨できる品種を見つけ出すには至っていませんが、東京大学で取り組まれている遺伝子解析や陸前高田市での試験栽培の結果を踏まえて、日本の気候風土に合った品種を選んで、国内での栽培技術を確立していきたいと考えています」
すでに沖さんのもとに、陸前高田市以外の農業者からもピーカンを栽培したいとの要望が届いていますが、そうした要望のすべてに応えられるだけの苗木を生産することは難しく、今後は苗木の生産体制の強化も働きかけていくといいます。

また、ピーカンナッツのさらなる需要を喚起するため、株式会社サロンドロワイヤルが陸前高田市に設立したゴールデンピーカン株式会社からナッツの供給を受けて、東京大学は「ゴールデンピーカンナッツ」を商品化。販売も開始しました。今のところアメリカ産のナッツが使われていますが、ピーカンは苗木を植えてから6~7年で収穫できるため、陸前高田市をはじめ、国内生産の生産体制が整っていけば、近い将来、国産のピーカンナッツが市場に出回り、高い活性酸素吸収能力で日本人の健康、美容を増進してくれることでしょう。

東京大学から発売されたゴールデンピーカンナッツ

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