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獣害柵に「隙(すき)」はないですか?必ず防げる防護柵の設置法

伊藤 雄大

ライター:

連載企画:凄い!農家のアイデア集

獣害柵に「隙(すき)」はないですか?必ず防げる防護柵の設置法

春野菜の収穫が始まると、いよいよ農繁期がスタートします。でも、野菜の収穫を喜ぶのは、ケモノたちも一緒です。本格的な農繁期に入る前に、対策ができているかしっかりチェックしておこう。そんなことを考え鳥獣害対策のセミナーに参加すると、改めて見直すべき点が分かりました。
「対策は十分できている」と思っている人にこそ知ってほしい、“本気の対策”を紹介します。

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今年こそ畑を荒らされたくない!

セミナーには40人余りの悩みを抱える人たちが集まった

もう、今年こそは、畑を荒らされるのは絶対イヤだ。そんな私と同じ思いを抱える人がこんなにいるなんて、驚きました。
2021年3月13日、兵庫県川西市の国崎クリーンセンター啓発施設「ゆめほたる」で催された「地域のための獣害対策セミナー『あなたの農地里山は守れてますか?』」は、座学と実習も含め9時30分〜17時の長丁場にもかかわらず、40人以上もの受講者が集まっていました。
この辺りは山間部の農地が多く、サルはほとんど来ないものの、イノシシやシカといった定番の大型動物のほか、アライグマやハクビシン、タヌキ、ヌートリアなどの厄介な中型動物もいるような地域です。
特にシカの被害は総じて多く、捕獲などによって全盛期よりは減ったものの、兵庫県全体では10万頭まで増えているそうです。
数字だとちょっとピンとはきませんが、座学で見せてもらった付近の自動撮影映像は、衝撃でした。「どこまで続くんだ」というくらい、長蛇をなしたシカの隊列が山を駆けていく様子や、獣道に転がる大きな丸太を軽々と押しのけるイノシシの様子……。それを見た受講者からは、悲鳴とも諦めともつかぬ声が上がりました。──これを完全に防ぎきるのは、そりゃあ、大変です。

近所で捕獲された、まれにみるような大きなシカ。こんなのが多数いるとなるとため息が出る

基本が大事! 「本気」の獣害防護柵

実地研修を担当した高柳敦(たかやなぎ・あつし)さん(中央)。京都大学大学院農学研究科森林科学専攻森林生物学分野准教授

それでも「本気で防護柵を設置すれば、『必ず』獣害は止められます」と力強く言うのは、実地研修の講師としてやって来た、京都大学の高柳敦さん。高柳さんは農学研究科の准教授なのですが、大きなポシェットやカバンから、次々と柵設置の道具を出す様子は、まるで職人のよう。各所で防護柵の設置・維持管理を行う現場肌の先生のようです。力強い言葉に励まされます。
「ホームセンターで買えるワイヤーメッシュや防獣ネットでも、ちゃんと設置すれば十分です」と、高柳さん。
受講者から「エーッ!?」と声が上がる理由はなんとなくわかります。私自身もワイヤーメッシュとネットで柵をつくったことがありますが、小さなイノシシにすら軽々と突破されたからです。

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続けて、高柳さんは言います。
「ただし、つらい思いをして、一生懸命やるだけではダメですよ。常に頭を使って、考えながら、本気でやるんです。相手は『柵を突破するプロ』。夜になると、柵をぐるーっと回って、どこが弱いかを観察します。だから、こっちも必死で、『絶対に通さない』ように考えて、隙がないように柵をつくらなきゃなりません」
以下、高柳さんに教わったワイヤーメッシュを設置する時のポイントをいくつか紹介します。

ワイヤーメッシュ設置の基本

地面との隙間を絶対につくらない

ご存じのように、遠くからはきれいに整備されたかのように見える畑でも、地面にはいくらか凹凸があり、完全に平坦なところはありません。何もせずにワイヤーメッシュを設置しようとすると、真っすぐにはならず、どこかが浮いてしまいます。「絶対ダメ!」と高柳さん。
イノシシは、地際との隙間から鼻を突っ込みワイヤーメッシュを持ち上げたり、あるいは、穴を掘って侵入しようとしてきます。
「ワイヤーメッシュの地際方向の先端部分は、絶対に地面に埋め込んでください」とのこと。柵を設置する部分をツルハシで軽く掘ったうえで、ワイヤーメッシュをあてがい、足でギュッと踏みつけます。

ワイヤーメッシュの先端の突起が見えないように、据える。ワイヤーメッシュを金づちで打ち込んでもよい

支柱は「意地でも」深く突き刺す

支柱は50〜70センチ打ち込むのが基本。支柱は1本だけでなく、ワイヤーメッシュを挟むように2本打ち込む。線径4ミリ以上のワイヤーメッシュなら、上部30センチくらいは柱がなくても大丈夫

ワイヤーメッシュの支柱にも「隙」があると、危険。
「よく、地面が硬いからもういっかと諦めちゃうことがあるんですけど、ダメです。意地でも、目標の深さまで打ち込みます」と高柳さん。確かに、諦めちゃうこと、あります。
深さの目標は50〜70センチ。150センチあった支柱が、どんどん地面に埋まっていき、最終的には膝丈くらいの高さになりました。ここまでやらないといけないのか……。
とはいえ、どうしても地面が硬いところもあります。そういうところは、先端がとがった鉄筋や、ドリルなどで下穴を開ける。ワイヤーメッシュの柵を頑丈にするのは支柱次第、簡単にスポンと抜けるようでは、何の意味もありません。
さらに、この支柱をワイヤーメッシュを挟み込むように2本打ち込み、16番以上の太さの針金で頑丈に縛って、1カ所が完成。

2本の支柱でワイヤーメッシュを挟み込む。結束は、16番以上の太さの針金2本を交差させてタスキ掛けにし、ぎゅっと締める。これを、上・中・下と3カ所行う

支柱は、ワイヤーメッシュ1枚あたり、左・右・中央の3カ所に打ち込み、結束します。
「完成したら、一度、自分で力を込めて、手でグッと持ち上げようとしてみてください。持ち上がらなければ、イノシシの力でも無理です」と、高柳さんが目安を教えてくれました。

ワイヤーメッシュ同士は必ず重ねて設置する

ワイヤーメッシュ同士の重ね方が甘いと、軽く蹴るだけで隙間ができる

「あれ、ワイヤーメッシュの数がちょっと足りない。じゃあ、ここは重ねなくてもいっか、って、やりませんか?」と高柳さん。正直、私もよくやります。
「絶対ダメです」と言い、高柳さんがワイヤーメッシュ同士の隙間を軽く蹴ると、簡単に隙間ができました。最低でも1マスは重ねないとイノシシは侵入してきます。

地面の凹凸が激しい場合の重ね方の例(凸地の場合)。上までしっかり重ねる

ワイヤーメッシュ代は高くなりますが、必要な部分でケチケチして、結局、柵を突破されては意味がないのです。

横向きのワイヤーを柵の内側に

ワイヤーの交差する部分を見て、横のワイヤーが柵の内側、縦のワイヤーが外側になるように設置する。写真は手前が内側、人のいる方が外側

また、強度を上げるちょっとした工夫として、ワイヤーメッシュの横向きのワイヤーの方を内側に向けるといいそうです。
安く買えるワイヤーメッシュほど溶接が脆弱で、イノシシがくわえて引っ張ってしまうと、その部分から壊れていってしまうからです。確かに横向きの方がくわえやすそう。

高柳さんの話を聞いていると、なるほど、設置する人間の「まあ、いっか」という心の隙から、イノシシは侵入してくるようです。
春夏野菜の収穫が忙しくなる前に、自分の畑の獣害防護柵に隙がないかどうか、ぜひ、チェックしてみてください。

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