Q1. シキミって何ですか?
A. 安定した需要がある仏壇の葉っぱ
シキミは、光沢のある美しい葉っぱを持つ常緑樹です。日本ではお寺の境内に植栽されているほか、場所によっては山の中にも自生しています。地方によってさまざまな呼び方があり、筆者が住む大阪では「シキビ」と呼びますし、「コウノキ(香の木)」「ハナノキ」などと呼ぶ地方もあるようです。
毒性があることからケモノの食害が少ないため、魔よけの意味で、お墓や仏壇に供えられるようになったとも言われています。
需要がいちばん高まるのは、墓参りシーズンである8月の盆前後ですが、3月の春彼岸、9月の秋彼岸の時期も直売所などでよく売れます。
そのような期間に限らず、お墓や仏壇の花をたびたび取り替える文化がある田舎では、安定した需要があります。
切り枝で用いられるだけあって、シキミは春、夏、秋の年に3回新芽を伸ばすほど生育が旺盛です。また、3〜4月頃に白い小さな花が咲き、9〜10月頃には「八角」に似た形の実がつきます。
Q2. 本当にケモノに食べられない?
問い合わせの中で非常に多かったのが、中山間地域に住む人たちからの「獣害に遭わないか」あるいは「日陰でも育つか」という質問でした。
A. 毒があるゆえに、ケモノはほとんど食べません
先ほど、「シキミには八角に似た実がつく」と書きましたが、絶対に八角のように料理に使ってはいけません。
シキミの実は、名前の由来が「悪しき実」からきているという説もあるほど強い毒性があり、実だけでなく、葉っぱにも、枝にも根にも生き物に有害な毒があります。
実際、わが家の畑は電気柵なしでは何も作付けできないほど山の中にあるのですが、シキミに限っては、電気柵で囲っていないにもかかわらず、食害は皆無。別の地域でシキミを栽培している数人にも聞いてみましたが、獣害対策をしている人は一人もいませんでした。
Q3. 日陰でも育つ?
A. ある程度の日当たりは必要。ただし西日は避けましょう
美しいとされるシキミは、葉っぱの色が濃く、なおかつ節が詰まった(葉っぱ同士の間隔が狭い)ものです。
やや薄暗い山に自生していることもあるシキミですが、そういうところでは青々とした葉っぱではあるものの、やや間延びしており、枝がうねっていることもしばしばあります。
供えるシキミはシャキッとしていたほうがよいので、ある程度は日当たりがよいところ、そのうえで葉ヤケを避けるために西日が当たらないようなところに植えたほうがいいようです。
そんな条件を意識しながら、シキミをつくる人は周囲の樹木を間伐しています。
Q4. 苗の購入先は?
A. 園芸店で購入するか挿し木で増やします
ホームセンターでは最近あまり見かけないような気がしますが、少し大きな園芸店では売っています。ネットでも1つ1000円以下で購入できます。
生産者の大半は、お金をかけず、挿し木をして増やしています。
タイミングは、空中湿度の高い梅雨時期が主流。
春に伸びた新芽の展葉が終わり、成長が止まった時点で、長さ10センチ、葉っぱを3〜4枚つけた状態の穂木をつくり、半日ほど水揚げをします。このとき、葉っぱはそれぞれ半分ほどの大きさに切っておきます。
その後、鹿沼土に挿して、たっぷりと水やり。寒冷紗(かんれいしゃ)で遮光するか、半日陰のところに置き、空中湿度を保つように工夫すると、60日ほどで発根するので、ポットなどに移植します。挿し木から約2年後には、植え付けられるサイズの苗になります。
本格的に収穫できるのは、定植3年後からです。
Q5. 困る害虫はありますか?
A. 害虫は多い植物です
地域にもよりますが、わが家で被害が多いのは、夏から秋にかけて葉の表面に白い斑をつくるグンバイ、葉裏を黄土色に変色させるサビダニ、葉っぱにぶつぶつの虫こぶをつくるタマバエと、害獣は少なくても、害虫は多い植物です。
食害痕のあるシキミを墓前や仏壇に供えるのは気が引けます。少しでも汚れた葉があると、直売所でも売れませんから、食害痕のある葉は荷づくりする時に入念に取り去るか、その手間をかけたくないのであれば、定期防除をするしかありません。
Q6. 束ね方はどうしたらいい?
A. 自然樹形の木のように、美しく!
上でも触れたとおり、汚いシキミは売り物になりませんから、汚れた葉っぱはきれいに取り除きます。
また、たいていのお客さんが、束ねたままのシキミをそのまま墓前や仏壇に供えるので、束ねた時の見た目の美しさも肝心です。
シキミをホームセンターに出荷する農家によると、ポイントは、
- 自然樹形の木のように、円すい形にすること
- 足元(枝元)を輪ゴムなどでしっかりと結わえてそろえること(バラバラにしてはいけない)
- 水滴がついた状態で収穫すると乾いた時に白っぽい痕が残るので、必ず乾かしてから花袋に入れること
だそうです。
また、夏などは特に、葉っぱが多いと蒸散量が多くなり、すぐにしおれてしまいますので、重なっているような枝を取り払い、出荷後の日持ちをよくします。
鳥獣害に強く、ある程度の耐陰性があるシキミは、きわめて中山間地域向きの品目だといえます。また、コミュニティーの結束力が強く、先祖を大切にする傾向のある中山間地域ほど、安定した需要があります。
鳥獣害で何を作付けしても食べられる、という畑があるとしたら、シキミをつくってみるのもいいかもしれません。梅雨時期の今は、シキミを挿し木で増やすチャンスでもあります。