小さな畑でもブロッコリーがいっぱいとれる
ブロッコリーといえば、大きな1株から1つしかとれないのが普通。
もっと量をとろうと欲張って密植すると小ぶりになり、売り物にならないものが増えてしまう。
そんな常識を覆すのが「ブロッコリーのV字仕立て」という技術。なんと、1株のブロッコリーからLサイズ(花蕾の直径が12センチ)の立派なブロッコリーが、同時に2つとれるという。
さっそく、この研究をした高橋さんに、詳しいやり方を教わった。
V字仕立てで6割増収
「ブロッコリーのV字仕立て」は「1株増収技術」。「限られた面積で、いかにたくさんのL品をとるか」を研究するうえで生み出された方法だ。
キャベツやハクサイなどの他の秋冬野菜のように、ブロッコリーも1株1本どりが基本。
通常は頂花蕾を収穫後、株をしばらく置いておけば、わき芽が成長して側花蕾がいくつか収穫できるが、頂花蕾よりもずっと小さな花蕾しかとれず、ガサッと袋に詰めて「ひと山ナンボ」の価格。
そうではなく、立派なL品を1株から2本同時にとる、というのがV字仕立ての主眼だ。
高橋さんの試験では、慣行栽培の1株1花蕾どりだと10アール当たり3000本とれたが、一方のV字仕立ての1株2花蕾どりだと、Lサイズ以上の良品が約5000本収穫できた。最大で、なんと約6割も多くとれたそうだ。
それにしても、ブロッコリーを「仕立てる」とは、一体どうやるのだろうか。
V字仕立てのやり方
「V字仕立て」最大のポイントは、成長点を摘み取る「摘芯(摘心)」にある。
最初の花蕾(頂花蕾)ができる前に摘芯。すると、下葉のほうから数本のわき芽が成長してくるので、そのうち2本だけを残す。この2本のわき芽が伸びて、先端に2つの程良く大きな花蕾がつく。
詳しく見ていこう。
摘芯の時期
高橋さんがいろんな時期に摘芯してみたところ、最適な時期はブロッコリーが9〜11葉齢の頃。これよりも早いと、わき芽の数が多くなるし、遅いと、わき芽が少なくなりすぎる。
また、摘芯時期が遅いと、収穫時期が大幅に遅れてしまうのも問題だ。
V字仕立てのブロッコリーは、摘芯することで生育が遅れ、慣行栽培よりも収穫時期が1〜2週間遅くなる。摘芯するのが適期よりも遅れると、霜に当たる可能性がよりいっそう高まってしまう。霜に当たったブロッコリーは花蕾が紫色に変色し、売り物になりにくい。
上の表は栽培スケジュールの一例だが、各地域で、霜が降るまでに収穫できるように播種(はしゅ)時期を早くするなどの工夫が必要。
目安は、慣行栽培の場合は定植から収穫までの積算温度(日々の平均気温を足したもの)が約1200度なのに対して、V字仕立てでは約1500度だそうだ。
摘芯のコツ
摘芯のコツは、成長点を「確実に」摘み取ること。指先を使って折るのだが、うまくいくと、ハサミで切ったように平らになる。
また、摘芯後、傷口が乾かないうちに雨に当たってしまうと、そこから茎が腐ってしまうことがあるので、摘芯は晴れた日の午前中に済ませるのがいいそうだ。
芽整理のしかた
摘芯後、7〜10日たてば、わき芽がおおかた出そろい、それぞれの芽の強弱もわかるので、芽整理をする。
V字になった姿を想像しながら、花蕾の大きさがそろうように、また、成長後に葉っぱが重ならないように、逆方向にあり、なおかつ同じくらいに元気な芽を2本残す。
V字仕立てにオススメの品種
品種によって、摘芯後に出てくるわき芽の本数が違うので、その選定も大事だそうだ。
高橋さんのオススメは「夢ひびき」(ナント種苗)。側花蕾が大きくなりやすい「セカンドドーム型」の品種で、摘芯後のわき芽の数も多からず少なからずちょうど良く、わき芽かきの手間が少ない。そのほかの品種では、ピクセル(サカタのタネ)、緑嶺(りょくれい・サカタのタネ)、ノースベル(渡辺農事)でもうまくいったそう。
株間と施肥量
1株から2本収穫するため、高橋さんの試験では施肥量は慣行の1.3倍にしているが、株間は40センチと変えていない。
ブロッコリーも、自在に仕立てる時代!?
じつは高橋さん、「V字仕立て」の研究をする以前は「L字仕立て」での1株2本どりに取り組んでいた。こちらは、頂花蕾が見え始めた頃に、下の方にある勢いの強い芽を残し、そのほかのわき芽を摘み取る方法で、LLサイズの頂花蕾1本と、Mサイズの小ぶりな側花蕾1本を収穫する方法だ。
興味のある人は下記のリンクを参照してほしい。
ブロッコリー側枝L字仕立てによる端境期の側花蕾収穫技術(農研機構ホームページ)
ナスやトマトではさまざまな「仕立て」が開発されているが、ブロッコリーの仕立ては新しい取り組み。農研機構がある筑波市の試験圃場(ほじょう)のほかにも、奈良県の山間部や、三重県の平野部の農家も試験栽培に協力しており、だんだんと現場に広がっているそう。
もしかしたら近いうちに、「ブロッコリーは仕立てるのが当たり前」の時代が来るかも!?
画像提供:高橋徳