意外と大変なマルチの片付け
雑草を抑制したり、地温を上げたり、土中水分を安定させたり。もはや、現代の農業に必須といってもよいビニールマルチ。案外時間がかかるのが、収穫後にマルチを剥いで、片付ける作業です。特に夏作から秋作に切り替える時期は雑草が茂りやすいうえ、土が乾燥して締まりやすく、炎天下の作業なので、なおのこと大変。
かといって焦って雑に剥がすと、土に埋まったマルチの裾が破れてマルチ片が土中に残ります。環境的にもよくありませんし、マルチ片が多く残ったままの畑を耕すと、トラクターのロータリーのデリケートな隙間(すきま)に入り込んで熱で溶けて固着し、故障の原因にもなります。筆者も30アールの畑を持っていますが、一度やらかしてしまい、深く、深く、反省しました。
マルチをラクにかつ手早く片付けるにはどうしたらいいのでしょうか。
マルチの種類を変える
分厚いマルチは剥がしやすい
筆者が気をつけているのは、分厚いマルチを使うということです。たとえば、黒マルチなら0.01ミリよりも0.02ミリ、さらに0.03ミリと厚みが増すほど頑丈になり、少々雑に剥がしても破れにくい。ナスやピーマンなど5〜11月までマルチを張りっぱなしの果菜類でも、ぐいっと引っ張ると、裾がべりべりべりと土中から上がってきます。
その点でいうと、白黒マルチもオススメです。片面が白く、もう片面が黒いという機能性マルチです。厚みは0.02~0.025ミリほど。白い面を上に向ければ、抑草と同時に太陽光の反射で地温の抑制もできます。真夏に植え付ける作型のズッキーニやキュウリに効果的です。
価格は黒マルチの1.5倍と少し高いですが、ていねいに保管することで、2〜3作は使えます。
生分解性マルチという手もある
そもそも剥がす手間さえ不要なのが、生分解性マルチです。値段はモノにもよりますが、白黒マルチと同じくらいか、もう少し高いくらい。
トウモロコシでんぷんなどが主原料で、収穫が終われば作物もろともロータリーですき込むことができます。すき込み後は、おおむね2〜3カ月で土中の微生物によって分解されるようです。
側面だけを、作付け中にめくりあげる
筆者が住んでいる大阪府の能勢町で広がってきているのが、ウネの側面のマルチのみ早めにめくりあげておく、という方法です。2人の先輩たちに話を聞いてきました。
1〜2時間の作業がたった15分で
教えてくれたのは、10年ほど前に就農し、現在2ヘクタールの畑で年間約15品目の野菜を栽培している成田周平さん。
「昔は、マルチを剥がすのにとんでもない時間がかかっていました。うちでは、マルチの裾を土に埋め込んで固定するのですが、その当時は50メートルのマルチを剥がすのに、1〜2時間。すると、その後の作業が遅れてしまい、後作で失敗することもありました」
通路を歩くうちに裾付近の土が締まって硬くなったり、根っこが頑丈な雑草がはびこったりするうちに、手では剥げなくなり、スコップを使って掘り起こさないといけなくなってしまいます。
成田さんが選んだ解決方法は、土が締まらないうちに、雑草が生えないうちに、ウネの側面だけマルチをめくりあげてしまう、という方法です。
「たとえばサニーレタスなんかは、大きくなってくると、レタス自身がマルチを押さえてくれます。このタイミングで側面を固定していなくても、マルチが風で飛んでいくことはありません」と、成田さん。
このタイミングなら側面も手で簡単にめくることができます。収穫後は両端のマルチをめくり上げ、くるくると巻いていくだけ。1〜2時間かかっていたマルチの片付けが、15分程度に短縮されたそうです。
春だと結球野菜類や大根、夏ならオクラやピーマン、シソ、エダマメなどでも同様の方法をとります。
側面をめくるタイミングは、野菜や作型などによって違いますが、おおむね植え付け後1カ月。たとえばオクラなら、開花時期(草丈30センチ程度)にする追肥で裾をめくり上げ、そのままにしておきます。
マルチ押さえの節約にもなる
成田さんは、マルチの裾を土に埋め込んで固定していますが、同じ能勢町の今堀淳二(いまほり・じゅんじ)さんは裾をT字型のマルチ押さえ(通称トンボ)で固定しておく方式。今堀さんも、成田さんとほぼ同様のタイミングで、側面のマルチ押さえを抜いています。
「こうしておくと、剥がすときがだいぶラクになりますね。それと、早めに側面のトンボを回収しておくと、別のところのマルチ張りに使えます。トンボってかさばって、置き場所に困るんです。このやり方なら、持つべきトンボの量がかなり減りますよ」と、今堀さん。
剥がしやすくなるだけではない効果もあるようです。
マルチの片付け作業で苦労している人は、ぜひ参考にしてみてください。