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なぜ、最大手不動産企業が農業に? キャベツ参入のウラに見た、壮大な野望

なぜ、最大手不動産企業が農業に? キャベツ参入のウラに見た、壮大な野望

三井不動産の子会社が昨年から栃木県や茨城県でキャベツを育てている。三井不動産といえば不動産業界の最大手だ。農業とは無縁にも思えるが、そこには強い思いを持つ社長がいた。いったいその狙いとは? 三井不動産を脱サラして農業に携わる筆者が迫った。

華麗なる企業が作るキャベツ

栃木県宇都宮市や芳賀町、茨城県筑西市に点在する約10ヘクタールのキャベツ畑。
その畑を耕す農業生産法人の代表・岩崎宏文(いわさき・ひろふみ)さん(冒頭写真の人物)はまだ就農1年目。「トラクターの運転はいまだに慣れないです」と笑う。

一見、実直な印象を受ける岩崎さんだが、ふつうの農園の主人ではない。
三井不動産ワールドファームの代表取締役。すなわち、不動産業界最大手、売上高2兆円を誇る企業の社内ベンチャー代表なのである。
三井不動産といえば都心部のオフィスビルやマンションのほか、「東京ミッドタウン」などの大型複合施設、「三井ショッピングパーク ららぽーと」や「三井アウトレットパーク」といった郊外型ショッピングセンターなどを開発している企業だ。
その三井不動産の子会社として設立されたのが三井不動産ワールドファームである。全国に圃場(ほじょう)を持つ農業ベンチャー、ワールドファームからノウハウ提供を受けている。詳しい取り組みは後述するが、ワールドファームは農業界では知られた存在だ。

大企業が農業に参入する事例は珍しくないが、それでも都市部を主戦場とする巨大企業がキャベツを育てているとなれば、やや奇異に感じる。そんな農業参入の真の目的に迫るべく、三井不動産ワールドファームを訪ねた。

対面してすぐ、「どうして三井不動産が農業を始めることになったんでしょうか?」という直球の質問を投げたとき、岩崎さんの口から出た言葉にちょっとだけ、驚いた。
岩崎さんは「国富」という言葉を使ったからだ。

岩崎さん「三井不動産は業界の最大手の会社ですから、国富、国の豊かさに貢献する仕事をするような会社になってほしいと思っています」

岩崎さんは、農業の担い手が減っていることに強い危機感を持ち、農業を元気にすることは日本の課題のなかでもとくに大きなものだと考えている。
もちろん、それだけだと、大企業のホームページなどに書かれるきれいごとのようにも聞こえる。一方で、三井不動産ワールドファームにはしたたかな戦略もある。

岩崎さん「ワールドファームと三井不動産が提携する大きな理由は、当社のもつ資本力です」

資本力。当然、不動産業界最大の企業にはお金はあるだろうが、どうして資本力が大事なのか。

岩崎さん「ワールドファームのビジネスモデルは、約100ヘクタールを“1ユニット”としています。1ユニットには、100ヘクタールの農地に約40人の従業員、それに2つの工場が付属します。これを作るのには、1ユニットあたり数十億円の初期投資がかかるのです」

栃木県芳賀町にある三井不動産ワールドファームのキャベツ畑

ワールドファームの超・6次化産業モデル

ここで、ワールドファームのビジネスモデルについて解説が必要だろう。

ワールドファームは、キャベツやホウレンソウなどの農産物を生産するだけでなく、冷蔵・冷凍工場を持ち、カットなどの加工を行って、外食企業や中食企業に販売している。いわゆる6次産業化だが、それを高度にシステム化した形だ。茨城、鳥取、熊本など全国に圃場や工場がある。
もともと、加工された状態のキャベツやホウレンソウは、中食市場向けを中心に増加傾向にあるが、ワールドファームはこうした市場の変化をにらみ、20年以上前から加工済みの野菜に参入している。
もうひとつのポイントは、キャベツは露地もののなかでも比較的手間の少ない作物だということ。また、雨の日や畑での作業が少ない日に、普段は畑での作業に従事している従業員が工場での加工作業を行えることも大きい。
つまり、従業員の仕事をマルチタスクにすることで、人件費を大きく低減し、そして年間100日以上の休日を実現しているのである。

ワールドファームのホウレンソウ加工工場

事実、全国の進出地域で新しい雇用を生み出していて、ワールドファームのもとには多くの自治体から問い合わせが来ているらしい。

このような希少なビジネスモデルをワールドファームからじかに教わりながら、岩崎さんは三井不動産ワールドファームを経営している。
ちなみに、ワールドファーム代表の上野裕志(うえの・ひろし)さんとの出会いは、オフィスのリーシング(賃貸物件の営業)で訪ねたことだったそうだ。そのとき、上野さんの、農業の若い担い手を増やさなくてはいけないという志に強く魅せられてしまった。

話を戻すと、加工して販売する前提なので、畑での耕作開始と同時に、工場を建設する必要がある。
岩崎さん「すでに2021年4月に1つ目の工場は着工済みで、冷蔵工場は300坪(約990平方メートル)、冷凍の工場は冷蔵工場よりも大規模なものになります。食品安全の規格『JFS』を取得する見込みです。
農業の弱みは通年で商品を安定して供給できないことですが、ワールドファームの方式は、加工済みの野菜を通年で安定供給することで、外食や中食産業の期待に応えるというものです。ただ、そのためには商品を保管するスペースが大事で、おのずと初期投資が必要になります」

都心100キロ圏内の交流をつくる

たしかに、合計1300坪の工場は、小さなJAや農業生産法人が簡単に投資できる金額ではないだろう。
三井不動産ワールドファームの計画は、将来的に30ユニット、つまり3000ヘクタールの農地と数百億円の初期費用を投じるという壮大なものだ。いや、壮大という言葉ではちょっと足りないかもしれない。ちなみに、同じく農産物の生産加工を行うイオンアグリ創造の直営農場は約350ヘクタールである。

しかし、不動産会社が農業参入する理由が資本力、つまりお金を持っているということだけだとちょっと不足感は否めない。本当にそれだけなのだろうか?

岩崎さん「三井不動産には長年培ってきた街づくりのノウハウがあります。たとえば、行政とのやり取り。行政との折衝は、不動産デベロッパーが得意とするところです。
また、三井不動産本社としても、郊外の遊休地が手に入ったときに、商業施設や物流施設にするという選択肢だけでなく、農地として活用するという選択肢を持っていた方が、戦略に幅が出てきます。日本最大の不動産会社といいながら、触れてきた土地は都市部のごく一部にすぎなかった。三井不動産の知見をもっと広く生かすことが、日本の課題解決につながると考えています」
現在の三井不動産の主戦場は都心だが、コロナ禍で変化もあるということだろうか。

岩崎さん「そうですね。今後、コロナ禍でリモートワークが進んだこともあって、都心から100キロくらいの広域圏での人の交流が盛んになってくると考えています。実際、子育ての環境のために郊外を選ぶ人たちも多いです。人々の時間の使い方も、もっと自由になってくるでしょう。そうした時代に、郊外に住みながら仕事をするとか、都心に住みながらたまに郊外で農に携わるなど、多様なライフスタイルの選択肢を用意することがデベロッパーの戦略としても大事だと思っています」

とはいえ、都心での不動産ビジネスに比べれば低収益なのではないか。当然、社内では反対は多かったことだろう。

岩崎さん「それが、実はあまり反対はなかったんです。もちろん、社内の各方面には丁寧に説明してまわりました。でも、役員のみなさんも基本的には背中を押してくれました。三井不動産はそういう会社なんです。上場企業なので、いずれ親会社の社長も交代しますが、当社のビジョンが変わることはないと考えています。
役員会では、20年のスパンで事業を説明しました。農業がすぐに利益が出る業界ではないことは、よく理解しています。この業界に身を投じる覚悟はできています」

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取材後記

この記事を担当している私、菱沼勇介(株式会社エマリコくにたち・代表取締役)も、じつは三井不動産の出身である。(といっても、社内ベンチャーの岩崎さんと退職して起業した私では立場は異なるが。)

実をいうと、当社には多くの大企業、それも日本人なら誰でも名前を知っているような企業から、農業や野菜についての問い合わせが来る。みんなが農業に関心を持っている時代なのだと日々実感している。
そういう時代であるから、古巣である三井不動産が農業に参入すると聞いたときに、大きな驚きはなかった。しかし、同時に、ブームに乗っかっているだけなのではないかと不安にはなった。

そこで今回の取材に至ったわけだが、岩崎さんの実直で熱のこもった話しぶりだけでなく、その計画がかなり壮大であることに驚いた。目標とする「30ユニット」は、従業員数に換算すると約1200人になる計算だ。

この時代、多くの業種の大企業が農業に参入しているが、相性というものがある、と私は思っている。そして、その相性を決めるもっとも重要な要素は、「時間軸」ではないか。

企業には企業文化、あるいは社風というものがあって、社風によってその時々の判断がなされていくが、そこには企業ならではの時間に対する価値観が反映される。
「桃栗3年、柿8年」のことわざのように、どうしても農業の時間軸は長い。

その点、不動産デベロッパーという仕事は、土地を購入し、計画を立て、建築し、家賃収入などで投資を回収していくというフローがとてつもなく長い。建物は華やかに見えるが、同時に忍耐強さが必要とされる業界である。
この点が、私が不動産デベロッパーと農業の相性が、意外と悪くないんじゃないかと考えている理由である。

岩崎さんは、前職は証券会社にいたそうである。証券会社にいたままだったら、こんな社内ベンチャーは承認されなかっただろう、思いつきもしなかったかもしれない、と話していた。
証券会社はごくごく短期で収益を上げるビジネスモデルで、それが社風に染みついている。べつにそれが悪いということではないが、農業との相性はよくないだろう。
岩崎さんは、三井不動産の役員会で20年スパンの計画を示したということだが、不動産デベロッパーは20年スパンで物ごとを考えることには慣れているのである。

なお、大手不動産デベロッパーが農業と関わっている事例としては、他にも、三菱地所が米作りをベースとした交流を八ヶ岳山麓(山梨県北杜市)で行っていたり(このプロジェクトはかなり長いこと続いている)、野村不動産がJA世田谷目黒と提携して体験農園を運営していたりする。三井不動産は本稿で取り上げたプロジェクトとは別に、「シェア畑」などを運営するアグリメディア(東京都目黒区)に最近、出資している。

農業は地域に密着する必要がある。その土地の気候や文化とのつながりが深いからだ。
赤の他人、まして都心の上場企業が地域に入ってくることに私たちは抵抗感を持つ。それはあながち根拠のない感情ではない。
しかし、一方で、ローカルに着目しているがゆえに、大きな投資をして一気に事業を広げるというダイナミックさを忘れてしまっているような気もする。

そもそも、業界に新しい投資が入ってくることは歓迎すべきことである。そして、農業界への投資はこれからも増えそうな予感である。
それを生かすも殺すも、私たち農業界に先にいる者たち次第なのかもしれない。

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