売り上げ前年比3倍超! こだわりの梅干しが売れまくるワケ
公開日:2021年07月13日
最終更新日:
全国の農家を渡り歩いているフリーランス農家のコバマツです。今回は和歌山県日高郡みなべ町に「梅干し界の坂本龍馬になる」と志を掲げている梅干し屋がいると聞いてやってきました。
なんと、まだ創業2年にもかかわらず、3000万円の売り上げをたたきだしているとか。
ゼロからの起業で、なぜそこまで売れる商品を開発することができたのか?
その秘訣(ひけつ)は消費者のニーズから考える商品作り、という地道でシンプルなものでした。
目指すは梅干し界の坂本龍馬「梅ボーイズ」
今回訪れたのは和歌山県みなべ町。
6月の和歌山はあちこちの農場で梅の収穫の人手が不足しているという情報を得てやってきました。
和歌山県は梅の生産量日本一。梅干し好きのコバマツにとって、梅の収穫はウキウキしちゃいます。
熟してきている梅達。ほんのり赤くてかわいい
早速コバマツも畑に入り、収穫のお手伝いを始めたいと思います!
木になっている梅を取るコバマツ
??
え?
コバマツ
木になっている梅を収穫するのは青梅の収穫方法です! うちでは、木から自然に落下した完熟梅のみを収穫するんです。
??
落下した完熟梅達。梅の畑には落下した梅を受け止めるためのネットが敷き詰められています
コバマツ
梅って木になっているものを収穫するんだと思っていました!
もちろん、青梅も流通していますが、うちの梅干し屋は完熟梅でしか梅干しを漬けないんです。完熟梅は皮が柔らかく、香りも良く、栄養価も高くて梅干しを作るのに最適なんです。
??
落下してきた完熟梅。フルーティーでモモのような香りがします
コバマツ
梅干しは、皮が柔らかい完熟梅で作ることがおいしくできる秘訣なんですね!
気を取り直して、落下している梅を拾っていきますね!
というか、さっきからアドバイスをくれているあなたは一体……!?
山本さん
コバマツ
■山本将志郎(やまもと・しょうしろう)さんプロフィール
|
梅ボーイズリーダー。1993年生まれ、和歌山県みなべ町出身。北海道大学薬学部卒業。
実家は明治37(1904)年創業の梅農家(現在は兄の秀平さんが5代目農園長)。2017年から完熟梅を使用しシソと塩のみのシンプルな味付けにこだわった梅干しの研究を開始し、2018年6月に「梅干しを次世代に残す」を理念に掲げた梅ボーイズとして梅干し屋を始める。創業2年目には前年比売り上げ3倍超えをたたき出す。梅干し界の坂本龍馬になるべく、日々奮闘中。
|
コバマツ
いえいえ、梅ボーイズは梅干し界を盛り上げるべく、僕が北海道大学薬学部在学中に結成したチームです!
1、添加物は一切使わずに、完熟梅と塩とシソだけで梅干しを作ること
2、梅そのもののおいしさを伝えることで、本来の梅干しを後世に残すこと
を目標に事業を行っています。
山本さん
コバマツ
北大の薬学部から梅干し屋って異色過ぎるのですが、どうして梅干し屋になろうと思ったんですか?
僕が大学時代に2つ上の兄が実家の梅農家を継いだんですが、ある日、兄が「梅を栽培した後は梅干しの製造会社に出荷され、どの梅も均一の甘い調味液で均一な味の梅干しになる。正直栽培にやりがいを感じない」と話していたんです。それで、梅農家がやりがいを持って栽培できるようなことをできないかと考えるようになりました。
山本さん
コバマツ
スーパーでよく売っている梅干しってハチミツ漬けとか、甘い味付けのものが多いですよね! コバマツもしょっぱい、酸っぱい梅干しが好きなので家で漬けたものを食べています。
僕ら兄弟が子供の頃から食べていた塩だけで漬けた梅干しは、梅本来の味がして甘くないんです。そんな梅干しがどんどん減ってきているという実感があり、「だったら僕が兄の納得のいく梅干しを作ろう」と思い、2017年から梅干し作りの研究を始めました。最初はみなべ町の梅干し屋さんに電話をして、梅干し作りを教えてもらえるようにお願いをしました。
山本さん
コバマツ
地元の梅干し屋さんの協力も得て、梅農家の梅本来の味がわかる梅干し作りを始めたんですね!
山本さん
完熟して落下した南高梅のみを使用
山本さん
シソは徳島県から取り寄せたもの、塩は和歌山県産の天然塩と、シンプルな素材だからこそ質にもこだわっている
こちらが出来上がった梅干し。見るからに酸っぱくておいしそう
詳しい作り方はコチラの動画で。山本さんと妹のみうさんが梅干しの作り方を解説しています。
妹のみうさんと一緒に編集している梅農家の動画。梅料理の仕方や、梅畑の様子などを配信している
コバマツさんも、ぜひうちの梅干しを食べてみてください!
山本さん
コバマツ
わーい! 酸っぱい梅干し大好きです! いただきます!
見るからに酸っぱそう
いただきます!
く~酸っぱい!けどうめぇ!
コバマツ
梅干し自体、皮が柔らかくて味も酸っぱいけどまろやか! いい塩を使っているのを感じられます!
梅干し作りは山本さんのお母さんとパートさん達が担当
生産者の顔が見える梅干しを
一般的な梅干しの味が均一化されていることだけではなく、梅の流通にも課題を感じました。梅農家の梅は、品質に関係なく良い梅も良くない梅も問屋に買い取られます。
これも、梅農家がやりがいを感じられない要因となっていると考えています。
山本さん
コバマツ
出来が良い梅も良くない梅も同じ値段だったら、栽培技術を向上させよう!とか、いい梅を作ろう!という意欲が湧かないですよね……。そこは評価してもらいたい!
誰に食べてもらうか、生産者にとっては消費者の見える販売方法を、消費者にとっては作り手が分かる販売方法を実現できないかと考え、2018年から梅干しの販売を始めました。
山本さん
販売用の梅干しを手にする山本さん
売れる商品作りとは
軽トラで梅干しの行商をしながら全国一周?!
コバマツ
今でこそ大人気の梅ボーイズに梅干しですが、最初の販売はどうやって始めたのでしょうか?
大学院生だった2018年、当時はまだ札幌にいたので、和歌山と行き来しながら梅干しを作って札幌の小さなマルシェに出店することから始めました。でも全然売れなくて……。1日に売れて5パックほどということが続きました。
山本さん
コバマツ
最初は売れなかったんですね……。それからどのような行動に踏み出したのでしょうか?
ピンクの軽トラで、梅干しを売り歩くために日本一周をしました!
山本さん
クラウドファンディングで日本一周の資金調達を開始
見事資金調達に成功。日本中一緒に巡ったピンクの軽トラと山本さん
香川県での梅干し販売
高知でも梅干し販売。坂本龍馬像と記念撮影。山本さんは梅干し界の坂本龍馬を目指している
新潟で開催された梅干しのイベントの様子
コバマツ
いきなり!? すごい行動力! 販路開拓や、宣伝のために北海道を飛び出したんですね!
いえ、あまり深くは考えていなくて……。ピンクの軽トラで梅干しを売り歩いたら面白いかなと思って。
山本さん
コバマツ
うん! もう面白すぎ!
日本一周してだいぶ販路開拓や宣伝につながったんじゃないですか?
北海道で販売したときよりは良かったですが、でも全然売れなくて……。
山本さん
コバマツ
目の前のお客さんと向き合うことで見えてきた、梅干しのニーズ
コバマツ
何がきっかけで売れるようになっていったのでしょうか?
なぜ売れないのか、ではなくなぜ売れるのか
リピーターを増やすにはどうすれば良いか
に視点を切り替えました。
当時の僕は、多くの人に多くの梅干しを売ることを目標にしていましたが、北海道のマルシェの時も、日本一周したときも、少数ですが、購入してくれるお客さんはいたんです。購入してくれる人たちが何を魅力と感じて梅ボーイズの梅干しを買ってくれるのかを考えるようになってから、徐々に売り上げが伸び始めました。
山本さん
コバマツ
もっと多くの人に売るためにと考えがちなところを、目の前のお客さんを大切にすることに焦点を絞ったんですね! お客さんは、どんなニーズがあって梅ボーイズの梅干しを購入していたんでしょうか?
僕が作っているのは、昔懐かしの日常的に食卓に上がる酸っぱい梅干し。スーパーでは売られていないこの味を求めてお客さんは僕の梅干しを買ってくれます。
これを「日本一おいしい梅干しを作ろう!」などと、高級な塩を使ったり、今までとは違う製法を取り入れて作った梅干しではだめで。
お客さんのニーズを無視して勝手な推測で商品作りをしては、売れる商品を生み出すことは難しいと思います。
山本さん
コバマツ
お客さんのニーズに耳を傾け続けることが売れる商品作りになり、また買いたいとリピーターにつながっていくんですね!
売れるデザインの作り方
コバマツ
商品と同じくらいデザインも大切だと思うのですが、梅ボーイズのパッケージデザインには何かこだわりはあるのでしょうか?
シンプルなデザインにして、無添加の梅干しと分かるようにしていることと、梅ボーイズのブランド名を入れていることですね!
山本さん
梅ボーイズのロゴマーク(梅の花)とブランド名が入ったパッケージデザイン
コバマツ
シンプルなデザインから、確かに無添加で体に良さそうな商品であることが連想されますね! しかし、ブランド名は一般的な商品にも書いてあるのでは?
梅干しの試食販売をやっていく中で、お客さんに「普段どこの梅干しを買っていますか」と聞いたところ、ほとんどの人が会社名やブランド名を覚えていないんです。
山本さん
コバマツ
私も、普段買う梅干しはデザインやなんとなくのパッケージは覚えているけど、商品名言えない……。
そこをきちんと覚えて選んでもらえるように、ロゴマークやブランド名を入れています!
山本さん
コバマツ
他の商品との違いが分かるデザイン、梅干しを買うなら梅ボーイズの!と選んでもらえるデザインが大切なんですね!
売り上げ前年比3倍につながった販路拡大の方法
コバマツ
売れる商品作り、の方法は分かったのですが、商品はどのように売れていったのでしょうか?
現在は、自社サイト、直販サイトのポケットマルシェ、小売店さん、問屋さん、百貨店さんなどとの取引があります。
最初は、全国さまざまな催事やイベントに出店していたのですが、梅干しを取り扱ってくれている小売店さんがいる札幌に地域を絞りました。
小売店さんと仲良くなり、お客さんの声を吸い上げて、それを商品作りに反映させていきました。そうすると、ますます商品が売れるようになり、小売店さんが更に小売店さんを紹介していってくれたりとどんどん売り先が広がっていきました。
山本さん
コバマツ
売る場所も、取扱店やお客さんが多い札幌に絞っていったんですね!
ちなみに、現在っておおよそ売り上げいくらとか聞いちゃっても大丈夫ですか?
初年度の売り上げが950万円、現在2期目を終えましたが売り上げは3000万円になりました。
山本さん
コバマツ
前年比売り上げが3倍以上……。全く売れなかった時期がうそのようですね。
急激に売り上げが上がり、製造が追いつかないときはどうしているんですか?
確かに、最近はECサイトの売り上げも伸びてきて売り切れのときもあります。ですが、そんなときも、伸び悩んでいた時期に取り扱ってくれていた販売店さんには必ず、安定的に商品を供給できるようにしています。
山本さん
コバマツ
そこも、新規ではなく長い取引がある販売店さんを大切にしていくんですね!
売れる6次化商品の作り方
コバマツ
なかなか売れないところから大人気の梅干し屋になった山本さんから、これから6次産業化商品を作ろうとしてる人に向けてアドバイスをお願いしたいです!
まずは商品を作らないことをオススメします。
商品を作る前にSNSなどで知り合いや友人に「こんな商品を作ろうと思っているんだけど買ってくれるか」というリサーチを始めることをオススメします。
その中で、何人か購入すると手を上げてくれた人たちに、どうして購入しようと思ったか、ニーズの調査を行ってみてください。
山本さん
コバマツ
商品を作る前に、そもそもニーズはあるのか、あるとしたらどんなニーズがあるのかを絞り込んでから商品作りをした方が良いということですね!
最近梅ボーイズで商品開発した梅農家の梅の違いがわかる梅干しセット「うめくらべ」の販売を開始しました。
山本さん
6農家の梅を使用して作った食べ比べセット
それぞれの生産農家のラベルが貼られている
これは、みなべ町の6農家から直接梅を仕入れて作った梅干しで、それぞれの味の違いを楽しんでもらえるものになっています。
農家ごとの梅の味の違いや、こだわりを消費者に届けることで、梅農家にとって生産意欲の向上につながればと思い開発しました。
山本さん
コバマツ
梅干し屋になろうと思った当初の「梅農家にやりがいを持ってほしい」という思いを形にしたわけですね!
でも、商品を開発する際も、僕の思いだけではだめで。商品を作る前にインスタで、農家ごとの梅の違いが分かる梅干しセットがあったら購入するかどうか、先行販売とヒアリングを行いました。
ヒアリングでは興味を持ってくれた人に「なぜ購入しようと思ったか」「どんな商品だったらより魅力的か」を聞き、それから本格的な商品作りを行いました。
山本さん
コバマツ
確かに、商品開発する際って、作り手の思いが先行しがちですよね。
「廃棄野菜が多く出るから加工品にして販売しよう」とか、「うちの○○はおいしいからジュースにしたら絶対売れる」とか……。
あー、なんか、そーいう人いっぱい見てきた気がする……。
ぼんやりとした商品を作ってしまうと、せっかく時間とお金をかけたのに、売れない商品ができてしまいます。
僕は梅干し屋を専業でできたので、商品を作ってからでもなんとか軌道に乗せることができましたが、農作業もしている生産者の方は限られた時間の中で商品作りをしなければならないので、ニーズ調査は売れる商品作りを行う上でとても大切なことだと思います。
山本さん
今や売れっ子の梅ボーイズの梅干しですが、当初は全然売れず行き詰まっていたことを知り、正直驚きました。
商品を6次化する際、ついつい作り手の思いが先行しがちですが、売れる商品作りを行うためにはお客さんのニーズに耳を傾けること。
目の前の人を大切にすること。
目の前のお客さんにどのようにしたら喜んでもらえるかを徹底するという、いたってシンプルなものでした。
多くの人に知ってもらうための広報活動をするよりも、今自分の商品を必要としてくれているお客さんにもっと喜んでもらうためにはどうすればよいか。リピーターになってもらうにはどうすればよいか。
ニーズありきの商品作りが、売れる商品作りにとって必要不可欠なものであると感じました。