農業、ぶっちゃけいつまで続けたい? 現役農家4人の本音座談会
平均寿命が延び、これからは人生100年時代と言われるようになりました。そんな中、早稲田大学から、農家男性の平均寿命は平均より8年長く、医療費は3割低いという研究結果が発表されました。つまり、農業は長く現役を続けられる職業だとも言えます。単に長生きするのではなく健康寿命の大事さも叫ばれる昨今、これからはそういった点で農業が注目されてくると思います。2020年時点の農家の平均年齢は67.8歳。現役農家自身はどう考えているのでしょうか? さまざまな立場の4人の農家が集まり、本音を語り合いました。
人生100年時代、農のあり方を考える
農業は最も歴史ある仕事のひとつですが、ここ100年であり方が大きく変わりました。それまでは家族経営が当たり前でしたが、機械化、化学肥料、農薬の開発により大規模化が可能になってきました。それにともない法人化も進んでいます。販売方法も多様化していますし、6次産業化を取り入れているところもあります。ひと言で農業といってもやり方は千差万別。そこで年齢、規模、経営方法、立場がそれぞれ違う農家仲間と人生100年時代における農のあり方についてオンライン座談会をしました。現場のリアルな声をお届けします。
参加者プロフィール
西田(筆者)
本日はありがとうございます。まずはそれぞれの年齢と農家歴、農業のスタイルを教えてください。
林農産代表、林浩陽(はやし・こうよう)です。現在61歳、地元石川で農家になって38年です。金沢美術工芸大学を卒業して、本田技研にデザイナーとして就職したんですが親に懇願されて半年で退社し、実家の農業を手伝うことになりました。現在、水稲44.5ヘクタールに大豆3ヘクタール、冬は餅加工しています。社員は12人。今はチャンネル登録者2万人のYouTuber、いわゆる農Tuberとして毎日のように動画を配信しています。
林さん
土磨自然農園代表、横島龍磨(よこしま・たつま)です。現在52歳です。20年ほど外食産業に従事していましたが、食に深く関わるほど、日本の農業の現状に危機感を抱くようになりました。そんなことから2005年から準備し、2008年に愛知県春日井市で独立就農しました。
2018年には就農時から考えていた、自然食品店と飲食ができるお店を名古屋市の中心部で開業しました。そこでは農家仲間の野菜も販売しています。その他、飲食店向けをメインで野菜の卸も。従業員は7人いますが、畑作業は基本ひとりでやっています。
横島さん
石川県能美市のたけもと農場代表、竹本彰吾(たけもと・しょうご)です。現在38歳、代々続く米農家で私で10代目。たけもと農場に入社して15年、会社を継いで5年になります。50ヘクタールで米、大麦、大豆を栽培、イタリア米、スペイン米といった国産では珍しい米も育てています。従業員は全部で7人。今、「青いTシャツ24時」というポッドキャスト番組も配信しています。
竹本さん
西田
ちなみに私、西田栄喜(にした・えいき)は現在52歳、耕地面積30アール、石川県で野菜の少量多品種栽培をしています。野菜セット、そして漬物、ピクルスなど加工品を自社サイト、産直EC、お店に取りに来てくれる方を中心に販売しています。基本家族経営ですが、現在週4回ほどそれぞれ3時間ずつパートさんに入ってもらってます。起農して22年になりました。
何歳まで農家続けますか?
西田
さて、それでは本日の主題ですが、みなさんは何歳まで農家を続けたいですか?
死ぬまでやね。関わり方はいろいろ変わっていくと思うけど。会社だと定年があるけど、農業という仕事自体が生き方そのもの。年をとってもできるし、どのようにもやれることが農業の良さだと思ってる。
林さん
林農産ホームページ。明るい雰囲気でファンが多いの分かります
死ぬまでやるかな。やめる気はないし、そういう気ならそもそもやっていない。料理を作る側から素材を作る仕事になって強く思うのは、農は国の根幹だということ。もっと大切なものと認めさせたい。ずっと今のようにゴリゴリ畑に出るかは分からないし、スタイルは変わるかもしれないが、離れることはないです。
横島さん
生涯やっていきたい。父の姿を見てそう思います。経営をバトンタッチしても常に田んぼに出てきてて、でもそれだけでなく町会長や農業委員会の委員長など外の仕事もしてイキイキしてる。関わりは持ちつつ、経営の邪魔はせず、頼らせない。そんなおやじのようになりたい。
竹本さん
西田
誰も早期リタイアを言わないというのがすごいというか、そういった人選をしたからなのか、ホント皆さん前向きですね。農家の高齢化をネガティブにとらえる人は多いけど、現場にいるとイヤイヤやっているというより「好きでやってるんだろうな~」と思う人も多いですよね。
お三方に即答で「死ぬまでやりたい」と言わしめた農業の魅力を知ることが、日本農業の未来を明るくするためのヒントになると思います。農業を続けていくコツや新規就農のあり方、日本の農業については、次回の座談会で深掘りして語れればと思います。
農業を続ける意味
西田
農業を長く続けることのメリットは何だと思いますか?
自分の場合、38年続けてこられたのは農家として生きやすかったから。嫌ならやめてる。始める時に、農家は物を生み出すという点で、デザイナーと同じだと納得した。今、美大の同級生からここにきてうらやましがられてる。彼らがデザインした車や家電も今となっては廃車やスクラップ、つまりゴミになっている。ところが農産物は生命を維持するために毎年作られていて、創造性がとても高い。この先も残っていくもの。続けたことで、そう実感できるようになった。
林さん
長く続けないと伝えられないことは多いですよね。毎年異常気象が続き、どんどん生産技術の難度が上がっている。それでも毎年、経験を積み重ねていけている。続けていかない限り臨機応変な対応もできない。たまった知恵を次世代に継承していきたい。
横島さん
土磨自然農園ホームページ。食や農に興味ある人が寄ってきてます
地域では年をとればとるほど意見が通りやすくなります。まだまだ「何を言うか」より「誰が言うか」が強い。経営はバトンタッチしたけど、地元での発言力はおやじの方が大きい。続けていくことで信用性が増していくのが良さかな。
竹本さん
生涯現役でいるために
西田
「長く続けてこその農業」という共通意見が先に出ましたが、なりわいを続けていくには事業承継も必要ですし、また承継したあとのあり方も問われると思います。そんな事業承継やリタイア後に挑戦してみたいことについて教えてください。
今、日本では事業承継が難しく廃業している中小企業が増えている影響で、時限立法で資本金などは無税で移譲できるようになっている。その法律では役員になって3年経っていないと対象にならないため、息子を2年前に役員にした。実際に移譲するのはあと4~5年後かな。
「食育は日本農業を救う」と本気で信じているので、今はコロナでなかなかできないけど、幼稚園、小学校での食育教室をたくさんやっていきたい。また農Tuberとして若い世代を中心にどんどん農の良さを広げていきたい。
林さん
コロナになってから、特に女性から「農業で食べていけるのか」という問い合わせが増えています。そんな就農希望者に向けた教育の場を持ちたい。また高齢者の施設が今あちこちにできているので、その敷地内に畑を作ろうと働きかけています。その場が交流の場になれば生き甲斐になる。農が彼らの生活の一部になってほしい。
横島さん
祖父が急逝したことでおやじが大変苦労したようで、私が会社に入ってから「10年後に事業承継する」と最初から言われてました。私がイタリア米などの栽培を始めた時も「あまり目立つことはするな」と言われたりしましたが、実際やるとなると応援してくれて、そういった意味では恵まれていると思います。子どもがまだ9歳なので、自分が承継するのは先の話ですがスムーズにしたいし、またそういった農家の事業承継を情報発信で手助けするメディアをつくりたい。
竹本さん
たけもと農場ホームページ。24歳の新入社員が更新するインスタグラムも人気
編集後記
農業のあり方もですが、それぞれの経験値がとても面白く、大変盛り上がりました。共通していたのは生涯現役でいたいということ。以前なら事業承継したあとは田畑のお手伝いということが多かったのですが、今は動画やポッドキャストなどの配信を通してベテランだからこそ熟知している農の魅力を伝えることもでき、老後のあり方もどんどん変わっていっている過程にあると実感しました。年をとるのが楽しくなる。そのヒントが農にあるとあらためて思いました。
林農産
たけもと農場
土磨自然農園