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野菜はなぜ病気になるのか? 病気の発生と対処法をわかりやすく解説【後編】

連載企画:農業×科学

野菜はなぜ病気になるのか? 病気の発生と対処法をわかりやすく解説【後編】

植物はなぜ病気になるのか。それは、植物に感染性のある一部の微生物が植物の体内に侵入して悪さをするからである。感染性のある微生物は、水、風、昆虫などによって媒介されるが、植物が病気になる要因はそれだけではない。そこで今回は、植物ウイルスを専門とする宮城大学食産業学群教授で食資源開発学類長の中村茂雄(なかむら・しげお)さんに、植物の病気が発生するさまざまな要因と、防除の考え方について話を聞いた。

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■中村茂雄さんプロフィール

農学博士。専門分野は植物ウイルス、昆虫病原菌。1987年、東北大学大学院農学研究科博士課程前期修了。宮城県農業・園芸総合研究所などの勤務を経て、2014年より宮城大学食産業学群教授。研究内容は、昆虫を食材として安定供給する方法、農業生態系における有用微生物の探索と利用、環境にやさしい病害虫防除技術など。
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病気の3要因を小さくすることが最大の予防

植物が病気になる要因は、カビ、細菌、ウイルスといった病原体だけではなく、他にもさまざまなものがある。病気の発生要因を「主因」「素因」「誘因」と3つの局面に分けて考えると、防除の計画が立てやすくなる

主因
病原体や害虫のこと。植物の病気は、植物の体内で病原体の密度が高まる(数が増える)ことで発生する。文字通り主たる要因であり、そもそも病原体が存在しなければ植物が病気になることはない

素因
植物が病気にかかりやすい状態・性質のこと。植物の持つ耐病性、抵抗性、免疫性が強ければ、病原体の密度が高まっても病気になりにくい。日当たりや湿度といった栽培環境の悪化、土壌中の養分や水の過不足など、適切ではない環境や管理によって植物が弱った状態は抵抗力を落とす一因となる。

誘因
病気が発生しやすい環境条件のこと。温度、湿度、日照、風通し、土壌の状態などは、病原菌(カビ、細菌)の繁殖を左右する。一般的に、病原菌は湿度が高く、日当たりと風通しの悪い環境条件で増えて、植物に感染しやすくなる。

病気発生の3要因

上のイラストのように、植物の病気には3つの要因があり、それぞれが大きくなって重なり合うことで発生し、被害が拡大する。

例えばいもち病で考えてみると、まずいもち病に弱いイネの品種があり(素因)、いもち病菌(主因)が高密度に繁殖し、雨が降り続いて湿度の高い環境(誘因)になるという3つの条件がそろうことで、イネいもち病が発生する。

逆に言えば、植物の病気はこれら3要因をできるだけ小さくすることが第一の防除になるということだ。

中村さんは言う。「病原菌がいなければそもそも病気にはなりません。極端な話ですが、クリーンルームのような植物工場では病原体が入らないように管理されているわけですから、病気が発生しないのです。しかし露地やビニールハウスなど、一般の栽培環境でこれら3要因をゼロにすることは難しいと言えます。それぞれを限りなく小さくすることで病気を防いでいくことが重要です」

コントロールしやすい要因と難しい要因

3要因を小さくする方法はさまざまだが、最も対策を立てやすいのが、耐病性のある品種を選ぶということだ。

種苗会社は自社ホームページなどで、それぞれの品種がどの病気の耐病性を持っているかの情報を公開している。地域に出やすい病気、また自分の圃場(ほじょう)で過去に出たことのある病気などを把握した上で、その病気に耐性のある品種を選ぶといいだろう。加えて、種苗会社の販売する種や苗は病原体が入り込まないようにきちんと管理されているという点でも安心できる。

一方でコントロールしにくいのが天候だ。天候そのものを人為的に管理することはできない。対策として、例えば病原菌の繁殖しやすい時期を避けて定植するとか、土壌中の病原菌が雨の泥はねにより植物に付着しないようマルチを張るとかいった管理ならば可能だ。そのようにして、コントロールできない天候の影響を最小限に抑えることで、誘因(環境条件)を小さくすることができる。

天敵が生きられる環境を残す

自然界では、微生物や虫・動物などの間の食べる・食べられる関係が成立しており、天敵の存在が一部微生物の大量発生という事態を起こりにくくしている。
こうした生態系のバランスが崩れると特定の病原体が一気に増える可能性がある。そのため、圃場のまわりにあえて草を生やすなどして生態系を作り、特定の病原体が異常繁殖するのを防ごうという管理方法がある。
これはIPM(Integrated Pest Management=総合的病害虫・雑草管理)と言う手法の一つで、宮城県ではイチゴのIPMでマニュアルが作られるなど、一部で研究が進められている。

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アスパラガス茎枯病

病気にかかった時の対処法

それでは、病気にかかってしまったらどう対処したらいいだろうか。
もちろん農薬の散布が第1選択となるだろうが、消毒の前に取り組んでおきたいことがある。

日ごろからよく観察し、早めに対処する

病気になったら、とにかく早めに対処することが重要だ。早めに対処できれば他の株に被害が広がるのを防げるし、農薬を散布する範囲も狭くなる。

植物の病気を早く発見するためには「日ごろからよく観察しておくこと」と中村さんは言う。「植物の状態で何がおかしいか、何が正常かは毎日の観察がなければわかりません。植物に伝染する微生物は、増え始めると広がるのが速いので、抑え込むのが大変です。様子がおかしいと感じたときにはすぐ対処できるように、日ごろから植物の変化を見逃さないようにしてください」

生理病(生理障害)との違いを見極める

植物の病気には感染性ではないものもある。栄養の過不足などが原因となった生理障害だ。
生理障害は感染性ではないため、病原体由来の病気とは対応がまったく異なる。生理障害になった植物にカビの防除をしても効果はないし、逆に、病原菌に感染した植物にカルシウム欠乏を疑って追肥をしても病気は止められない。

生理障害か感染性の病気かは、圃場にどの程度の範囲で症状が出ているかを見ることで、ある程度見分けられる。生理障害の場合、その作物で同じ管理をしていれば、圃場全体に一斉に同じ症状が表れる可能性が高い。特にF1品種はすべての個体が同じ遺伝子を持っているので、反応の仕方も同じになる。

一方の感染性の病気の場合、圃場内の病原体の密度には濃淡があるため、一斉に同じ症状が確認される事態は考えにくい。
まずは圃場全体で同じ症状が表れたら生理障害、圃場の一部分に表れたら感染性の病気かもしれないという推測ができる。

病気の症状を見極める目を養っておく

植物の病気は、自分で判断できるようにしておくことも大切だ。病気になったら早期発見し、即座に対応できなければならない。

病気の種類や症状の表れ方はさまざまだが、すべての病気について覚えておく必要はない。特定の作物・品種しか作っていなければ、発生する病気の種類も限られてくる。参考書や種苗会社のホームページなどに掲載された写真を見て確認し、わからなければ地域の農家や普及指導員などに聞けばわかることが多い。

ただし、その地域ではあまり作られていない珍しい作物だと、栽培方法のわかる人がいないため、対処が難しくなるだろう。

カビの病気と細菌の病気は、症状を見ればある程度は判断ができる。だが、ウイルスの病気は判断が難しい。植物ウイルスの研究をしてきた中村さんでも「見た目の症状だけでは難しい」という。ウイルスの特定には電子顕微鏡観察やウイルス特異抗体を用いた検査、遺伝子検査が必要になるため、専用の設備がある機関に相談しよう。

困ったときは専門家に相談する

うどんこ病など、症状がわかりやすくて発生頻度の高い病気は見た目でおおよその判断はできるが、中には症状だけではわかりにくい病気もある。例えば、カビには種類の下にさらにレース(Race)という細かな系統に分かれて異なる症状が出るものもあり、判断は難しい。

病気の判断を間違えて的外れな防除をしていると、病気が広がってしまうので、症状を見て迷ったときは早めに専門家に相談しよう。

生産者が利用しやすい機関としては次の2つがある。
・普及指導センター(地域農業改良普及センター)
・病害虫防除所

いずれも都道府県ごとに設置されている機関であり、一般の生産者でも相談できる。普及指導センターは、都道府県によって呼び名が異なる場合があるので、自分の地域ではどこの部署が担当になっているのかを確認しておこう。

キュウリ炭疽病

野菜がかかりやすい病気の種類

病原体が原因の植物の病気について、具体例で見てみよう。
農家にとってはどれもすでによく知られている病気かもしれないが、病気の発生原因からイメージできると、適切な防除の仕方もわかるようになるので、ここで復習しておこう。

べと病

キュウリ、カボチャ、スイカ、メロンなどのウリ科の野菜や、キャベツ、ハクサイ、ダイコン、カブ、コマツナなどのアブラナ科の野菜に発生しやすい。病原体はカビ。
葉の表には黄色い斑紋ができ、葉の裏にはカビが発生する。症状が進むと、下葉から枯れてくる。
病原菌は水分の多い環境で繁殖し、梅雨時期や秋の長雨時期などに病気を起こしやすい。発病した葉や落ち葉は早めに取り除いて処分する。
日当たりや風通しをよくしたり、畝を高くして水はけをよくしたりして予防する。肥料の過不足により株が衰弱したときも発生しやすくなる。

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萎凋(いちょう)病・半身萎凋病

萎凋病はホウレンソウ、ダイコン、トマト、ネギなど、半身萎凋病はキュウリ、ナス、キクなどに発生しやすい。病原体はカビ。土の中にいる病原菌が根から侵入し、水の通る導管で増殖することで、植物の水分の吸い上げを悪くする。葉がしおれて変色し、やがて株全体が枯死する。
萎凋病は夏の高温時、半身萎凋病はやや気温の低い5月ごろから発生する。
どちらの病気も発生すると治療が困難なので、発病した株は抜き取って適切に処分し、発生した土は消毒するか、処分する。
病原菌は何年も土の中で生き残るため、病気の発生しやすい作物を植えないことや、抵抗性のある品種や接ぎ木苗などで予防する。

栽培する作物がどのような病気にかかりやすいのかを把握し、それぞれの病原体に合った防除の計画を立てよう。
病原菌を消毒したり、抵抗性品種を選んだりするだけでは十分とは言えない。防除の基本は病気発生の3要因をすべて小さくすることが重要だ。「できる対策はすべてやること」と、中村さんは念を押した。

トマトすすかび病

前後編まとめ

・植物の病気は感染性のもの(病原体が原因)と非感染性のもの(生理障害)に大別
・病原体にはカビ、細菌、ウイルスなどがあり、植物の病気の8割近くはカビが原因
・3要因(主因、素因、誘因)を小さくすることが病気の予防になる
・病気になったら早期発見、早期対処が基本
・病気に早く気付けるように、日ごろからよく観察しておく
・参考書や種苗会社が提供する情報などで症状を確認する
・迷ったときは普及指導センターなどに相談

※ 本記事の内容は、中村さんのインタビューを基に、以下参考資料で情報を補填している。
・「図解でよくわかる 病害虫のきほん」有江力監修(誠文堂新光社・2016年)
・「植物の病気と害虫 防ぎ方・なおし方」草間祐輔(主婦の友社・2010年)
・「写真ですぐわかる 安心・安全 植物の病害虫 症状と防ぎ方」髙橋孝文監修(西東社・2014年)

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