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売り上げ、利益が2割増 通年で観光農園を開く理由とは

窪田 新之助

ライター:

売り上げ、利益が2割増 通年で観光農園を開く理由とは

福岡県みやこ町の松木果樹園は、観光農園として通年で収穫の体験ができるように品目を整えてきた。結果、園地に併設するレストランや直売所に足を運ぶ客も増えて、全体の売り上げと利益はともに2割上がった。その仕掛けをしてきた取締役の松木慎介(まつき・しんすけ)さん(39)に話を聞いた。

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4.5ヘクタールのまとまった果樹園

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松木さんとレストラン「フルーツ工房えふ」

松木果樹園が経営する果樹園の面積は4.5ヘクタール。印象的なのは園地が点在することなく、一塊になっていることだ。緩やかな傾斜地に植えてあるのはイチゴにブルーベリー、桃、ブドウ、梨、イチジク、かんきつ、栗などである。

果樹園を見下ろす、景観の良い高台にあるのはレストラン「フルーツ工房えふ」。自社で生産した果物を使ったカレーやパスタ、ケーキなどを提供する。収穫した果物と、それを材料にしたレトルトカレーやジャムなどを扱う直売所のほか、主に自社の果物を使ったソフトクリームの販売所も併設する。

来場者は年間13万人以上

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レストラン「フルーツ工房えふ」の店内

「えらい山の中でしょ」。松木さんは屈託なくこう語った。現社長の実(みのる)さん(66)の長男である。
松木さんが言う通り、松木果樹園は確かに市街地から離れた山中にある。ただ、取材に訪れた月曜日は午前10時だというのに、来客ですでににぎやかだった。
「これでも少ないほうです。コロナ前はもっと多かったですね」。2020年度の来場者数はレジで会計した人数だけでも13万人以上。買い物をしない客も大勢いるので、実際の来場者はもう少し多いという。

来場者が絶えないのは、「開かれた園地」だからでもある。「うちの果樹園は無料で誰もが好きな時に入れるようになっています。花見の時期には園内に腰かけて、弁当を食べにくるだけの人もいますね」(松木さん)

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収穫体験の場所までは車で連れていく

肝心の収穫体験について触れていきたい。イチゴとブルーベリーについては時間制限ありの食べ放題になっている。イチゴの料金については季節に応じて40分で1600円から1800円(税込み)と幅がある。

残りの果樹については客に自由に収穫してもらい、品種ごとの料金で量り売りする。園内では車が走れる道を舗装しているので、収穫する場所までは車で連れていく。それができるのも4.5ヘクタールという、なだらかでまとまった園地を持っている強みである。

収穫体験ができる期間が長いほど売上増

松木果樹園が観光に力を入れるようになったのは17年前、松木さんが福岡県農業大学校を卒業後に研修した山梨県の農業法人から戻ってからだ。その大きな理由の一つが周年での売り上げの安定化を図りたかったため。当時始めたばかりのレストランの売り上げは収穫体験の来場者数と密接にかかわっていることに気づいた。ただ、当時の品目では収穫体験ができる期間は7月から12月が限界だった。

上半期も収穫体験ができるようにしたい──。そんな思いから導入したのがイチゴのハウス栽培とブルーベリーの露地栽培である。収穫体験ができる期間は前者が1月から翌年5月末まで、後者が6月中旬から7月中旬まで。
松木さんはイチゴとブルーベリーを導入した利点についてこう語る。「若干途切れそうな時期はあるけれども、ほぼ通年で収穫体験を提供できるようになりました。売り上げも利益も全体で2割上がりましたね」

目下の課題はコロナ対策

目下の課題は大きく分けて2つある。まずは新型コロナウイルスへの対応だ。
「うちは観光農園が主体なので、観光客が減って打撃を受けました。昨年5月の連休中には、従業員から休業したいという要請を受けて、10日間ほど店を閉めました」と松木さん。

加えてアルコールは提供していないものの、時短営業は続けており、閉店時間を1時間早めているという。
「コロナに対してできることは感染対策しかないと思います。通常の飲食店が行っている感染対策はすべてやっています。収穫体験で園地まで車に客を乗せていく際には、1台につき1組だけにしていますね」

異常気象対策で品目の転換を実践中

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松木果樹園が経営する4.5ヘクタールの園地。異常気象への対策が課題だ

もう一つの課題は「異常気象」だ。
「ここ5年から10年ほどは異常気象ですね。毎年のように大型の台風が通過するようになり、強風で落下する桃や梨はリスクが高くなっている。とくに梨は単価が低くて手間がかかるので、さらに減らしたほうがいいと思っています」(松木さん)

梨の栽培面積は松木さんが農業を始めた17年前に2ヘクタールだったのを1ヘクタールにまで減らしてきた。代わりにイチゴを増やすことを検討している。実はイチゴの栽培面積は16アール。収穫体験でほとんどが摘み取られ、レストランや直売所で扱う分はごくわずか。「はっきり言ってまったく足りていないです。ただ、ハウスの資材費が上がっているし、面積を大きくすればもう1人雇わなければいけないので、思案中です」
「異常気象」が続くなら、一部の果樹は野菜に転換することも検討するという。

松木さんが何よりこだわるのは観光農園であり続けることだ。「果物を買ってもらう人には、ここに来てもらって話したり、味わったりしてもらいたい。景観も含めて我々の果樹園を楽しんでもらいたいという気持ちが強いですね」
そこには地域への思いも見え隠れする。「みやこ町って観光資源が乏しいんですよね。だからこそ、うちが観光資源の一角を担いたい。こうした場所がほかに1つでも2つでも出てくれば、みやこ町に遊びに行こうという人が増えてくるはず」

異常気象やコロナ禍に揺り動かされながらも、次なる営農のあり方を柔軟に力強く模索する松木さん。観光農園がどう変わっていくのか、しばらくしてからまた訪ねてみたい。

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