「何を、どう作るか」ではなく「どう売るか」
北国では冬は農閑期。昔からこの時期は、漬物や餅加工のシーズンでした。保存食の意味合いもあるでしょうが、冬場における農家の貴重な収入源だったと思います。6次産業化という言葉が生まれるずっと前から、こうした加工仕事は盛んに行われてきたのです。しかし次第に、効率がいいからと単作大規模化が進み、価格競争にさらされ、それだけではやっていけないと、6次産業化の姿へ。
そんな6次産業化も、最近では下火になってきているように思います。周りで米粉加工していた農家も、補助金の切れ目で事業終了し、撤退するケースが相次ぎました。
なぜか。米粉は小ロットだと加工賃が高くつきます。補助金を活用することで原価率を下げ、安く提供できていたものも、支援がなくなるとその分値上げを余儀なくされることに。結果、ビジネスとして採算が取れなくなってしまうというケースが多く見受けられます。
6次産業化というと「何を作るか」「どう作るか」に目がいきがちですが、最も大切なのは「どう売るか」です。我が菜園生活 風来(ふうらい)は元々、キムチのために白菜を育てることからスタートしました。当初から加工がメインで、補助金なしで今日まで続けてこれたのは、小さい農家が成功するためのコツを押さえていたからこそ。
そのコツとは、自分で売り切れる量を作ること。そして原価率を考えること。そして何より大切なのは、初期費用を抑えることです。
原価については「原材料は自分のところのB級品を使うから」と深く考えない人もいますが、実は作るものによっても大きく変わります。自家製の野菜を練り込んだクッキーやケーキなど洋風のものは確かに売りやすいのですが、小麦粉やバターなど他の材料費が高くつきます。ヨモギ餅や団子など和風のものは地味に見えますが、材料がほぼ米なので原材料にしめる自家製農産物の比率を多くすることができます。6次産業化の目的は加工することではなく利益をあげること。そこをシッカリ考えていくことが必要です。
今は受託加工、OEM(受託製造)をしてくれるところも多くなりました。加工したいと思ったらまずはその商品をOEMで作ってもらい、売れるかどうか試してみるのをオススメしています。加工場建築など初期投資をしてからだと引き返せません。また、委託することでプロのノウハウを学ぶこともできます。
そして自身で加工する場合、2021年6月から施行された改正食品衛生法により以前と比べハードルが高くなりました。実例として、これまでの漬物製造販売については届け出だけでよかったのですが、これからは漬物製造業の営業許可を申請しなければなりません。実際に私も申請したのですが、やらなければいけないことがいろいろあり大変でした。その顛末(てんまつ)については別の機会に詳しくお話しします。
ライバルはコンビニ 勝てるところで勝負する
加工品の難しさは、一度決めた味や値段をキープしなければならないところにあります。
例えば、トマトなどの農産物は時期によって味の違いが出てもよく、逆に旬の味としてセールスポイントになったりしますが、加工品の場合はそうもいきません。一定の味をキープすること自体も難しいのですが、一度決めた味は簡単に変更することができず、販売価格も値下げするのは簡単でも値上げするのがとても難しい。販売前に味や売り方などを深く考えないと、後悔することになります。
また、農産物の場合はライバルといえば他の農家、産地を想起するでしょうが、加工品の場合は違います。6次産業化は、加工した瞬間にライバルがコンビニになると私は思っています。
コンビニの食品と聞くと、以前は「高い」「添加物がたくさん使われていて体に悪い」というイメージもありましたが、今では添加物不使用をうたうものもあり、「コンビニスイーツ」という言葉が誕生するくらいコンビニブランドが定着してきました。6次産業化がはじまった時には「農家のこだわり」と言って売れる時代もありましたが、今はそれだけでは通用しません。コンビニの隣で同じ商材を売っても売れるかどうか。コンビニで売っているものより高い場合は、なぜ高いのかをひと言で説明できる。そのくらいの覚悟が必要になってきました。
マーケティング戦略、広告、デザイン、価格の面でみると、資本力があるところにはかないません。しかし、歴史ある農業ならではの強みもあります。それは長年培ってきた「農」のイメージです。
例えば、「コンビニのパティシエ監修スイートポテト」と「芋農家のスイートポテト」だと、どちらが魅力的に感じるでしょうか。今だと圧倒的にコンビニの方だと思います。では「コンビニの焼き芋」と「芋農家の焼き芋」だとどうでしょう、この場合は農家と答える人が多いのではないでしょうか?
このように、まずは勝てるところで勝負することが鉄則。それを続けていくと「農家の」ではなく「◯◯さんの」という個人ブランドが確立されていきます。そうなってくると、今度は何を作っても販売先に困らなくなります。私が風来をはじめた当初から「源さん」と名乗っているのも、その個人ブランドを確立したいという思いがあったからです。
温故知新に活路
農家の強みのひとつに昔から伝わる「伝統食品」があります。たとえば漬物。先の例で言うと、「コンビニの漬物」と「農家の漬物」だと、農家の方に軍配があがるのではないでしょうか?
我が風来でも加工のメインは漬物になります。その中でも酒かすで漬けたキュウリのかす漬けやタクアン、こうじ漬けなど昔からあるものは根強い人気で、それだけ理由もあると思っています。ただ、昨今は若い世代の漬物離れが進んでいて、このままでは先細りするのではと、以前から心配していました。
そんな中でも、風来へ視察に来た若い世代に試食の漬物を出したところ「うまい、うまい」と残さず食べる人がほとんど。そこで漬物、特に伝統漬物について聞いてみたところ「どう食べていいか分からない」「かすを落としたり切ったりするのが面倒くさい」「1袋食べきれない」という答えが返ってきました。
このことをヒントに、最初からひと口大に切って、まわりの酒かすごと食べられる味付けにしたキュウリのかす漬けを販売したところ、人気商品になりました。意外だったのが年配の人にもとても評判がいいこと。邪道だと叱られると思ったのですが、やはり年配の人も面倒くさいと思っていたようです。
別のかす漬け専門店では、かす漬けとクリームチーズを合わせたものがヒット商品とのこと。日本酒だけでなくワインとも合うということで外国人にも評判なのだといいます。試行錯誤はあったに違いありませんが、こうした成功はかす漬けの可能性を信じていたからこそ生まれたものだと思います。
また、北陸の冬の伝統漬物で風来でも作っているのがこうじ漬け。そのこうじ漬けをラーメンにのせた「大根こうじ漬けラーメン」が冬のご当地グルメとなっています。最初は「本当においしいのだろうか?」と疑っていたのですが、これがやってみるとおいしくて、十分ありだと思いました。そこで「こうじ漬けラーメンの素」としてこれまでの「こうじ漬け」と内容は変えず、作り方・食べ方の動画案内とともに販売してみたところ、バカ売れとまではいきませんが、これまで買ってくれなかった若い世代が買ってくれるようになりました。また、それをキッカケに他の漬物も売れるということも。
長年食べてこられたものにはそれだけの理由があります。つまりポテンシャルがとても高い。提案次第で可能性はまだまだあると実感しています。先にライバルはコンビニと書きましたが、ひとつ違うのはコンビニほど大量に売る必要はないということです。できた分だけ売れればいい。こだわりを明確にした上でSNSなどを使い、食べ方などフォローする。そんな、大手にはできない小さい農家だからできることこそが、勝てる6次産業化のヒケツだと思います。
次回は、6次産業化をはじめるにあたって準備しておくべきことや、失敗しない設備投資についてお話しします。