効率化しながら栽培技術や経営を引き継ぐため

たねっこの事務所兼ライスセンター
たねっこは2005年、5つの集落営農組織が合併して誕生した。まずは、その経営の概要を伝えたい。
組合員数は128人。経営耕地面積は約300ヘクタール。大仙市協和にある事務所はライスセンターを併設する。道を挟んだ真向かいには1枚当たり平均して1ヘクタールの田んぼが広がる。耕作する農地はほぼこの範囲に収まり、点在していないのが特徴だ。
品目ごとの作付け面積は稲が170ヘクタール、大豆が110ヘクタール、残りは野菜だ。収穫した稲と大豆は全量をJAに出荷する。野菜は青果物としてだけではなく、自社で冷凍品に加工して学校給食や青果卸に販売している。
ほかの集落営農組織と同じく、たねっこもまた組合員が高齢化して、作業をする人たちが不足していた。そこで20~40歳代の7人を社員として順々に雇ってきたが、今度は限られた人員の中で作業効率を上げながら、新しく入ってきた社員に栽培技術や経営を引き継ぐという課題に直面した。それを解消する一つの手段として試したのが、今回の主題である「スマート農業」だ。
水稲で資材費29%減、大豆で作業時間6%減

たねっこの代表・工藤さん
2019年度に農林水産省の「スマート農業実証プロジェクト」に採択され、トラクターの操縦で人がハンドルを握らなくても自動で直進や旋回をする自動操舵装置やラジコン草刈り機などを試した。結果、水稲では高密度播種(はしゅ)苗と自動で直進する機能が付いた田植え機を利用して、資材費を29%減らした。大豆では、自動操舵とスタブルカルチ(粗耕起作業機)の組み合わせで粗耕起から培土までの作業時間を6%減らした。工藤さんは「確かに作業効率は良くなった」と認める。
ただ、「スマート農業は効率を上げるためだけのものだと捉えていてはもったいない」と付け足す。「集めたデータを基に営農を考える力がついてくる。経営者としては、むしろそっちのほうが大事なのかなと感じている」
データを考える材料に、PDCAを回す
たねっこはスマート農業実証プロジェクトと連動して、水田1枚ずつにかかった各作業時間のほか、投じた農薬や肥料の種類や日時など、人為的な営農行為に関する「管理データ」を2年かけて集めた。一連のデータはクラウドで一元的に管理している。
プロジェクトが終わったいま、集めた圃場(ほじょう)別のデータを基準値にして、作業の改善を図っている。今後も変わらずにデータを収集して、基準値と比べて、より良い結果を出せたのかを確認する。もし出せていないのであれば、その原因を究明して、次年度に生かしていく。つまりデータを基にPDCAを回していくわけだ。
たねっこはスマート農業実証プロジェクトに採択される以前から、ドローンによる圃場の空撮も始めている。撮影した画像を基に、地力のムラに応じて色分けした地図情報を作ってきた。そのデータを踏まえて、一枚の田んぼの中でも量を微妙に調整しながら肥料を散布する「可変施肥」という技術を試している。水稲では収量が5%上がるという結果を出せた。
「結局、スマート農業で大事なのはデータ取りなんだよ。データがなければ過去と比較ができないし、改善できないから」(工藤さん)
後継者の育成にも有用
データを取ることと農機の自律走行は後継者の育成という意味でも有用だという。「データがあれば圃場ごとの性格を分かってもらえるからね」と工藤さん。自律走行については「手放しでもまっすぐに走るから、操縦席の人はたとえば稲の植え付け本数や深さなんかを観察する余裕が生まれる。いまの状態が良いのか悪いのかを認識して、試行錯誤することで考える力が付く」と説く。
スマート農業は導入費が高額とされる。ただ、その価値を多面的に捉えている工藤さんは「決して高いとは思わないな。要は使い方次第なんじゃないか」と話している。