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それまでの常識と全く違った土づくり 海外の農業コンサルタントが指導する「考える農家」集団

山口 亮子

ライター:

連載企画:連続講義 土を語る

それまでの常識と全く違った土づくり 海外の農業コンサルタントが指導する「考える農家」集団

北海道に10支部を置き、250人のメンバーを擁する農家組織がある。その名もSRU(Soil Research Union、土壌研究組合)。農家自身が土を科学的に捉え、健康な農産物を生産し、持続可能な農業を実践すると掲げる「考える農家」の集まりだ。設立30年超ながらも、30代~40代前半の若手農家が多い。いったいどんな活動をしているのか。

微量要素まで考慮した科学的な土づくり

北海道に農家自身が土を研究する組織がある。肥料の三要素である窒素、リン酸、カリだけでなく、必要量がごくわずかのマンガン、ホウ素といった微量要素まで考慮して土づくりをしているらしい。こう聞いて、農家組織・SRUの創設メンバーで事務局長を務める株式会社大野ファーム(河西郡芽室町)代表取締役の大野泰裕(おおの・やすひろ)さん(冒頭写真)を訪ねた。

大野さんは肉牛4000頭超を飼育し、130ヘクタールでビートや麦、大豆、飼料用のデントコーン、牧草などを生産する。SRUの結成に至ったきっかけは、大野さんが1990年に実習で訪れたオーストラリアの牧場で、農学博士で農業コンサルタントのエリック川辺(かわべ)さんと出会ったことだった。

川辺さんは、東京都出身で、東京農工大学農学部卒業後にニュージーランドに渡り、マッセイ大学で草地管理学専攻の修士課程を修め、同国とオーストラリアをはじめとして世界各国で農業コンサルタントとして活躍している。

特に、正確な土壌分析に基づく、バランスのとれた土づくりの指導を得意としている。土と作物、家畜という三つの要素は、日本ではぶつ切りにして個別に扱われがちだ。それに対して川辺さんは、これらの三つが織りなす生態系全体の改善を目指す。「土を科学的、総体的(holistic、ホリスティック)に捉える」というのが、その指導の特徴だ。

大野さんは当時、土には詳しくなく、川辺さんの話にも理解が追い付かない部分が多かったが、科学的な土づくりという考え方に共感する。1990年、北海道の若手農家5人でSRUを立ち上げ、川辺さんの指導を仰ぐようになった。

日本では都道府県の普及指導員や、JAの営農指導員が無料で営農指導をしてくれるのが当たり前になっている。が、大野さんたちは欧米の農家は自己負担で農業コンサルタントから指導を受けているらしいと聞いていた。そこで、互いにお金を出し合って、指導を受けることにしたのだ。

大野ファームの牛舎(左)とひまわり畑

「リン酸はいらない」30年前に時代の先を行く指導

川辺さんの語る土づくりは「それまでの常識と全く違った」と大野さんは言う。国内には、リン酸肥料を施し過ぎてリン酸過剰に陥っている畑が多い。このことは、今でこそ知られるようになってきたが、30年前はそうではなく、大量のリン酸肥料を畑に施すのが農家の習慣になっていた。大野さんが川辺さんに土壌診断を依頼したところ、リン酸を施さなくてもいいと言われる。

「びっくりしました。当時、つまり今から30年前は、リン酸を大量に入れないと作物がとれないと言われていたので。『あり得ない!』と思って」(大野さん)

行政やJAが行っていた一般的な施肥の指導は、窒素、リン酸、カリの配合肥料を面積当たり何袋施しなさいというものだった。ところが、川辺さんが土壌診断を踏まえて出す施肥設計は、配合肥料を前提にしていない。大野さんたちSRUのメンバーは、それまでに経験したことのない指導の数々に、目からウロコの連続だった。当初は、施すように指定された成分を含む肥料をどこで調達できるか、自分たちで調べなければならなかった。

SRUのパンフレット(右)。指導の原則は「独立」、つまり肥料・農薬のメーカーや販売者の代弁はしないということだ。SRUは2021年、エリック川辺さんの著書「生態系農業の基本 Eco-System Farming~土のミネラルバランスを基にする農業~」(左、2019年発行)を電子書籍化した

大野ファームの土づくりは「牛ふんと麦わらで作った堆肥(たいひ)を有効活用しながら、足りないものをきちっと入れていくという形」をとっている。カルシウム、マグネシウム、カリ、銅、亜鉛、マンガン、ホウ素などを使って土中のバクテリアを活性化させ、ミネラルバランスを調えて、土の健康を維持する。

同社の経営では、川辺さんの指導を受ける前後で肥料費自体は大きくは変わらなかった。費用の増える畑と、減る畑に分かれたからだ。指導の効果としては、畜舎で出る堆肥を畑に施用するため、どのくらいの量を施すか根拠を持って決められるようになったのが大きいという。肥料の施用量が減った、病虫害が減ったというメンバーも少なくない。

大野ファームでは牛ふんと麦わら(写真右奥)で堆肥を作る。麦わらの一部は、十勝の農家からもらったもので、代わりにできた堆肥を畑で使ってもらう。2021年から、ふん尿をメタン発酵させて発電するバイオガス発電も始めた

土壌診断と現地研修、大会が活動の柱

SRUの活動の柱は三つある。一つ目は、川辺さんに依頼して土壌診断に基づく処方箋を作ってもらうこと。農家自身が圃場(ほじょう)で土壌サンプルを採取し、支部を通じて川辺さんの提携先のラボに送って分析してもらい、それを踏まえて川辺さんが処方箋を作成する。二つ目は、川辺さんが毎年夏に北海道を訪れて農業現場と座学で指導する研修。三つ目は大会で、支部ごとの大会と、冬に開かれる全道大会がある。

農家が負担する活動費は、土壌分析のサンプル数によって大きく変わる。メンバー1人当たり年間およそ10~20万円という。なお、メンバーの内訳は、畑作農家と畜産農家が半々くらいだ。

コロナ禍で集まるのが難しかった2021年は、Zoomを通して圃場も見ながら研修をした。2022年には、コロナ禍により開催できていなかった30周年記念の大会を開く見込みだ。
今では道外の農家から、SRUの活動に関心を持たれることも多い。関東や九州で、SRUのような組織を作って、川辺さんの農業指導を受けたいと検討している農家もいるそうだ。道内で30年をかけて「考える農家」仲間を増やしてきたSRU。その志が本州以南にまで広がっていくのが、今から楽しみだ。

大野ファーム
https://oonofarm.jp/

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