8割を多様な販路で直売、コロナ禍でも売り上げ変わらず
「100万羽を飼うような大手の養鶏場があって、最大手に至っては1000万羽を超えている。大手と戦うには、その人たちができないような武器を持たないといけない。それがアニマルウェルフェアへの対応であり、地元で作った飼料用米をエサに使うということ」
鈴木養鶏場の創業者で代表取締役会長の鈴木明久(すずき・あきひさ)さん(冒頭写真)がこう話す。その手には自社のブランド卵の一つ「豊の米卵(とよのこめたまご)」を紹介するボード。大分県産の飼料用米をエサにし、鶏ふんを堆肥(たいひ)にして田んぼの肥料にする循環システムを構築していて「人と環境にやさしい にわとりにもやさしい」とうたう。
同社が生産する卵のうち、問屋に卸すのは2割のみで、残り8割は直売だ。飼料用米を含んだエサの違いと、アニマルウェルフェアに配慮した飼い方の違い、それに鮮度の違いで差別化し、ファンを獲得してきた。
「生産者が流通を握らなければ、儲けを中間業者にとられてしまう。だから、うちは直売をする。生産者から消費者にダイレクトに届ける方が、消費者にとっては鮮度の良い卵が手に入るし、うちにとっても収益が増えていい」(鈴木さん)
すずらん食品館という自前の店舗を本社農場の脇に構え、ここで卵やロールケーキ、シュークリーム、卵サンドに卵焼きなど、さまざまな商品を販売する。店頭に並ぶ卵は当日か前日に産み落とされたばかりで、売れ残るとすぐに加工品にする。同社の売り上げ7億5000万円のうち2割弱は、すずらん食品館で稼ぎ出す。

人気商品のシュークリームやロールケーキ。すずらん食品館で
取引先は百貨店やスーパー、飲食店、生協などさまざまある。その理由を鈴木さんが説明する。
「『とにかく卵を作る』というだけじゃなくて、販売の間口を広げているわけ。販路を増やしたり加工したりすると、手間がかかるしノウハウを蓄積しないといけないしで本当は面倒で、単純に卵を問屋に出すのが一番効率がいい。でも販売の間口を広げておくと、いいことがあるんだ。このコロナ禍でも、売り上げが全然減っていない」
取引先の中には、出荷量が半減したり、10分の1に落ち込んだり、倒産したりするところもあった。だが、家庭内での消費が増えたため、すずらん食品館やスーパーでの販売量はむしろ増えている。

すずらん食品館を昼時に訪れると、さまざまな総菜が次々と売れていった
鶏舎の8割がアニマルウェルフェア対応
鈴木養鶏場がそれまでの鶏舎をアニマルウェルフェアに対応した「エンリッチドケージ」に切り替え始めたのは、2008年のことだ。国内の養鶏業者としてはかなり早かった。日本の養鶏はそれまで経済効率を追求し、ニワトリ1羽当たりの面積を狭くする一方だった。
エンリッチドケージはヨーロッパで生まれたもので、ケージ内に止まり木や爪とぎ場、落ち着いて産卵するためのエリアなどを備えている。アニマルウェルフェアの指針となっているのが「5つの自由」であり、それを満たすケージになっている。5つの自由とは、①飢え、渇き及び栄養不良からの自由、②恐怖及び苦悩からの自由、③物理的及び熱の不快からの自由、④苦痛、傷害及び疾病からの自由、⑤通常の行動様式を発現する自由──だ。
鈴木養鶏場では1羽に750平方センチ以上の空間を確保していて、これは国内の通常の養鶏の2倍以上の広さという。アニマルウェルフェア対応にすることで1羽当たり3倍の経費がかかるが、必要経費だと考え、鶏舎を更新するたびにエンリッチドケージを導入した。そのため、9棟ある採卵鶏の鶏舎の実に8棟がアニマルウェルフェアに対応済みだ。
ただしヨーロッパではその後、5つの自由以上の要求がされる流れにあり、ケージ飼いが批判を受けて規制の対象になり、平飼いや放し飼いが理想とされるようになってきた。だが鈴木さんはこの流れを「ケージ飼いが病気の予防のための革命的な技術として生まれた過去を無視している」と受けとめている。過去に20年間平飼いをした経験から、ケージ飼いの優れた点を痛感しているという。
「日本は特に卵を生食する文化だから、卵とふんが触れ合わないように離さなければならない。ただでさえ高温多湿で、今後温暖化が進むことを考えると、衛生的な卵の安定供給はケージなくしては不可能」
こう考えているのだ。

エンリッチドケージ(画像提供:鈴木養鶏場)
飼料用米を地元農家と直取引、そのメリットは
同社で飼育するすべてのニワトリには飼料用米をエサとして与えている。給餌する穀物の6割が飼料用米だ。
「アメリカ産のトウモロコシを与える業者がほとんどの中で、うちは大分県内の田んぼで飼料用米を作ってもらって、自前で集荷して自家配合する。去年は2000トンを集荷した」と鈴木さん。ただし、飼料用米は年によって豊凶のブレが大きいため、輸入したトウモロコシもエサにする。
飼料用米は、信頼関係の構築と中間マージンの節約のため、農家と直取引する。飼料用米をエサにし、鶏ふんを堆肥にして生産農家に使ってもらうことで、地域内で資源を循環させる。
自家配合は集荷や貯蔵、配合などの手間がかかり、配送や備蓄のための車両や施設も整えたため、市販の配合飼料に比べると10%以上はコストがかかるという。だが、卵の付加価値を高めてブランド化したことで、コストの増加分を吸収できている。

消費者のニーズを満たせるよう、卵にはさまざまなラインアップがある。写真は若い採卵鶏が産んだ小さめの「ちびたま」
鈴木養鶏場は、今後も新たな展開を予定している。
「2022年のうちに、すずらん食品館をHACCP(ハサップ ※)に対応した、今の3、4倍の広さの新店舗にしたい。採卵鶏の鶏舎でアニマルウェルフェアに対応できていない残りの1棟も、次の更新で対応させる」
地元から愛される養鶏場の進化は続く。
※ 食品衛生管理の国際基準。
有限会社鈴木養鶏場
https://www.suzuki-egg.jp/