自前で培養しにくい光合成細菌の安価な培養キットを開発
■古賀碧(こが・あおい)さんプロフィール
株式会社Ciamo代表取締役社長。崇城(そうじょう)大学大学院工学研究科博士後期課程の応用生命科学専攻で、光合成細菌を研究している(2022年3月卒業)。学部生のころに同大の「起業部」に入部したのがきっかけで、光合成細菌の培養キットを製造、販売するようになる。2018年に株式会社Ciamoを設立。農業だけでなく、エビの養殖や観賞魚向けの商品開発も手掛けている。 |
――古賀さんは光合成細菌を研究しつつ、事業化もしたのですね。
はい。私の所属している崇城大学大学院の研究室は、光合成細菌の農業や水産業への活用を研究しています。そのため、もともと光合成細菌の研究をしていました。光合成細菌は、水たまりや田んぼの中など、さまざまな場所にいる微生物です。名前の通り光合成で、光を使って増えるんです。コメや果菜類の根張りを良くしたり、収量や品質を向上させたりといった効果があります。
光合成細菌には、空気中の窒素を作物が吸収できるアンモニアに変換する「窒素固定」の働きもあります。天然の窒素肥料みたいな役割を果たすので、化学肥料を減らすことができます。
同じ微生物資材だと、納豆菌や乳酸菌は培養しやすいですが、光合成細菌は結構難しいです。培養に成功すると鮮やかな赤色になるので「赤菌」とも呼ばれますが、自前で培養したらちゃんと赤くならなかったという悩みを農家から聞きます。繊細な微生物で、温度だけじゃなく光の管理もしないといけないので、扱いが難しいところはあります。
資材として売られている光合成細菌もありますが、10リットル当たり3000円から5000円くらいします。私たちが販売する培養キット「くまレッド」(冒頭写真)だと、光合成細菌を10リットル当たり1000円以下の値段で増やすことができるので、たくさん使いたいからと、このキットを買って増殖する農家が多いです。500ccの光合成細菌と、500ccの培養液をセットにしていて、キットの中身と水道水を混ぜ合わせて日光のよく当たるところで培養すれば、光合成細菌を50リットル作ることができます。
焼酎かすに付加価値を生み光合成細菌をより低コストに
――くまレッドの主成分で、光合成細菌のエサになる焼酎かすはどんなものですか。
焼酎を蒸留した後に残った液体で、90%以上が水分です。栄養価は高いけれど腐りやすいので、これまでは肥料か家畜のエサである飼料としてのみ使われてきました。その場合の取引価格がとても安いので、付加価値を高めたいと考えているんです。
――焼酎に注目したきっかけは。
球磨(くま)焼酎の焼酎かすを使って研究してみたらと蔵元に言われたのがきっかけです。私は熊本県の人吉(ひとよし)・球磨地域の出身なんです。大学2年生の時に起業部という部活が学内に設立されたので、そこに入部して、何か地元の力になれるようなプロジェクトをしたいと考えました。
地元といえば球磨焼酎。最初は、球磨焼酎と熊本県産の果物を使ったリキュールの商品開発と販売を手掛けました。蔵元と話をする機会が増えて、焼酎かすの課題を知りました。所属する研究室が光合成細菌を研究していたこともあって、焼酎かすをエサにして光合成細菌を培養するという研究テーマが生まれたんです。
――焼酎かすが培養に使えるはずだとすぐ分かったんですか。
始めた当初は光合成細菌を増やせるかどうかも分からなくて、半信半疑でした。それが、やってみると増殖したんですね。光合成細菌はクエン酸やグルタミン酸、リンゴ酸といった有機酸を好みます。焼酎かすにはそういった光合成細菌が好む成分が含まれているので、増殖しやすいんです。
さまざまな場所の土から50種類くらいの光合成細菌をとってきて、焼酎かすで増えやすい光合成細菌を探しました。焼酎かすそのものは培養に使うには濃すぎるので、増殖しやすい配合を研究して、どのくらいの濃度でどのくらいのpHにするかを研究し、くまレッドを作りました。
くまレッドで使う光合成細菌は2種類いて、球磨郡と八代市でとったものです。くまレッドに使う焼酎かすは、飼料や肥料にする場合の数倍の価格で買い取っています。
減農薬農家や特別栽培農家の利用多く
――光合成細菌の効き目はどうなのでしょう。
作物で違いが出ます。コメやイグサといった水を張って育てる作物は、効果が見えやすいです。水が張ってある土壌だと硫化水素というガスが発生しやすく、作物の根が腐ったり、養分をよく吸収できなくなったりします。光合成細菌が硫化水素をよく分解することで、これを改善してくれます。
光合成細菌は湿った土壌でないと、活発に動き回ることができないんですよ。なので、トマトやキュウリといった畑作物だと、土壌が乾燥していて光合成細菌があまり元気に働けません。そのため畑作だと、生きている光合成細菌の効果があるというよりは、光合成細菌の持つ成分が、作物の生育を良くする役割を果たすと言えます。
――そうすると、くまレッドはコメ農家から一番引き合いがあるんですか。
そうですね。でも、イチゴやトマトといった果菜類の農家も多いです。
田んぼで使う場合は、水口から光合成細菌を流し込みます。殺菌剤などと一緒にまくと光合成細菌が死んでしまうので、絶対に別にして、1週間くらい間隔をあけてまいてもらいます。
果菜類は1000倍に薄めて葉面散布をしたり、かん水チューブで流し込んでもらったりします。葉面散布は、光合成細菌を単体でまくと作業の負担が増えて大変なので、農薬と一緒に噴霧器でまいても大丈夫です。畑作の場合、光合成細菌が生きていても死んでいても同じような効果があるので。生きたものをまいても、乾燥した環境ではほとんど死んでしまうんです。死後に放線菌(土壌中に生息する細菌の一種)のエサになるなどして、他の良い働きをする微生物が増えたり、光合成細菌の持つ成分が刺激になって作物の生育が良くなったりします。
顧客である農家は北海道から沖縄まで、全国にいます。減農薬や特別栽培を手掛ける農家が多いですね。
今は農業だけでなく、エビの養殖や観賞魚といった水産業向けの商品開発もしています。今後は研究開発にこれまで以上に力を入れて、事業を拡大していくつもりです。